年金コラム

2007.05.25

離婚と年金

今年の4月1日以後60歳を迎える男性(女性は、平成30年4月1日以後)は、厚生年金の受給開始年齢が61歳以後になるため、60歳からの年金空白時代が生じます。その期間は、生年月日によって1年から5年に伸びてゆきます。
これに対処すべく、高年齢雇用安定法の一部が改正され、

「継続雇用制度の対象となる高年齢者につき事業主が労使協定により定める基準により限定できる仕組みを廃止」
「継続雇用制度の対象となる高年齢者が雇用される企業の範囲をグループ企業まで拡大」
「高年齢者雇用確保措置義務に関する勧告に従わない企業名を公表」

などが、平成25年4月より実施されます。ただしこの改正は、定年の65歳への引上げを義務付けるものではありません。
このような年金空白時代の収入を補うために、60歳以後働くことを希望する人は増えています。しかしフルタイムで、厚生年金に加入して働くと年金がカットされるということで、厚生年金に加入しないパートを選択するケースも少なくありません。今回は、「60歳からのお得な働き方の選択のポイント」をテーマに、あなたがどのような働き方を選ぶのが良いのかをねんきん定期便から判断する方法をご紹介します。

その2 60歳からのお得な働き方の選択のポイント

清隆さん(昭和28年12月3日生まれ)は、59歳の会社員。今年で定年を迎えます。高校を卒業後、建設会社に勤務してずっと頑張ってきました。
26歳の時に職場の花だった3歳年下の百合子さんと結婚。百合子さんは、結婚後退職して、専業主婦となり現在に至ります。
昨年の12月に清隆さんのねんきん定期便が届きました。61歳から年額120万円、つまり月額10万円の年金受給になるのを見て、「やはり、60歳以後も働くしかないね」と夫婦で話しています。幸い会社からも「フルタイムでも、パートでもいいから、続けて働いて欲しい」と言われています。
フルタイムとパートとどちらの働き方が、清隆さんにとっては有利なのでしょうか?

●59歳で届いた清隆さんのねんきん定期便
59歳で届いた清隆さんのねんきん定期便

1.これまでの年金の加入期間を確認しましょう

フルタイムとパートのどちらを選ぶ方がよいのかは、ねんきん定期便の中の赤い丸で囲んだ部分「厚生年金の加入月数」で判断します。
この月数は、清隆さんが就職してから、ねんきん定期便が送付される3ヵ月前までの加入月数が表示してあります。
清隆さんは、昭和28年12月3日生まれですから、58歳9ヵ月時点での月数が486月ということになります。

では、このまま厚生年金に加入した場合、60歳時点では何ヵ月になるのでしようか?
それは次の計算式で求められます。
60歳時点での厚生年金加入月数=記載されている厚生年金加入月数+(60歳-定期便の届いた月末の年齢)×12月+3月
清隆さんの場合は、486月+(60歳-59歳)×12月+3月=501月となります。

528ヵ月まであと何ヵ月ありますか?
60歳から528ヵ月になるまで清隆さんの場合は、528月-501月=27ヵ月
となります。
清隆さんの場合は、少なくともあと27ヵ月は、フルタイムで厚生年金に加入する働き方をお勧めします。

なぜ「528ヵ月」なの?

厚生年金の加入月数が528月(44年)以上の人を長期加入者といい、65歳前に受給する年金に大きなメリットがあります。

図Aは、長期加入に該当しない男性(昭和28年度生まれ)が受給できる厚生年金の年金のスタイルです。61歳から報酬比例部分が、65歳からは老齢厚生年金と老齢基礎年金が受給できます。加給年金額の対象となる配偶者(注1)がいる場合は、65歳から加給年金額も加算されます。

(注1)加給年金額の対象となる配偶者
加給年金額とは、年金の家族手当ともいえる加算額で、20年以上の加入期間がある老齢厚生年金(このケースでは清隆さんの)や退職共済年金に加算されます。
加算の条件は、加算が開始される時点において、

  1. 配偶者(百合子さん・以下同じ)の前年の年収が850万円未満であること
  2. 配偶者が65歳未満であること
  3. 配偶者が20年以上の加入期間のある老齢厚生年金や退職共済年金を実際に受給していないこと

となっています。

長期加入者に該当しない人

次に長期加入者の年金スタイルを見てください。61歳の報酬比例部分の受給開始時点で、厚生年金の期間が44年以上あり、厚生年金に加入していなければ、報酬比例部分に加えて、定額部分と対象者がいれば加給年金が加算されます。65歳に到達するまでの加算額は、加給年金額が加算される場合で約480万円、加算されない場合でも320万円にのぼります。これを「長期加入者の特例」といいます。

長期加入者の特例に該当する人

61歳で44年の厚生年金加入期間にならなくても、その後44年になれば、長期加入者の特例を受けられる?

報酬比例部分の受給開始年齢の時点で528ヵ月に届かなくても、その後528ヵ月に到達した場合は、その後に厚生年金の被保険者でなくなれば(注2)、被保険者資格を喪失した月(退職日の翌日の月)の翌月(ただし、月末退職は、翌々月)から長期加入者として、定額部分と加給年金額の加算が行われます。なお、528ヵ月になるために、いつまで勤務すればよいのかについては、必ず、年金事務所でご確認ください。

清隆さんは、61歳で年金の受給がスタートします。しかしその時点での厚生年金の被保険者月数は513ヵ月。528月に15ヵ月不足しますね。そこで引き続き厚生年金に加入して528ヵ月に期間を伸ばし、その後退職すれば、月額にして約10万円(定額部分6.5万円+加給年金額3.3万円)の年金額のアップとなります。

(注2)「厚生年金の被保険者でなくなれば」とは?
長期加入者に該当して、定額部分や加給年金額が加算されるためには、

  1. 44年の厚生年金の加入期間があること
  2. 厚生年金の被保険者でないこと

という2つの要件があります。

厚生年金の被保険者でなくなるためには、退職するか、働く時間または働く日数のいずれかを正社員の3/4未満に短縮することが必要です。528ヵ月の加入期間に達した後は、フルタイム勤務から3/4未満のパート勤務に変更すれば、528ヵ月に到達後引き続き働いても、定額部分等の加算が行われます。

定額部分等の加算

2.60歳以後厚生年金に加入する場合のさらなるメリットは?

百合子さんの第3号被保険者資格が継続します。

清隆さんが引き続き厚生年金に加入すると、国民年金の第2号被保険者(65歳未満の間)のままとなります。そのため百合子さんも60歳に到達するまでの間は、国民年金の第3号被保険者の資格を引き続くこととなり、保険料の自己負担はありません。
しかし、清隆さんが、厚生年金に加入しない働き方をした場合には、百合子さんは第1号被保険者に該当し、毎月15,040円(平成25年度価額)を納付することになります。

百合子さんは、被扶養者として健康保険(協会けんぽ・組合健保)に加入することができます。被扶養者は、保険料の支払いがありません。

60歳以後の働き方の選択のポイント

  1. 65歳に到達するまでの間に528ヵ月になり、長期加入者のメリットが受けられる場合は、厚生年金に加入して働く
  2. 配偶者が60歳未満の国民年金第3号被保険者の場合は、配偶者が60歳になるまでは、厚生年金に加入して働く
社会保険労務士
原令子
株式会社JEサポート代表取締役
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