欧先生の診察室

会員誌『カラフル』にて連載のコラム。
日々の暮らしの中で気になる症状や、季節の変わり目のお悩みに
佐々木欧先生がやさしくアドバイスしてくれます。

2022.09.06

糖尿病ってなあに?

  • 久しぶりに受けた健康診断で糖尿病の疑いといわれ、相談にきたS さん(67歳、男性)。コロナ禍で、しばらく健康診断を受けそびれていたそうです。以前に比べて、脂肪肝や中性脂肪の高値も悪化していました。追加の採血検査で糖尿病の診断となり、治療が始まりました。

  • Q.糖尿病の人は、どのくらいいますか?

    A. 年々増加傾向で、予備軍も含めると男性の5人に1人、女性の10人に1人が該当します

    令和元年の全国調査では、糖尿病の治療中もしくは予備軍の人は、男性の19・7%、女性の10・8% を占めました。この割合は男女ともに年齢が上がるにつれて増加傾向がみられ、特に女性で顕著です。男性の50代で17・8%、60代で25・3%、70歳以上で26・4% でした。女性は50代で5・9%、60代で10・7%、70歳以上で19・6% に上ります

  • Q.糖尿病は、どんな病気ですか?

    A. 高血糖のために血管の老化が進み、あちこちに障害を起こす病気です

    糖尿病では、膵臓から分泌されるインスリンが十分働かないために、血液中に糖があふれてしまいます。あふれた糖は、血管を構成するタンパク質と結合してAGEs(終末糖化産物)を形成し、老化を引き起こします。
    老化した血管は硬くなって目詰まりを起こしやすくなったり、しなやかさを失って破けやすくなります。すると体のすみずみの血流が低下して、様々な臓器に障害を起こします。

  • Q.どういった臓器に問題を起こしますか?

    A. 末梢神経、眼、腎臓の三か所が代表的です

    糖尿病は、細い血管が障害を受けることで起こる3つの合併症が特徴的です。末梢神経が障害を受けると、手足が痺れているように感じたり、感覚低下から皮膚トラブルを起こしやすくなります。眼の奥の網膜の障害で視力に影響が出たり、腎機能低下を起こすこともあります。他にも、心筋梗塞や脳卒中、感染症やがんのリスクが高まることも知られています

  • Q.どういう人が糖尿病になりやすいですか?

    A. 高血糖、運動不足、肥満、加齢や家族歴などが発症のリスク因子です

    高血糖を繰り返し、運動不足も重なって肥満に陥ると、脂肪細胞から悪玉の伝達物質が分泌されるようになります。その結果、インスリンの効きが悪くなってしまうことが知られており、インスリン抵抗性と呼ばれています。
    日本人は欧米人に比べて膵臓からのインスリン分泌能力が低いため、インスリン抵抗性が分泌量を上回りやすく、軽度の肥満でも糖尿病を発症することが知られています。年齢を重ねると糖尿病の発症リスクが高まるため、特に糖尿病の家族歴のある人は年に一回は健康診断を受けて、早期発見して治療へとつなげることが大切です。
    他にも、免疫の異常で膵臓の細胞が破壊されて、インスリンを分泌できなくなって糖尿病を発症したり、薬の副作用で発症する場合もあります。

  • Q.どんな初期症状がありますか?

    A. 初期の頃は症状に乏しく気づかれにくいです

    糖尿病は、高血圧や高脂血症などと同様に、発病したての頃は症状に乏しい病気です。病気が進行して高血糖が続くようになると、血液中の過剰な糖を尿に捨てるためにたくさんの尿が出ます。その結果、トイレが近くなり、喉が乾いて水分を多く取るようになります。

  • Q.尿がたくさん出るので、脱水予防にスポーツ飲料を飲んでいます

    A. 高血糖となり逆効果です水やお茶にかえましょう

    スポーツ飲料にも糖分が非常に多く含まれるため、飲めば飲むほど尿が増えて脱水が悪化します。これは糖尿病だと気づいていない人が陥りやすい、とても危険な状況です。
    普段飲むのは糖分の入っていない水やお茶にして、脱水症の場合には経口補水液を少しずつ取りましょう。経口補水液には塩分が多く含まれていますので、高血圧の人はとりすぎないように注意が必要です。

  • Q.増える一方だった体重が、何もしていないのに減り始めていました

    A. 糖尿病の病状が悪いために、体重が減ることがあります

    糖尿病が悪化してインスリンが十分に働けないと、糖を分解してエネルギー源とすることができなくなってしまいます。すると、糖の代わりに筋肉などのタンパク質や、内臓脂肪などを分解してエネルギー源とするため、体重が減ることがあります。肥満で悩んでいた人にとっては体重が減るのは嬉しいことですが、それとは裏腹に病状が深刻な場合が多いため注意が必要です。

  • Q.食事で気を付けられることはありますか?

    A. 野菜などで食物繊維をよくとって、血糖値の上昇を緩やかにしましょう

    糖尿病の治療では、インスリンを分泌する細胞が疲弊しないように守ることが大切です。細胞を休ませるために、血糖値の急上昇を避けてインスリンの分泌量を減らすことが重要です。
    GI 値(グリセミックインデックス)といって、食品ごとに血糖値の上昇度の目安を定めた値があります(表)。葉野菜や豆類、キノコ類などの食物繊維が豊富なものほどGI 値が低く、食後に血糖値が上がりにくい傾向があります。生活習慣病の予防には、食事全体の平均GI 値を45以下とするのが良いとされています。
    同じカロリー内でも、GI 値の低い食材を増やしましょう。まず野菜やタンパク質といったおかずから先に食べて、白米や小麦粉のパン・パスタといったGI 値の高い主食は最後に食べるといった工夫もおすすめです。

  • いつの間にか糖尿病になっていたなんて、コロナ禍でも健康診断は大切ですねと振り返ったSさん。飲み物はお茶にして、歩く時間を増やしますと言いながら、処方箋を受け取り、栄養指導の予約を入れて帰ってゆきました。

佐々木欧(ささき・おう)

医師。東大病院で長年アレルギーやリウマチ(膠原病)の診療に従事。
現在は秋葉原駅クリニックで内科全般の診療を手がけている。
生活のなかで実践できるセルフケアの開拓や患者さんの不安を軽くできる、やさしい医療を目指している。

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