会員誌『カラフル』にて連載のコラム。
日々の暮らしの中で気になる症状や、季節の変わり目のお悩みに
佐々木欧先生がやさしくアドバイスしてくれます。
2021.12.07
骨粗しょう症(骨粗鬆症)ってなあに?
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糖尿病で通院中のFさん(57歳、女性)。健康診断で、骨粗しょう症の予備軍と言われました。更年期のホットフラッシュ(のぼせ・ほてり・発汗)がようやく落ち着いたところで、寝耳に水のようでした。
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Q.骨粗しょう症って、どんな病気ですか?
A. 骨がやせてスカスカになり、骨折しやすい状態です
骨は鉄筋コンクリートのような構造をしており、縦横に走るコラーゲン繊維を支柱として、隙間をカルシウムがセメントのように埋めています。骨粗しょう症では、セメント部分が剥がれ落ちてスカスカになり、支柱も緩んで骨の強度が失われています。脆弱(ぜいじゃく)性骨折といって、ちょっとした衝撃でも骨折をしやすい状態です。
骨粗しょう症は加齢に伴い徐々に進行しますが、骨折するまで気付かれないことも多いです。脆弱性骨折の既往や家族歴、飲酒、喫煙、ステロイド内服、運動不足、糖尿病といった生活習慣病なども、骨折のリスク因子として知られています。
骨折・転倒は、認知症、脳卒中、フレイルと並んで、介護が必要となる原因の上位を占めており、予防が大切です。フレイルとは、加齢に伴った運動・認知機能低下といった、全般的な心身の機能低下を総称したものです。 -
Q.どういった骨折が多いですか?
A. 手足や背骨など、荷重を支える大切な部位の骨折が多いです
転んで手をついた際に手首の近くを骨折したり、転倒時の衝撃で足の付け根を骨折する場合が多いです。頭の重さを支えきれずに背骨が潰れることも多く、圧迫骨折と呼びます。
圧迫骨折は徐々に進んだ場合には痛みもなく、いつの間にか身長が縮んでいるといった具合ですが、尻餅をついた衝撃で急に潰れると、起き上がる際に背中に激痛が走り、動けなくなってしまうこともあります。 -
Q.よくある病気でしょうか?
A. 閉経後の女性に多い病気です
骨量は男女ともに20歳前後でピークを迎えます。40歳半ばまで維持され、その後緩やかに減少します。女性は閉経前後の数年で急速に減少し、男性も70歳前後を境に急減します(図)。若い世代の骨量を基準値として、80% 以下を骨量減少と呼び、70% 以下を骨粗しょう症と呼びます。女性では50代の20人に1人が骨粗しょう症に該当し、60代では5人に1人、70代以上では2人に1人と推計されています。男性も特に70代以上は要注意です。
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Q.どんな検査をしますか?
A. 内科や整形外科で、レントゲンを使って骨の密度を調べます
骨はカルシウムが豊富なため、レントゲンで白く写ります。その濃淡で骨密度を測ります。腰椎や、左右どちらかの大腿骨の付け根で測るのが一般的ですが、手首近くの橈骨(とうこつ)で測る場合もあります。超音波を用いてかかとで測る簡易法もありますが、誤差が大きいため診断にはレントゲン撮影が必要です。
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Q.治療について教えてください
A. 飲み薬が標準的ですが、注射薬もあります
飲み薬のビスホスホネート製剤を主軸に、ビタミンD を併用するのが一般的です。皮下注射や点滴の薬もあり、状況に応じて使い分けます。
ビスホスホネート製剤は、飲み方にいくつか注意点があります。週に1回、もしくは月に1回内服する薬のため、カレンダーに印をつけておくのがおすすめです。また、空腹でないとほとんど吸収されないうえに、逆流すると食道をいためやすいため、起床時にコップ一杯のお水で飲んで、30分間は食事も避け、横にならずに座ったり立ったりして過ごす必要があります。 -
Q.予防について教えてください
A. 食事と、日に当たりながらの運動が大切です
食事では、カルシウムの豊富な乳製品や骨ごと食べられる小魚だけではなく、ビタミンD の豊富なキノコ類も一緒に摂りましょう。ビタミンD は日光に当たることで皮膚でも作られ、腸でのカルシウム吸収を促したり骨を丈夫にする働きもあります。骨の支柱となるコラーゲン繊維はタンパク質なので、原料となる肉・魚・卵・大豆製品などもあわせて摂りましょう。タンパク質は筋肉の原料でもありフレイル予防にも重要です。筋力を保つことで骨を補助してくれます。
宇宙飛行士はステーション滞在中に骨密度が急速に低下することが知られています。丈夫な骨を保つには重力の負荷が欠かせないことや、骨に振動を与えることが大切だとわかってきました。歩く際には足を引きずらないで、太腿を上げるように意識して、かかとから着地してトントンと振動を与えるのがおすすめです。 -
骨を守る食事についても相談したFさん。夫も身長が縮んでいたので、骨密度計測の相談をしようと思いますといいながら帰ってゆきました。
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治療に備えて、歯の衛生を保ちましょう
ビスホスホネート製剤は、まれに死という重大な副作用を起こします。口腔内の不衛生や、抜歯などのいくつかの複合的な条件で起こり、細菌感染を伴って痛みや腫れ、膿などの症状がみられます。プラリアといって、半年に1回皮下注射する薬でもまれに起こる副作用です。
抜歯やインプラントなど、歯の根にさわる治療の際には、数カ月前から休薬するのが望ましい場合もあるので、必ず歯科にも相談しておきましょう。内科と歯科で連携し、治療のタイミングを工夫することによって、リスクを下げることができます。虫歯を削るなど、表面の処置の際は継続したままで問題ありません。
佐々木欧(ささき・おう)
医師。東大病院で長年アレルギーやリウマチ(膠原病)の診療に従事。
現在は秋葉原駅クリニックで内科全般の診療を手がけている。
生活のなかで実践できるセルフケアの開拓や患者さんの不安を軽くできる、やさしい医療を目指している。