税金・保険コラム

2017.12.20

ビッグデータ時代の生命保険

昨今、ビッグデータという言葉を耳にした方も多いのではないでしょうか。何がビッグなのかと言いますと、今までは、大量のデータの収集・分析には膨大な費用と時間が必要で、自ずと限界が合ったものを、軽々と超えたことです。総務省統計局の資料などを読むと、かつて無いほどの大量の情報量、その種類の多さ、データが出来上がるまでのスピードに特徴があるそうです。

膨大なデータを分析することで、ある消費者にとって関心の高いもの、必要性の大きいものを企業がかなり正確に把握することができるようになりました。

保険の世界のビッグデータ活用

損害保険の世界では、このコンピュータの進歩が既に保険商品を変えています。

TVコマーシャルでよく見かける自動車保険に、走行距離によって保険料が変わるというものがありますね。車を運転するドライバーの年齢によって保険料が変わるということも言っています。統計を分析して、契約者が自動車事故を起こすリスクを弾き出すことで、保険料をどこまで下げても経営が成り立つかという計算ができるからこその提案です。

生命保険の世界では、同様に契約者ごとの健康リスクの違いを保険料に反映させる動きが強まっています。元々生命保険の場合は、健康状態によっては契約そのものが出来ない場合があり、加入希望者を加入させる人、させない人と振り分けていました。それを、さらに加入後の契約者の健康診断結果や健康増進への取り組み方によって、翌年の保険料が変わる仕組みにまで進めたものです。

あたかも、その年の買い物金額によって、翌年の割引率が変わる通販会社のようなものです。通販会社の場合は、買い物総額でお客さんをいくつかの段階にグループ分けし、上位グループほど割引率が大きくなる仕組みですが、生命保険の場合は、健康増進活動(運動、健康診断、病気の予防)などによって翌年の保険料が割引されるだけでなく、契約者がさらに継続的な健康増進活動に取り組めるような特典もあるようです。

去年、住友生命がこのような生命保険商品の開発に着手したと発表しています。

新たな生命保険

また、似たような保険としては、「健康年齢」という概念を保険料決定に利用した保険も既に各社から発売されています。暦年齢だけでなく、健康診断等の結果により生命保険会社が算出した健康年齢に基づいて保険料が決定される仕組みです。

ところで、健康増進活動を契約者が本当にしているかどうか、どうやって生命保険会社は把握するのでしょうか。もちろん、たとえ、「毎週定期的に運動しています」とか、「休肝日を設けています」とか契約者が嘘をついたとしても、健康診断の結果を見れば一目瞭然です。しかし、わざわざ健康診断を受けなくても、運動した瞬間にそのことが計測されることが、ウェアラブル端末※によって可能になっています。
※身につけることが出来る、小型軽量のコンピュータ。腕時計型などがある。

ウェアラブル端末で日々の歩数を計測して、1日当たりの平均歩数目標が達成されたかどうかを判定し、達成状況に応じて還付金が支払われる保険も発売されています。1日当たりの平均歩数目標は、ビッグデータを基礎として算出されたものです。

多くの生命保険会社や損害保険会社が、続々とモバイル端末技術や健康に関する技術を持つ企業と提携し、新たな保険商品の開発を進めています。

~おしまいに~

生命保険のビッグデータ活用について、筆者が気になることがあります。

それは、ビッグデータの活用でどんどんリスクが細分化されることにより、各保険会社が収益性の高い顧客(元々身体頑健で健康的な生活習慣を持続できる人々)のみを選ぶことがより可能になる分、保険に入れない人が増えるのではないかということです。
生命保険が基本的な性格としてもつ相互扶助の精神が、筆者にはすばらしいものと思われるので、あまり人を選別する方向には進んで欲しくないのです。

社会保険労務士
小野 路子
さいたま総合研究所人事研究会 所属
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