欧先生の診察室

会員誌『カラフル』にて連載のコラム。
日々の暮らしの中で気になる症状や、季節の変わり目のお悩みに
佐々木欧先生がやさしくアドバイスしてくれます。

2023.03.07

脂肪肝ってなあに?

  • 健康診断の、肝機能検査で引っかかったCさん(50歳、女性)。腹部エコー検査で脂肪肝を指摘されました。体重は少し増えましたが標準体型で、お酒を飲む習慣もなく、腑に落ちない様子で相談に来ました。

  • Q.脂肪肝を放っておくとどうなりますか?

    A. 肝硬変や、肝臓がんを起こすことが知られています

    肝臓に脂肪が過剰にたまった状態を感知して、マクロファージという白血球が掃除をしにやってきます。その際に肝臓で炎症を引き起こすため、肝臓は火傷を負っては修復するという過程を繰り返すことになります。肝臓は自己再生能力が非常に高い臓器ですが、数年以上にわたって慢性的な炎症が続くと、修復を諦めて繊維化し、延焼を防ぐ防護壁を築いて硬くなり、肝硬変を起こします。肝硬変に至った部位は修復不可能な状況に陥っていますが、そこにさらに炎症が加わることで肝臓がんが発生すると考えられています。

  • Q.どういった症状がありますか?

    A. 初期は無症状なので、気づくことは非常に困難です

    肝臓には痛覚が存在しないとても我慢強い臓器のため、慢性的な炎症が起こっていても痛みなどの自覚症状で気づくことができません。肝臓や胆道系の炎症を反映して、採血検査でAST、ALT、γ -GTP といった項目が上昇して気づかれる場合がほとんどです。

  • Q.何か薬はありますか?

    A. 特効薬はなく、食事と運動が重要です

    現状は食事の改善や運動によって内臓脂肪を徐々に減らすことで、地道に脂肪肝を改善するほかありません。糖尿病や高脂血症などを合併している場合には、それらの治療薬を併用します。
    B M I (* )が25を超えるような肥満を伴っている場合には、体重を7% 以上減らすことで脂肪肝が改善することが知られています。健康寿命の観点からは痩せすぎも良くないので、BMI が22-24をめざしましょう。
    *B M I とは、体重(kg)を身長(m )で2回割った値で、痩せすぎや肥満などの目安となります。
    例:身長150cm、体重54kgの場合、BMI =54÷(1. 5×1. 5)=24

  • Q.お酒を飲まなくても脂肪肝になりますか?

    A. はい、非アルコール性脂肪性肝障害(NAFLD)といいます

    広島県と岩手県での5~10年間に及ぶ健診データを用いた調査報告(令和元年度)では、脂肪肝のうちアルコールをほとんど飲まない人の割合は85.8% と大部分を占めました。脂肪肝の診断は、腹部エコー検査や、CTなどの画像検査をもとに行います。
    脂肪肝は近年増加傾向にあり、日本の成人の約3人に1人が該当するといわれております。遺伝的な体質として、日本人は欧米人と比べて皮下脂肪として蓄えることのできる許容量が少ないため、体重があまり多くなくても脂肪肝になりやすいことが知られています。

  • Q.お酒以外では何が原因ですか?

    A. 糖質の摂りすぎが主な原因です

    ごはんやパン、麺類などの炭水化物や、スイーツ類などに由来する糖質の摂りすぎによる脂肪肝が多く見受けられます。特に、ジュースや清涼飲料水などの甘い飲み物は、少ない水分の中に大量の糖分が溶け込んでいるため注意が必要です。果汁100% のジュースであっても少量にとどめる必要があります。
    飢餓状態が日常茶飯事だった大昔からの習性で、私たちの体は余ったカロリーを、貯蔵に適した脂質へと作り替えて蓄えます。食物中の脂質だけではなく、余った糖質も肝臓で中性脂肪につくり替えて皮下脂肪として蓄えたり、内臓脂肪として肝臓の内部や胃腸の周囲に蓄えます。こうして肝臓に脂肪を過剰に蓄えた状態を脂肪肝と呼びます。

  • Q.炭水化物を食べない方が良いのでしょうか?

    A. 極端な糖質制限は、筋肉量を減らしてしまい逆効果です

    栄養不足がかえって肥満の原因となる場合があります。糖質はすぐに使えるエネルギー源であり、脳や筋肉などの活動に欠かせません。糖質の一部はグリコーゲンとして肝臓や筋肉に蓄えられていますが、不足すると代わりに筋肉を分解してエネルギー源としてしまうため、筋肉量が減ってしまいます。
    筋肉量が減ると、体の維持(基礎代謝)や運動時に消費されるエネルギー量も減るため、内臓脂肪を消費できずにむしろ蓄えがちとなってしまい逆効果です。さらに、筋力低下はフレイルといって、身体機能や認知機能の低下をも招き、寝たきりや認知症などのリスクを高めてしまいます。
    筋肉量を落とさないために、なるべく毎食タンパク質を摂るように心がけましょう。また、定期的な運動の習慣を持ちましょう。日常生活のなかでこまめに動き回るだけでも運動になりますので、座りっ放しを避けましょう。

  • Q.ダイエットも頑張っていたのにショックです

    A. 年齢的に代謝が大きく変わる転換期ですので、一緒に取り組んでゆきましょう

    脂肪肝は40代までは男性に多く見られますが、50代以降になると女性で急増します(図)。これは、更年期を経て女性ホルモンの分泌が減ることによって、全身の代謝が大きく変化することに由来します。同じ理由で、閉経後の女性では高脂血症や動脈硬化、骨粗鬆症といった病気も増えますが、貧血が解消されて元気に活動しやすくなるといううれしい変化もあります。平均寿命から眺めると更年期は人生の折り返し地点にあたり、まだまだ先は続きます。日々頑張ってくれている体をねぎらいながら、要所要所で予防をしてゆきましょう。

  • 昼は菓子パン1個だけで済ませていたというCさん。栄養不足がかえって肥満の原因になるなんてと驚いた様子でした。タンパク質が不足しがちな食生活を振り返り、3カ月後の再検査に向けて、運動も頑張りますと言って帰ってゆきました。

    脂肪肝対策の4 カ条
    ● アルコールだけでなく、過剰な糖質にも要注意
    ● 極端なダイエットは逆効果
    ● 不足しがちなタンパク質に注意
    ● 楽しんで続けられる運動習慣を

佐々木欧(ささき・おう)

医師。東大病院で長年アレルギーやリウマチ(膠原病)の診療に従事。
現在は秋葉原駅クリニックで内科全般の診療を手がけている。
生活のなかで実践できるセルフケアの開拓や患者さんの不安を軽くできる、やさしい医療を目指している。

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