2016.06.15
相続と長靴を履いた猫
生命保険は遺族の生活のために加入することがほとんどだと思います。
相続が発生したとき、平たく言うとどなたかがお亡くなりになった時、関係してくるものとして「相続税」というものがあるということは、いつの間にか身についた知識ではないでしょうか。約50種類もある税金の中で、これほどよく知られた税は他に所得税、消費税くらいではないかと思います。
ところが実際には、下のグラフのように相続税を払う必要のある人はほとんどいません。
参考:財務省「相続税の課税状況の推移(昭和58年~平成25年)」
多くの人が相続税を払う必要がない理由として、相続税には「基礎控除」というものがあり、遺産がその金額を超えないと課税されることはありません。
先日、相続問題に詳しい弁護士さんとお話しする機会があったのですが、「遺産の目録と法定相続人の一覧表を見れば、(金額が基礎控除を超えないことから)一目で課税対象の範囲外だと分かる」とおっしゃっていました。」
基礎控除の簡単な仕組みは以下のようになっています。
「土地」の相続事例
ところで、ご覧のように、相続財産のうち「土地」が約4割を占めています。
参考:国税庁ホームページ「相続財産の金額の構成比(平成26年)」より
相続税の発生しないご家庭でも、ご自宅をお持ちの場合は、土地を相続財産とするような状況になるのではないでしょうか。
ここで土地の相続に関して、筆者の知人の事例を紹介します。
<事例1>
「経済的主柱だったお父様が亡くなり、年金程度の収入しかないお母様と社会人の子供達3人が残された」という知人は、同居している子供1人がお母様の世話をずっと見る代わりに、お母様と一緒に家と不動産を相続し、遠く離れて暮らしている他の子供達2人は相続放棄をしたそうです。
「現に住んでいる家を3分割するわけにはいかないから」と、知人女性は言っていました。
<事例2>
しかし、結婚以来40年も義父と同居してきたという、別の知人女性の場合は、義父が亡くなった時、引っ越すはめに陥りました。義弟が遺産を要求してきたのですが、義父の遺産は現に彼女と夫の住んでいる家しかなかったのです。結局、家ごと土地を売って現金化するしかありませんでした。義父が手入れしてきた花々に埋もれた広い庭は、1階にクリーニング屋のある学生向けアパートに替わってしまいました。
生命保険の活用
全体に長生きの現代では、親が亡くなる頃は子供も高齢者の仲間入りをしていることもあります。年を取ってから引っ越ししたり、不動産屋と交渉したりというのはなかなかしんどいことです。 また、事例2の知人女性の家は最寄り駅から徒歩5分という好条件でしたが、立地条件によっては直ぐには売れないということも考えられます。そこに、生命保険の活用という手段があります。
例えば、被相続人(財産を残す人)が契約者となり、自身を被保険者として保険金の受取人を相続人にするのです。不動産のように売買の時間も不動産業者に払う手数料も考えずに済みます。
他にも、生前贈与として、基礎控除(1人あたり1年110万円)の範囲内で相続人にあたる家族に贈与を行い、受け取った金額で保険に加入にするということも考えられます。受け取った家族が契約者兼保険金の受取人、被保険者を親とするパターンです。
いずれにせよ、誰に何を残したいのか、被相続人は考えておく必要があります。保険金の受取人も相続人全員にしてしまったり、保険金の金額も均等にしてしまったりでは、不動産のみが残された場合と同様になってしまいますから。
おしまいに
フランスのペロー寓話集に『長靴を履いた猫』というお話があります。ヒットしたディズニー映画、『シュレック2』にこの猫が脇役で出ていたので、ご覧になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
17世紀の『長靴を履いた猫』は、粉挽き職人が死んで、息子が3人残されたところから始まります。長男は粉挽き小屋、次男はロバ、末っ子が猫を受け取ります。1回の食事分にもならないと嘆く末っ子ですが、その後の猫の活躍ぶりは知っての通りです。末っ子は猫の大活躍により、美しい姫君と貴族の婿養子という地位を手に入れるのです。
このお話で長靴を履いた猫は、「頭は使いよう」という知恵の象徴でしたが、生命保険は21世紀の日本の相続に関して、長靴を履いた猫に当たるのではないでしょうか。