税金・保険コラム

2008.11.05

生命保険の基礎知識(11)予定は未定、確定にあらず

皆さん、こんにちは。あっという間にあの酷暑の夏が過ぎ去り、気がつけばもう11月です。気の早い、もとい、段取りの良い方は年賀状の宛先リストを整え始めているでしょう。しかし、筆者が気になるのは、10月初めの暑さの戻ったある夜、鳴いていたアブラゼミのことです。死に絶えたと思っていたセミが、こんな時期まで実はまだひっそりと生きていたのかと驚きましたが、雌はどうしていたのでしょうか。人間ならば、女性の方が皮下脂肪が厚いので、寒さに強いのではないかと思われますが、セミはどうなのでしょうか。また、鳴いていたアブラゼミは、自分を地球最後の男と思っていたのでしょうか。

さて、前回(7月3日掲載分)まで、将来を予定するとして、「家族の予定年表」を書いて頂きました。そしてこれを書くことで、お子さんの学費がいつごろいくらくらいかかるのかの見当がつくというお話をしました。

これはみなさんのご家庭にどんな生命保険が必要なのかを考える準備なのですが、実は、ここには隠れた前提があります。それは次のようなものです。

生命保険の加入目的=家庭の主たる稼ぎ手に万一のことがあった場合に、残された遺族が、現在予定している家族のライフイベント(人生途上での様々な出来事)を滞りなくこなしていくに足りる金額を、保険金でまかなう

そのため、これまで、支出を伴うライフイベントばかりを書いて頂いたのですが、本来生命保険を考える際は、まず、加入目的をはっきりさせなければいけません。そう言うと、「ここに挙げた加入目的以外、ほかにいったい何があるのA」というのが、ごく一般的な家庭人である方から見た当然の反応でしょう。この加入目的は、いかにも自明のことのように見えますね。しかし、生命保険にはまだ別の加入目的があり得るのです。しかし、それはまた別な時にご説明しましょう。

さて、この目的を前提とすると、次のルールが出てきます。それは、以下のようなものです。

支出-主たる稼ぎ手の死後の遺族の収入=保険金で賄う金額

順番に考えていきましょう。書きかけの家族の予定年表には、いつごろ、誰が、何をするという項目ばかりで、必要な金額については書いてありませんでした。あの表に必要と思われる金額を記入します。

この時のポイントは、現在の貨幣価値のままで書くということです。現実には、今後またインフレが復活するかもしれませんし、逆にデフレが続くかもしれません。しかし、それを考慮していると話が進みませんので、現在の貨幣価値で記入します。

ゆったり家が平成20年秋に書いた予定表

  平成21年 平成22年 平成23年
パパの
特記事項
学生時代の仲間とバンドを組む 発表の場を持つ グレースランドを尋ねる
楽器・練習会場費 会場貸し切り費用 旅行代
ママの
特記事項
ワインの検定の講座を受講する パリへ研修旅行 ソムリエ検定合格
受講費 旅行代  
長男 卒業・就職 結婚・孫誕生 マンション購入
卒業旅行 披露宴費用の援助 頭金の1部を援助
次男 大学合格 留学 内定獲得
入学金・学費 留学費用 スーツ代・交通費
住宅ローン 繰り上げ返済 繰り上げ返済 完済
生活費 通常 長男分減る 次男分減る
合計額 吸収できる範囲 増加 増加

しかし、人生何が起こるか分かりません。ひょっとしたら、次の表のようになってしまうかもしれません。

  平成21年 平成22年 平成23年
パパ 単身赴任 まだ帰れない まだまだ帰れない
生活費が倍増 太りすぎ メタボ検診でNG
ママ 肝臓を悪くする 胃を悪くする 更年期障害が重い
医療費 医療費 医療費
長男 留年 大学院進学 婚活(求む花嫁活動)
内定パーに 入学金・学費 結婚相談所費用
次男 受験失敗・浪人へ 二浪 合格・学生結婚・孫誕生
予備校学費 予備校学費 アパート代の援助
お祖母ちゃん 転んで骨折・入院 入退院のくりかえし 田舎の家を処分して同居
医療費 医療費 手すりその他のリフォーム
住宅ローン 繰り上げできず 同左 風呂と台所配水管の老朽化発見・
リフォームローン借りる
生活費 単身赴任分増加 同左 人数分増加
合計額 吸収できる範囲 増加 増加

この表では、前にお話しした、「起こりうる危機を考える」に踏み込んでいます。ただし、子どもが1年浪人したらその分教育費が長くかかることにはなるものの、浪人するのは何年までと宣言して、親の守備範囲を明らかにしておくことはできます。

悪いことばかり想定していても仕方がありませんが、住宅設備が年を経るごとに痛んでくるのは予測可能なことですので、そのための費用がいつ頃発生するのか、見込みをつけておくことは可能です。集合住宅の大規模修繕計画でも個人の住宅でも設備機器でも同じです。集合住宅の配管設備も、個人住宅のガスレンジも同じく傷んでいきます。

また、前の表にはいなかったお祖母ちゃんが突然登場していますが、このゆったり家のママは一人っ子で、実は田舎に1人で暮らしている母親がいたのです。となると、老親が田舎の家を守りきれなくなる日が来たとき、どうするかを、おおざっぱにでも家族で話し合っておく必要がでてきます。これは、将来も実は現在であり、現在が将来を内包しているという一つの例です。

そして、予定せざる出費のため、パパとママの、おそらくは楽しみにしていたであろう特記事項がすっかり消えてしまうのです。これは優先順位の話です。これも、予定表を作る時、やってもやらなくても良いという選択の余地のあることと、やらざるを得ないこととを分けておいた方が良いというのは、こういう事があるからです。かつては余暇活動と呼んだりしましたが、これこそ人生の楽しみの部分ですが、その部分と必須部分-せざるを得ない部分-とは、初めから分けて考えておかないといけません。それは比較的簡単にできるでしょうが、難しいのが、必須ではない部分の優先順位ではないでしょうか。でも、考えておかないと、出費に優先順位を付ける必要がでたとき、切り捨てるのが、一段と辛くなってしまいます。

我が家にふさわしい生命保険を考える前に、自分たちの人生に何が必要なのか、考えるという大事になってしまいましたが、家計に限りがある以上、本来はここまで考えるべきなのです。

余談ですが、人生時計という考え方があります。タカラトミーのおもちゃではありません。これは、暦年齢を3で割って24時制の時刻に直すものです。たとえば、49歳の人は49÷3=16.5(午後4時半)とするのです。こうして時計の文字盤になぞらえれば、人生の残り時間を実感しやすくなるというものです。

今ここですぐ計算した方、そのとおりですね。この計算だと時間切れになるのが暦年齢で72歳ですから、平均寿命の長い今の日本では、ずいぶん早いことになります。社会的にばりばりと活動できる年齢ということでお考え下さい。

社会保険労務士
小野 路子
さいたま総合研究所人事研究会 所属
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