会員誌『カラフル』にて連載のコラム。
日々の暮らしの中で気になる症状や、季節の変わり目のお悩みに
佐々木欧先生がやさしくアドバイスしてくれます。
2024.06.04
食中毒ってなあに?
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近くの会社で働いているというMさん(30歳、女性)。昨日からお腹の調子が悪く、37度前後の微熱と下痢が続いているといって来院しました。ひと通りの診察のあと、胃腸炎ですねと話が始まりました。
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Q.どうして胃腸炎になったのでしょうか?
Dr. 食中毒が疑われます
秋~冬はウイルス性胃腸炎が多くみられるのに対して、夏は細菌性胃腸炎が多くみられます。また、アニサキス(魚の寄生虫)による食中毒は、季節を問わず起こります。
6~9月に気温が高くなると細菌も増えやすくなり、傷んだ食べ物を介して感染し、食中毒を起こします。ウイルス性胃腸炎は、牡蠣貝(かきがい)のノロウイルス感染のように食中毒として発症する場合もありますが、感染者の嘔吐物や下痢、手に付着したウイルスが物を介して感染する場合のほうが多く見受けられます。
アニサキスは、サバ・アジ・サンマ・カツオ・イワシ・サケといった天然魚の内臓に寄生していますが、宿主が死んでしばらくすると、筋肉に移動することが知られています。重篤なアレルギー発作を起こす場合もあり注意が必要です。 -
Q.前日に牡蠣フライを食べました。ノロウイルスは大丈夫でしょうか?
Dr. 夏でもときどき感染します
ノロウイルスは、牡蠣貝やアサリ・シジミ・ホタテといった二枚貝に含まれています。中心温度85~90度で90秒以上加熱しないと失活せず、少ないウイルス量でも感染します。鍋料理やフライなどの加熱した料理でも、中が半生だと感染する場合があります。
ノロウイルスを検出するための、便を用いた抗原検査は存在しますが、実施している医療機関は少数です。ノロウイルスによる胃腸炎の可能性は、食事内容の問診や、症状・診察などの情報から総合的に判断します。 -
Q.仕事や会合は休んだほうがよいでしょうか?
Dr. 下痢が落ち着くまでは、お休みしましょう
感染するタイプの胃腸炎なのかは簡単には判別できないので、人に感染しうると考えて対処することが必要です。嘔吐や下痢の症状が落ち着くまでの数日程度、自宅で療養するのが望ましいです。飲食店や調理に関わる職業の方は、職場の指示にしたがってください。主婦の方は、料理で家族に感染させてしまうおそれが高いので、症状が落ち着くまで調理は控えましょう。
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Q.家族にうつさないために、どうすればよいですか?
Dr. トイレ後の手洗いを徹底し、コップや洗面所のタオルを個別に分けましょう
盲点なのが、普段から共有しているものを介した二次感染です。胃腸炎の症状があるときには個別のものにしたり、使い捨てのものも上手に活用しましょう。
特に、ノロウイルスは感染力が強く、アルコール消毒では失活しないため、嘔吐物や便を片づけるときは、塩素系漂白剤を薄めて用いる必要があります。
嘔吐物や便が皮膚に触れた場合には、流水と石けんで15秒以上かけて手洗いしてください。 -
Q.療養生活で気をつけることはなんでしょうか?
Dr. お腹を休めて水分を少しずつとることが大切です。
嘔吐や下痢で脱水症を起こし、病状が悪化しがちです。水分は、少しずつ小分けにとりましょう。経口補水液は、腸から水を吸収しやすくするために、理想的な配合で塩・糖を含んでいます。具合が悪くてたくさん飲めない場合には、こちらを小さじ1杯ずつなどたくさんの回数に分けてとりましょう。回復してきたら、スポーツ飲料もしくはリンゴジュースと、水や麦茶などを交互にとり、インスタントのスープ類などで塩分を追加で補給しましょう。
下記に紹介しているように、経口補水液には塩分が多く、スポーツ飲料には糖分が多く含まれています。吐き気や下痢がおさまってきたら、とりすぎないように気をつけてください。 -
Q.治るまでにどれくらいかかりますか?
Dr. 数日から1週間程度で治る場合が多いです
ウイルス性胃腸炎の場合、半日ほど吐き気が続き、数日~1週間程度、下痢や軟便が続く場合が多いです。細菌性の場合も、1週間以内に回復するのが一般的です。いずれの場合も、軽症であれば点滴や抗生剤は必要ありません。
ウイルス性胃腸炎への抗生剤投与は禁物です。効果がないばかりか、腸内の常在菌を殺して耐性菌を生み出し、さらに深刻な腸炎を引き起こしてしまいます。 -
Q.食欲がありません。食べたほうが良いですか?
Dr. 数日なら、無理に食べる必要はありません
胃腸を休めたほうが早く回復します。胃腸炎で入院した場合には、絶食補液といって、食事をとらずに点滴で水分と、最小限の塩分や糖分を補うことが、治療の一環にもなります。
数日たっても食べられない場合は、入院が必要な可能性もあるので、大きな病院を受診しましょう。高熱が続く、腹痛が激しい、便に血が混じる(赤い、黒い)といった場合も同様です。
吐き気が強いうちは、何を飲んでも吐いてしまいます。吐き気が減るまで待ちましょう。最初は小さじ一杯、口を湿らせる程度にとどめて、小分けに少しずつ、回数を重ねてとりましょう。
食べられるまで回復したら、おかゆやスープ類といった、温かくて消化しやすいものを少しずつとりましょう。ゼリーやプリンなどでもかまいません。辛いもの、脂っこいもの、冷たいもの、生もの、アルコールなどは完治するまでは避けましょう。 -
Q.食中毒を予防するにはどうすればよいでしょうか?
Dr. 肉や魚介類の調理器具を別にして、作り置きの料理も十分に再加熱しましょう
肉や魚介類、卵といった動物性タンパク質が豊富に含まれる食材には感染源となる菌が繁殖している場合が多く、取り扱いに注意が必要です。肉や魚介類を切るのに使った包丁やまな板は専用にして、なるべく触らないようにしましょう。調理前だけでなく、それらの食材に触ったあとにも、流水と石鹸で15秒かけて手を洗いましょう。野菜などの生でも食べられるものから先に切っておくことで、食材や調理器具の汚染を防ぐ工夫もおすすめです。
冷蔵庫や電子レンジを過信しないことも大切です。作り置きのカレーや、ジャーサラダなど、冷蔵庫で保管していた作り置きの料理による食中毒もよく見受けられます。料理はなるべくその日のうちに食べきるようにしましょう。調理後は常温で放置せず、早めに冷蔵保存しましょう。煮物などの熱い料理は鍋ごと冷蔵庫に入れずに、小分けにして保存すると速やかに冷却できるので、食中毒菌が増えにくくなります。食べる前には必ず再加熱して、2~3日を限度に廃棄しましょう。カレーなど、加熱むらができやすい料理は、鍋で混ぜながら食材の中心部分まで十分に再加熱しましょう。 -
前日に食べた牡蠣の天ぷらが、半生だったと振り返ったMさん。ウイルスに、抗生物質は効かないのですねと驚いた様子でした。夏でも牡蠣には気をつけますといいながら、処方箋を受け取って帰って行きました。
佐々木欧(ささき・おう)
医師。東大病院で長年アレルギーやリウマチ(膠原病)の診療に従事。
現在は秋葉原駅クリニックで内科全般の診療を手がけている。
生活のなかで実践できるセルフケアの開拓や患者さんの不安を軽くできる、やさしい医療を目指している。