会員誌『カラフル』にて連載のコラム。
日々の暮らしの中で気になる症状や、季節の変わり目のお悩みに
佐々木欧先生がやさしくアドバイスしてくれます。
2019.09.10
ここ数日めまいや立ちくらみがするんです
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高血圧で通院中のNさん(64歳、男性)。ここ数日食欲がわかず、夏バテかと思っていたとのこと。今日になって、ふわふわとしためまいや立ちくらみを感じるようになり、相談にやってきました。ひと通りの診察のうえで、軽い熱中症のようですねと話を始めました。
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Q.熱中症って、日射病のことですか?
かんかん照りの日に屋外活動をして、めまいやふらつきなどの脱水症状がでることを日射病と呼んでいました。熱中症は、直射日光による熱障害(日射病)だけでなく、暑さによるさまざまな症状(めまい、吐き気や下痢、発熱や意識障害など)を含めたより広い呼び名です。ここ数十年で暑さが厳しくなるにつれて、重症な患者さんが増えており、命を落とすこともある油断ならない病気です。年齢を重ねると体温調節機能が低下することも知られていますので、熱中症にならないように、暑さを避けて冷房を使い、予防を心がけることが大切です。
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Q.そういえば汗が止まらなくて。薬局で売っている経口補水液( O S -1 )を飲めばいいですか?
A.熱中症の始まりに1本だけ。予防では使いません。汗が止まらないのも、熱中症の始まりだと思ってください。大切なことなので繰り返しますが、まずは暑さを避けてください。「OS-1」は塩分が多いので(500ml で1・5g )高血圧のかたは、摂りすぎないように気をつけなければいけません。食事が摂れているなら、1日1本程度(280~500ml)が目安です。予防に使うわけではないので注意してください。
※経口補水液のレシピ例=水1Lに砂糖小さじ6杯(18g)、食塩小さじ1/2杯(3g) -
Q.夏場の脱水予防には、何を飲めばよいですか?
A.スポーツ飲料と、水や麦茶を交互に少しずつ。水分を効率よく吸収するために、塩分や糖分の補給も必要です。アクエリアスなどのスポーツ飲料を、水や麦茶と交互に摂るのがおすすめです。お茶のなかではカフェインの含まれていない麦茶がおすすめです。カフェインやアルコールには利尿効果があり、水分を尿として失いやすくなり要注意です。
※スポーツ飲料のレシピ例=水1Lに砂糖大さじ4杯半(40g)、食塩小さじ1/6杯(1g)、ポッカレモン大さじ2杯(30ml) -
Q.水分は、どれくらい摂ればよいですか?
A.尿の色が薄くなるように。食事以外に飲料から摂る1日の水分量の目安は、500mlペットボトル2-3本程度とされますが、体格や活動量、気候などによって大きく異なります。そこで、尿の色合いを見て、濃い時には水分を多めに摂るよう心がけましょう。心臓や腎臓の機能低下を指摘されている人は、体重変化も見ながら水分量を調節することが必要です。体重が数日で2~3kg以上増えて、手足もむくんでいる時は、水分を摂りすぎている可能性があります。
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Q.夜でも熱中症になることがあるって本当ですか?
地球温暖化に伴い、扇風機だけでは乗り切れない時代になっています。夜も冷房をきちんと使わなければ、サウナの中で寝ているのと同様で、熱中症になってしまいます。電気代が気になるかもしれませんが、冷房をこまめにつけたり消したりするよりも、つけっぱなしにしたほうが安いという報告もあります。また、夜間の脱水予防に、寝る前やトイレに起きた時などには、コップ一杯のお水を飲むこともおすすめです。
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Q.冷房が苦手で。何かよい工夫はありますか?
設定温度を高めにしてゆるやかにつけておき、扇風機を併用するとよいです。風を体に直接当てるのではなく、上に向けて空気が循環するように使いましょう。体を冷やしたい時には、太い血管が近くを通っている、首、脇の下などを冷やすのが効果的です。保冷剤がなければ、濡れタオルを絞って、ビニール袋に入れて冷凍庫で凍らせて準備するのがおすすめです。取り出した直後は乾いたタオルなどでくるんで脇の下などを冷やし、タオルがゆるんできたところで、体を拭くのに使うと一石二鳥です。
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Q.夏バテを解消するのに、おすすめのことはなんですか?
夏バテからの疲労回復には、栄養、睡眠が大切です。栄養はエネルギー源となる炭水化物(糖質)と、体の材料となるタンパク質、代謝を回すために必要なビタミンB群などを、バランスよく摂るように心がけましょう。疲労には、さまざまな要因があると考えられていますが、紫外線や、体内での免疫の乱れや炎症などのもたらす酸化ストレスが大きく関与しているといわれています。野菜には、ビタミンCやフラボノイドなどの抗酸化物質が含まれており有用です。また、ヨーグルトなどの発酵食品を積極的に食べて腸内環境を整えて、免疫のバランスをほどよく保つこともおすすめです。
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Q.おすすめの食べ物はなんですか?
ビタミンB1の多く含まれている豚肉を使った、ゴーヤチャンプルがおすすめです。ゴーヤはビタミンCの含有量が多いのに加えて、皮が厚いので加熱調理でも失われにくい野菜です。また、鶏胸肉やカツオ・マグロなども効果的です。サラダチキンに野菜を添えて食べると、調理の手間も少なくておすすめです。
冷房のかかっている待ち合い室や診察室ですごすうちに、ほどほどに体温も下がり、ホッとした表情をとりもどしたNさん。便秘がちだったとのことで便秘薬をうけとり、ヨーグルトも試してみますといいながら、明るい表情で帰っていきました。
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Q.なかなか食欲がわかなくて… …
食欲がいまひとつの時には、梅干しをひとつ食べるとよいです。すっぱいものは、唾液を分泌させ、食欲を増進させて消化を高める効果があります。また、クエン酸が含まれており、糖質からエネルギーをとりだす助けになりますし、抗酸化作用のあるリグナンも豊富に含まれています。ただし、塩分も多いので、高血圧の方は食べ過ぎないよう注意しましょう。
秋になっても夏の疲れが残っている場合にも、睡眠と栄養が大切です。実は秋は疲労回復にもってこいです。秋になり日の出が遅れるにつれて、長く眠りやすくなりますので、徐々に疲労は回復してゆくでしょう。秋は根菜やきのこ、さまざまな果物の旬の季節であり、栄養価も高く疲労回復におすすめです。一方で、昼夜の寒暖差が大きくなり、自律神経が疲弊して体調を崩しやすいので気をつけましょう。日中暑く感じても、羽織ものを一枚持ち歩くと安心です。
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今回のポイント:熱中症、夏バテを乗り切るために
① 冷房は、高めの温度で夜もつけっぱなしにする。
② 脱水の予防に、スポーツ飲料と、水や麦茶を交互に少しずつ飲む。
③ OS-1は、脱水の予防には使わない。
④ 疲労回復には、豚肉・鶏胸肉を野菜と一緒に食べる。
佐々木欧(ささき・おう)
医師。東大病院で長年アレルギーやリウマチ(膠原病)の診療に従事。
現在は秋葉原駅クリニックで内科全般の診療を手がけている。
生活のなかで実践できるセルフケアの開拓や患者さんの不安を軽くできる、やさしい医療を目指している。