会員誌『カラフル』にて連載のコラム。
日々の暮らしの中で気になる症状や、季節の変わり目のお悩みに
佐々木欧先生がやさしくアドバイスしてくれます。
2019.04.23
春を元気に過ごす12のポイント
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春は疲れやすい
春は季節の変化に体が追いつかず、疲れやすく体調を崩しやすい時期です。疲れが抜けず体はこわばり、ともすると風邪をひきやすい季節です。春は本来、葉を落としていた木々が芽吹いて命を吹き返し、朝露に新緑がきらめく、生命力のみなぎる時です。日々の変化が目に見えて形になるさまに、自分も新しいことを始めたくなるような素晴らしい時期です。疲れをためず、心身ともにリフレッシュしながら、春を楽しむためのキーワードがあります。それが、「自律神経」「体内時計」「積極的休息」です。これらの働きを見ていきましょう。
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アクセルとブレーキ
天候や気温など外界が絶え間なく変化してゆくのに対して、生き物には体内の環境を一定に保つ力が備わっており、生命の恒常性(ホメオスターシス)と呼ばれています。人間の体でその役割を担っているものに自律神経があります。自律神経にはアクセル役の交感神経とブレーキ役の副交感神経とがあり、両者の綱引きによって調節されています。交感神経は、体を緊張させてエネルギー(熱)を生み、瞬発力を高めて活動を促します。副交感神経は逆に、体をリラックスさせて胃腸からは栄養を吸収し、英気を養い休息を促します。
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春はなぜ眠い?
寒い冬には交感神経が優勢で、筋肉を緊張させることで熱を発生させて体温を維持しようとします。春に暖かくなると、副交感神経が優勢になることで眠くなると考えられています。季節の変わり目には最高気温と最低気温の落差が大きく、一日のなかでもジェットコースターのように外気温が変わります。自律神経の綱引きもめまぐるしく優劣が入れ替わり、体がくたびれてしまって休息を求めることも、眠い理由と考えられています。
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季節の変化と体内時計
生き物は明るい時に活動し、暗い時には休息するようにできています。一年を通じて季節が巡るにつれ、日の出・日の入りの時刻も変わりますが、私たちの体はいったいどうやって朝と夜との活動時間(体内時計)の調節をしているのでしょうか?体内には、メラトニンといって、夜に分泌が高まり、夜の到来を体に告げるホルモンがあります。朝、日の明るさを目で感じるとメラトニンの分泌が減ることで、体は朝がきたと感じて体内時計をリセットします。その14~16時間後からメラトニンの分泌が再度高まり、体は夜がきたのだと感じて眠る準備に入ります。私たちの体はこのようなサイクルで、日の出・日の入りの時間の変化に、体の時計を合わせているのです。
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繰り上がる目覚まし時計
秋の夕暮れは坂道を転げ落ちるように、あっという間に暗くなります。日没の時刻もまたぐんぐん早くなり、夜の長い冬へと向かいます。春の日の出も同様に、昇竜の勢いで日の出の時刻が早まります。冬を経て体は長い夜の時間に馴染んでおりますが、春の朝日は容赦なく目覚まし時計を繰り上げます。まるで時差ボケに陥ったかのように、早すぎる朝の到来に体が追いついていけないことも、春が眠い理由のひとつと考えられています。
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春一番
春一番は、嵐のように急にやってきて暖かい春をつれてくる強い風です。爆弾低気圧といって、台風のような暴風が吹き荒れることもあります。春一番はまた、花粉症の季節の到来を告げる不穏な風でもあります。
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長引く風邪の正体
風邪といえば冬のもの。急にやってきて、やがて去ってゆく病気です。うまく通り抜けられれば、疲労も抜けてむしろスッキリして、体が軽く感じられるようなこともあります。高熱で寝込むほどつらくはないのだけれども微熱が続く。くしゃみ、鼻水、鼻づまりが、ダラダラ続く。咳せきだけ残ってしまう。こういった症状が1カ月も続いていると、それは別の病気かもしれません。これらはアレルギーと呼ばれる、慢性疾患のサインです。
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アレルギーは過剰防衛
アレルギーは、ほこり(ダニ)や花粉といった、アレルギーの原因物質(アレルゲンといいます)に対して体が敏感になり、アレルゲンを体から排除するために過剰な反応をしてしまった末に起こる病気です。たとえてみれば、塀にとまったカラスを追い払うのに、大砲を打ち込んで塀ごと破壊してしまうようなものです。アレルギーの特徴としては、少量のアレルゲンでも体が反応してしまうこと、症状を繰り返すごとに重症化してゆくことなどがあります。
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早めの相談を
成人してから発症したアレルギーは完治することが難しいため、症状が重くならないうちに早めに対処して再発予防につとめることが大切です。1月中旬~2月上旬までの早めの時期に医師に相談することで、花粉の季節を快適に過ごすことは可能です。薬の効き目と副作用のさじ加減を調整するのにはコツがありますので、アレルギーの専門医に相談されるのがおすすめです。
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積極的休息を
疲れたので、休みます。そう聞いて思い浮かぶのは、ベッドで眠り続ける自分の姿ではないでしょうか?
体と頭の疲れをリフレッシュするには、じっとしているだけの「消極的休息」だけでは逆効果です。疲労物質を体外に排出するためには、30分程度のウォーキングなどが効果的です。ほどほどに体を動かして、体に新鮮な酸素や血液をゆきわたらせて、頭をからっぽにしてみましょう。 -
五感を研ぎ澄ます
散歩の時には、いろいろな心配事は置いて出かけましょう。顔を上げて、肩の力を抜いて、水分補給も忘れずに。思考ではなく五感を使って、頬をなでる風や、木漏れ日のゆらめき、草花の匂いを感じ、鳥がさえずる声を聞いてみましょう。五感のもたらす感情や感想も、湧き上がるまま気にせずに、ほどほどに体を動かす。「積極的休息」を取り入れることで、心身ともにリフレッシュしてみましょう。
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春を楽しむ
春は気候も景色も生き物も大きく変わり、暮らしや習慣も変化できる季節です。私たちの体内環境を保ってくれている縁の下の力持ち「自律神経」の声を聞き、日の出とともに毎日繰り上がる「体内時計」の特性を知りながら、散歩などの「積極的休息」で変化を楽しむ、新しい生活習慣を始めてみませんか?
佐々木欧(ささき・おう)
医師。東大病院で長年アレルギーやリウマチ(膠原病)の診療に従事。
現在は秋葉原駅クリニックで内科全般の診療を手がけている。
生活のなかで実践できるセルフケアの開拓や患者さんの不安を軽くできる、やさしい医療を目指している。