2020.05.19
「れいこ先生のやさしい年金」(17)2020年度の年金額
こんにちは。
予想もしなかった新型コロナウイルスの感染拡大で私たちの生活が一変しました。読者の皆様はお元気でお過ごしでしょうか?
日常生活を一日も早く取り戻せることを心から願うばかりです。
新型コロナウイルス感染症の影響により年金保険料の納付が困難な国民年金第1号被保険者(自営業・学生等)の方は保険料の免除申請ができます。また、厚生年金に加入している事業所の事業主の方は、一定の条件を満たしていれば、保険料の納付猶予措置等がありますので、お近くの年金事務所にお問い合わせください。(コラムの最後に日本年金機構からのお知らせを掲載しています。)
さて、今回は毎年4月から改定される年金額についてお知らせします。年金の支給は、偶数月の15日に、支給月の前2か月分が支払われることになっています。そのため、改定された年金額で実際に支払いが行われるのは、令和2年6月15日からとなりますのでご注意ください。
1. 令和2年4月分から、年金額0.2%アップ
国民年金や厚生年金等の公的年金は、賃金や物価の変動率によって毎年4月から改定されます。
令和2年度の年金額は、物価変動率が+0.5%、名目手取り賃金変動率(賃金変動率。以下同)が+0.3%であるため、年金額改定のルールにより、賃金変動率により改定されることになります。
ならば、年金額は0.3%アップになるのではと思われるかもしれませんが、残念ながら変動率は、そのまま年金に反映するのではありません。というのも、現在はマクロ経済スライド調整期間のため、賃金変動率0.3%から令和2年度のスライド調整率▲0.1%を差し引くことになるからです。そのため、令和2年度の年金額改定率は、0.2%(1.002)=「0.3%(1.003)×▲0.1%(0.999)」になります。
ここで注意したいことは、物価が0.5%上昇しているのに対し、年金は0.2%の上昇にとどまるという点です。つまり、「年金の購買力は落ちている」ということになります。年金額だけを比較すると増額しているので見過ごしがちですが、実は年金の実質的な価値は少しずつ目減りしているということなのです。
2.年金額改定のルールはどうなっている?
年金額改定のルールの原則は、新たに年金を受給し始める人「新規裁定者」は賃金変動率により、また、すでに年金を受給している人「既裁定者」は物価の変動率により改定することになっています。
ただし令和2年度のように、物価、賃金の変動がともにプラスで、賃金変動率が物価変動率を下回る場合には、例外として新規裁定者、既裁定者ともに賃金変動率により改定します。これは、保険料を負担する現役世代と年金受給者世代の負担と給付の均衡を保つために規定されています。
3.マクロ経済スライド調整とは?
年金の給付水準を調整する仕組みとして、マクロ経済スライド調整が導入されたのが平成16年でした。平成27年に初めて発動、2回目は令和元年で、本年度は第3回目となります。この仕組みは、少子化及び長寿化による年金財政への負担増加部分について、給付を引き下げてカバーをするというものです。
まず少子化と長寿化で、なぜ年金財政に負担が増えるのかをまとめてみましょう。
●少子化が進むと
現役世代の人口が減少→厚生年金の被保険者数も減少→保険料収入減少
●長寿化が進むと
年金の受給期間が延びる→給付増大
これらを一般家庭に置き換えてみると、家計の収入が減り、支出が増え、赤字がどんどん膨らんで、老後の生活の見通しが立たない状況になります。対応策として支出を見直そうということになるでしょう。
年金制度でも同じことが言えます。年金額は通常、賃金と物価の変動率を踏まえて改定が行われます。少子化と長寿化の影響を調整することなく、賃金や物価に合わせて年金額を増額していくと、現役世代の負担だけが増えていくことになります。
そこで概ね100年先までを見通して、年金財政の均衡を保つことができず給付に支障が生じると予想された場合には、それが解消されるまでの間、被保険者数の減少、平均余命の延び等の給付に対するマイナス要因を改定率に組み込み、給付を調整することになっています。この仕組みにより、給付が調整される期間を「スライド調整期間」といい、年金の実質的価値の目減りは、今後25年程度続くと予測されています。
令和2年度の調整率は、
▲0.1%=「公的年金被保険者数の変動率(平成28年~30年度の平均)0.2%(1.002)」
×「平均余命の伸び率▲0.3%(0.997)」です。
4.具体的な金額(年金額について特に記載がない場合は、年額表示)
(1)2020年度の国民年金の年金額(カッコ内は前年度価額)
① 老齢基礎年金 781,700円 (780,100円)
・120月以上の受給資格期間があれば、原則65歳から受給できます。
・保険料納付済月数が480月あれば、781,700円の受給額
・保険料納付済月数が120月の場合は、781,700円×120月/480月≒195,400円
・振替加算額
老齢基礎年金に加算される振替加算額は、老齢基礎年金の受給権者の生年月日により金額が定められています。早見表《E欄》で確認できます。
② 障害基礎年金 1級 977,125円 (975,125円)
2級 781,700円 (780,100円)
・受給権者の保険料納付済月数に関わらず、障害等級に応じた額が受給できます。
・子どもがいる場合は、人数に応じて子の加算額が加算されます。
2人目までの子 224,900円(1人当たり)
3人目以降の子 75,000円(1人当たり)
(注) 子とは、18歳年度末までの間にある未婚の子、および20歳未満で障害等級1・2級の障害の状態に該当する未婚の子
③ 遺族基礎年金 781,700円 ( 780,100円)
・死亡した人の保険料納付済月数に関わらず781,700円+子の加算額が受給できます。
・子どもがいる場合は、人数に応じて子の加算額が加算されます。
2人目までの子 224,900円(1人当たり)
3人目以降の子 75,000円(1人当たり)
(注)子とは、18歳年度末までの間にある未婚の子、および20歳未満で障害等級1・2級の障害の状態に該当する未婚の子
【ケーススタディ】 遺族基礎年金の額は、子どもの成長とともに変わる
自営業の夫が死亡し妻と3人の子が遺族の場合は、受給要件を満たしていれば妻が遺族基礎年金を受給できます。(下図参照)
このケースでの年金額は、「1.年金のスタート時点」において、「基本の年金額(781,700円)+子の加算3人分」で、1,306,500円となります。その後、子どもは順次18歳年度末に達していきますが、18歳年度末に到達すると年金制度上では「子」でなくなるため、子どもが18歳年度末に到達するたびに年金額が改定されることになります。
年金額の変遷を見てみると、「2.Aが18歳年度末」に到達すると、75,000円の加算がなくなり受給額は1,231,500円となります。
次に「3.Bが18歳年度末」に到達すると224,900円の加算がなくなり受給額は1,006,600円に。最後にCが18歳年度末に到達すると、遺族基礎年金は失権し0円となります。
なぜ失権するのでしょうか? それは、遺族基礎年金を受給できる遺族が、「子のある配偶者」または「子」だからです。妻はCが18歳年度末までの間は「子のある配偶者」でしたが、Cが18歳年度末を超えると年金制度上では「子」でなくなるため、妻は「子のない配偶者」に変わります。「子のない配偶者」は、遺族基礎年金を受給する遺族ではないため、失権することになります。
④ 国民年金の保険料 令和2年度 16,540円/月
令和3年度 16,610円/月
(2)2020年度の厚生年金の額
① 既裁定者の年金額は、令和元年度の額から0.2%の引き上げとなります。
② 令和2年度新規裁定者モデル世帯の年金額(月額)
令和2年度 | 令和元年度 | |
---|---|---|
老齢基礎年金(満額1人分) | 65,141円 | 65,008円 |
老齢基礎年金+老齢厚生年金 ※1(夫婦2人分) | 220,724円 | 220,266円 |
その間、妻は専業主婦であった場合の試算。
③ 加給年金額
老齢厚生年金に加算される加給年金額(下図参照)は、老齢厚生年金の受給権者の生年月日により金額が定められています。早見表の《K欄》加給年金額で確認できます。
④ 中高齢寡婦加算額と経過的寡婦加算額
中高齢寡婦加算額と経過的寡婦加算額は、遺族厚生年金に加算されます。金額は次の通りです。
・中高齢寡婦加算額 586,300円
・経過的寡婦加算額 遺族厚生年金の受給権者の生年月日により金額が定められています。早見表の《L欄》経過的寡婦加算額で確認できます。
国民年金、厚生年金共にそれぞれ受給条件があるので詳細は年金事務所に確認してください。
(早見表)
新型コロナ関連の情報 (日本年金機構HPより)
【国民年金被保険者の方へ】 更新日2020年4月30日
令和2年5月1日から新型コロナウイルスの感染症の影響により国民年金保険料の納付が困難となった場合の臨時特例手続きが開始されます。
令和2年5月から、新型コロナウイルスの感染症の影響により、収入源となる業務の喪失や売り上げの減少などにより収入が相当程度まで下がった場合は、臨時特例措置として本人申告の所得見込額を用いた簡易な手続きにより、国民年金保険料免除の手続きが可能になります。
また、学生についても、収入が相当程度まで下がった場合は、同様に本人申告の所得見込額を用いた簡易な手続きにより、国民年金保険料学生納付特例申請が可能となります。
具体的な手続きについては、「新型コロナウイルス感染症の影響による減収を事由とする国民年金保険料免除について」をご覧ください。
なお、申請書は必要な添付書類とともに、住民登録をしている市(区)役所・町村役場または年金事務所へ郵送してください。
※ 申請書等を直接提出していただくことも可能ですが、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、できる限り郵送による手続きをご利用ください。
【国民年金第1号被保険者の方】自営業者・無職の方等
新型コロナウイルスの影響で、失業、事業の廃止(廃業)または休止の届出を行っている方など、一時的に国民年金保険料を納付することが困難な場合については、一定の要件に該当する方は、ご本人からの申請に基づき、国民年金保険料の免除が適用できる場合があります。
免除の詳細や手続きの方法については、市区町村またはお近くの年金事務所にお問い合わせください。
【厚生年金加入事業所の事業主の方】
厚生年金保険料等の納付が一時的に困難となった場合に猶予措置があります。
新型コロナウイルス感染症により事業所の経営状況等に影響があり、一時的に厚生年金保険料等を納付することが困難な場合は、年金事務所に申請することにより、法令の要件を満たすことで、原則として1年以内の期間に限り「換価の猶予(国税徴収法第151条の2)」が認められます。
※「換価の猶予」についての詳細は「換価の猶予」をご覧ください。
また、事業所の財産に相当な損失を受けた場合等、個別の事情がある場合は、「納付の猶予(国税通則法第46条)」が認められる場合もあります。
※「納付の猶予」についての詳細は「納付の猶予」をご覧ください。
厚生年金保険料等の納付が困難な場合は、管轄の年金事務所までお問い合わせください。