会員誌『カラフル』にて連載のコラム。
日々の暮らしの中で気になる症状や、季節の変わり目のお悩みに
佐々木欧先生がやさしくアドバイスしてくれます。
2024.12.03
緑内障って、なあに?
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糖尿病で通院中のGさん(62歳、女性)。健康診断の眼底検査で、視神経乳頭陥凹(かんぼつ)の疑いといわれました。眼科で精密検査を受けたところ、緑内障の疑いで定期受診をすすめられたとのこと。失明のリスクのある病気と言われて、心配になって相談にきました。
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Q.見えなくなってしまうのでしょうか?
Dr. 早期から治療を続けていれば、まれです
緑内障の多くは、ゆっくりと進行します。視神経が損傷を受けることで、徐々に視野が欠けてゆく病気です。視線を動かすことで欠けた視野を補いながら見ているので、自分で気づくことが難しい場合が多く見受けられます。眼科を受診しなければわからないことが多く、また診断されても自覚症状がないために、治療をやめてしまう方が多いことが問題となっています。
現在の医学では、損傷を受けた視神経を元に戻すことはできません。しかし、適切に治療を受ければ進行をかなり遅らせることができ、ほとんどの人が生涯、視力と視野を保つことが可能です。早期発見と治療の継続とが重要です。 -
Q.どういった検査をしますか?
Dr. 眼圧検査や眼底検査で発見して、視野検査でより詳しく評価します
眼底検査で、視神経の状態を観察し、緑内障の診断や重症度を判定します。眼圧は、緑内障の進行状況に大きくかかわっているため、治療前の基準となる眼圧の把握も欠かせません。また、視野検査で実際の見え方を確認することも重要です。
生活でもっぱら使っているのは、視線の中央付近の狭い領域で、その外側はぼんやりとしか認識していません。緑内障ではこの外側の視野の欠損から始まる場合が多く、自分では気づきにくい病気です。
視野検査の結果は、疲労や睡眠不足・緊張など、そのときの体調によっても影響を受けるので、しばらく期間をあけて再検査をしながら病状を把握する必要があります。他の検査結果と合わせて総合的に判断しますので、毎度の結果に一喜一憂しすぎないことも大切です。 -
Q.自分でチェックする方法はありますか?
Dr. 自宅でもできる簡易的な視野検査があります(図)
下の図を30センチメートル離して、右眼だけで見てください(左眼は隠してください)。紙面を動かして、中央の丸い点が視線の中心にくるように置いてください。視線を動かさずに、じっと見つめてください。次に、左眼だけで同じように見え方を確認してください。
格子の一部が歪(ゆが)んで見えたり、暗く見えたり、欠けて見えたりする場合があれば、お近くの眼科を受診しましょう。ただし「盲点」といって、誰しも視野が欠けている箇所があり、右眼なら視野の右端、左眼なら視野の左端に位置します。紙面をゆっくり前後に動かしてゆくと、右眼で見た場合に「右」という文字、左眼で見た場合「左」という文字の周囲が見えなくなる距離があります。
この図は視野の中央部分の見え方を確認するための、簡易的な検査です。緑内障はさらに外側の視野から始まる場合が多いので、結果に安心せずに、年に一度は眼科検診を受けましょう。 -
Q.緑内障の人は、多いですか?
Dr. 40歳以上の5%、60歳以上では10%以上と報告されています(図)
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Q.検診で眼圧が正常ならば、心配はありませんか?
Dr. 大部分の緑内障は、眼圧が正常なので、油断禁物です
緑内障は、眼圧が上がることで視神経が障害を受ける病気です。しかしながら、眼圧が正常であるにもかかわらず、視神経が障害を受けるタイプの緑内障があります。2000 年の調査報告では、40歳以上の緑内障のうちの約7割は眼圧が正常でした。
眼圧が正常なタイプの緑内障でも、眼圧を低めに保つことで進行を遅らせることができるので、早期発見と治療が重要です。 -
Q.緑内障にはどういった症状がありますか?
Dr. 多くは無症状ですが、眼圧が急上昇すると痛みや吐き気を伴います
緑内障は隅角が閉塞(へいそく)しているものと、開放しているものとに大別されます。
眼の中を液体が循環しており、その排水溝が隅角と呼ばれています。白眼と、色のついた眼との境に位置します。ここがふさがってしまうのが閉塞隅角緑内障です。眼圧が急上昇して、眼の痛みやかすみ目、吐き気や頭痛などの発作を起こす場合もあります。
それに対して開放隅角緑内障では、隅角のさらに奥の排水路が目詰まりすることで起こります。眼圧の上昇はゆるやかで、正常値の場合も多く、自覚症状がほとんどありません。 -
Q.緑内障の場合、避けたほうがよい薬はありますか?
Dr. とくに閉塞隅角緑内障の場合、禁忌となる薬剤があります
「抗コリン作用」のある薬は、急激に眼圧を上昇させるおそれがあるため、緑内障の病状によって厳重に避ける必要があります。該当する薬としては、咳止めや風邪薬、花粉症の薬や頻尿の薬、胃カメラの前に使用する注射剤など、100 種類以上にのぼります。
自分が該当するかどうか、眼科で相談してみましょう。「緑内障連絡カード」といって、医療機関向けに注意喚起を記載したカードもあります。発行してもらったら、保険証と一緒に持ち歩きましょう。 -
Q.どういった人に、緑内障のリスクがありますか?
Dr. 高齢、糖尿病、血縁者での緑内障の既往などがリスク因子です
眼圧の高値や強度の近視、角膜が薄いこと、長期間のステロイド投与(主に内服や点眼)、睡眠時無呼吸症候群などもリスク因子として知られています。なお、高血圧ではなく、低血圧のほうがリスク因子とされます。
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Q.緑内障の場合、生活上で、気をつけることはありますか?
Dr. いきむ動作を避けるのが望ましいです
便秘で極端に踏ん張るときや、逆立ちやヨガで頭を下にする姿勢などでも眼圧が上がるため、なるべく避けるのが望ましいです。管楽器の演奏や、重量挙げなども望ましくありません。過度の飲酒や喫煙も悪化因子とされています。
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Q.どういった治療がありますか?
Dr. 毎日の点眼を中心に、必要に応じて手術治療を行います
点眼が基本ですが、閉塞隅角緑内障の場合、初期から手術治療が必要な場合もあります。
正しく点眼することで、効果も倍増します。点眼は一回1滴です。点眼後は、軽く眼をつむって目頭を押さえ、点眼液の浸透を待ちましょう。点眼直後に目をパチパチしたり、すぐにふき取ったりするのは避けましょう。2種類以上の点眼をする場合は、5分以上あけましょう。サラサラした成分の点眼薬から先にさして、粘度の高い点眼液ほど後回しにしましょう。 -
目薬は、点眼のしかたで効果が変わるのですねと驚いたGさん。きちんと治療すれば失明するのはまれなのですねと、ほっとした様子でした。眼科にも定期的に通いますと言って、明るい表情で帰ってゆきました。
佐々木欧(ささき・おう)
医師。東大病院で長年アレルギーやリウマチ(膠原病)の診療に従事。
現在は秋葉原駅クリニックで内科全般の診療を手がけている。
生活のなかで実践できるセルフケアの開拓や患者さんの不安を軽くできる、やさしい医療を目指している。