欧先生の診察室

会員誌『カラフル』にて連載のコラム。
日々の暮らしの中で気になる症状や、季節の変わり目のお悩みに
佐々木欧先生がやさしくアドバイスしてくれます。

2023.06.06

子宮がん・卵巣がん、ってなあに?

  • 糖尿病と高血圧で通院中のKさん(60歳、女性)。何か変わったことはありませんでしたか?との質問に、そういえばおりものに血が混じっていたことを思い出します。閉経して久しく最初は勘違いかと思ったものの、何度かあって気になっていました。婦人科に紹介状を書きましょうと話が始まりました。

  • Q.どういった病気の可能性がありますか?

    A. 表面が荒れているだけのこともありますが、がんの初期症状の場合もあります

    手荒れがひどくなると血がにじむことがあるように、膣や子宮の表面が荒れると、おりものに血が混じります。手荒れのように物理的な傷による出血の場合もあれば、子宮にできたポリープやがんの症状として出血が見られる場合もあります。

  • Q.あまり気が進まないのですが、しばらく様子見してはダメですか?

    A. 大切なサインですので、放っておかないほうが良いです

    必ず婦人科に相談に行きましょう。仮にがんだったとしても、早ければ早いほど治療でコントロールが可能です。特に50~60代は、子宮体がんの好発年齢です。
    子宮体がんは、検診で予防することが難しいがんです。不正出血を機に見つかる場合が多く、早期のものが大部分を占めると報告されています。
    卵巣がんは40代以降に急増しますが無症状のことが多く、検診で予防することも難しいがんです。下腹部の違和感が続くなど何らかの症状があれば、必ず婦人科を受診しましょう。

  • Q.親しい友人は30代で子宮がんになりましたが、珍しいことだったのでしょうか?

    A. 若年女性に多いのは「子宮頸がん」です。こちらは近年、予防が可能になりました

    子宮がんには、若年で好発する子宮頸がんと、更年期以降に急増する子宮体がんとがあり、両者は全く異なる病気です。子宮頸がんは、性交渉で感染するヒトパピローマウイルスによって引き起こされることが解明されており、ワクチンでその大部分を予防することが可能となりました。
    感染する前に受ける必要があるため、子宮頸がんのワクチン接種には期限があります。また、ワクチンでは予防できないウイルス型も存在しているため、ワクチン接種後も定期的に子宮頸がん検診を受け続けることが大切です。

  • Q.がんかどうか、内科の採血ではわかりませんか?

    A. 腫瘍マーカーの値だけでは判断できません

    採血で調べられる腫瘍マーカーの値は、単独ではほとんど意味がありません。がんがあっても上昇しない場合や、がんがないのに上昇している場合もあります。他の検査結果と組み合わせて初めて意味をもつ値であり、診断の補助に使われています。

  • Q.どうやって診断しますか?

    A. 画像検査で見当をつけながら、細胞を採取して診断します

    がんと診断するには、実際にがん細胞がそこにいることを確かめる必要があります。エコー検査で子宮や卵巣の外観を観察し、異常がないか大まかな見当をつけます。子宮のように細胞を採取しやすい臓器については、細胞をとってきて顕微鏡で観察して診断します。卵巣のように容易に細胞をとってこられない部位のがんを疑う場合には、CT やMRI などの他の画像検査や、腫瘍マーカーの値なども組み合わせて総合的に判断します。
    一度の検査では確定的な情報が得られず判断に迷う場合もあります。その際には時間経過での変化を追いながら、検査を繰り返すことで診断します。

  • Q.がんになる人は増えていますか?

    A. 生涯を通じて日本人の2人に1人がかかります

    2019 年の日本の統計では、男性の65.1%、女性の51.2% が生涯を通じて何らかのがんに罹り患かんすると報告されており、がんは誰でもかかりうる病気となっています。
    女性では乳がん、子宮体がん、卵巣がんの増加傾向が続いています。これらのがんは、女性ホルモンであるエストロゲンの影響を受けて増える特徴があります。エストロゲンは全身の脂肪細胞からも分泌されており、肥満や糖尿病がリスク因子として知られております。
    これらのがんが増えている理由として、高脂肪食を特徴とする食生活の欧米化による肥満や、出産回数が減ったことで月経回数が増えて、生涯を通じてエストロゲンにさらされる機会が増えていることが関与していると考えられています。

  • Q.生存率という言葉を聞いたことがあります。がんだったらと思うととても怖いです。それで余命が決まってしまうのでしょうか?

    A. 「5年生存率」は、余命を表すものではありません

    がんに関連した専門用語に、5年生存率という尺度があります。この言葉を聞いて5年生きられないのかとショックを受けてしまう人がいますが、そういった意味合いではないので補足させてください。これは特定の病気と診断された患者さんたちのうち、5年後に生存している人数の占める割合を集計した値です。病気の経過の見通しを表す指標として、がんで用いられることが多い用語ですが、その他のさまざまな病気でも使われます。
    同じ臓器のがんでも、患者さんの年齢や既往症、がん細胞の種類、がんの大きさや広がりなどによって、予後は大きく異なります。5年生存率は統計的に計算された値にすぎず、個人の余命を表すものではありません。実際には個人差が大きいものですので振り回されないことが大切です。
    診断技術の進歩によって、がんの早期発見が可能になっていることに加えて、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬といった、全く新しい薬が開発されたことで、治療にも劇的な進化が起きています。かつては不治の病といわれていましたが、がんを治せる時代になっています。今後、生存率はさらに改善されてゆくでしょう。
    気がかりな毎日を過ごすより、まず病院に行って相談してみましょう。日ごろの小さな心配事でも気軽に相談できる主治医の先生を見つけておくことも、健康への第一歩です。

  • 医療もいろいろ進歩しているんですね、背中を押してもらえてよかったと決意を固めたKさん。結果を聞くときは、ご家族と一緒に行くと良いですよとアドバイスを受けて、紹介状を受け取り帰ってゆきました。

佐々木欧(ささき・おう)

医師。東大病院で長年アレルギーやリウマチ(膠原病)の診療に従事。
現在は秋葉原駅クリニックで内科全般の診療を手がけている。
生活のなかで実践できるセルフケアの開拓や患者さんの不安を軽くできる、やさしい医療を目指している。

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