2009.02.26
退職予定者のあれも聞きたい、これも聞きたい年金相談シリーズ(3)
この季節、ビジネス街を歩いていると玄関ロビーやウィンドウに飾られているお雛様が目に留まります。吸い寄せられるように前に立つと、桃や菜の花を添えられた雛飾りに子供のころの想い出がよみがえり、甘酒や雛あられの香りまで漂ってくるようです。もうすぐ春ですね。
さて、退職が近づいてくると老後の生活が気になります。中でも「年金だけで生活できるのか・・・」ということは大きな不安となります。特に今年の4月以後に60歳になる男性の方は、65歳までの間、報酬比例部分のみの支給となり、年金額は平均的なサラリーマンで月額10万円~13万円程度。大きく生活費に不足してしまいます。この期間の年金額の不足を解消する方法として、今回は、「繰上げ受給」を取り上げました。
第3回目 年金の繰上げ受給
相談者 昭和24年5月生れ、現在59歳の男性、会社勤務40年、厚生年金加入、2009年5月末定年退職予定。その後の勤務(継続勤務か完全リタイア)は検討中です。
A1:あなたが受給される年金は、60歳から報酬比例部分、65歳から老齢厚生年金と老齢基礎年金となります。報酬比例部分は、あなたの生年月日ならば、60歳から支給されることになっています。
決して、65歳からの老齢厚生年金が減額されて早く支給されているというものではありません。65歳まで請求を延ばせば、金額が多くなるということもありません。安心して60歳で請求をしてください。
A2:65歳から受給する老齢基礎年金を65歳前に請求して、60歳から65歳未満の間の年金額を増やす、「繰上げ受給」をご紹介しましょう。
【老齢基礎年金の繰上げ】
「繰上げ受給」とは?
老齢基礎年金は本来、65歳から受給する年金ですが、希望すれば、65歳前からでも受給できます。(最も早い請求は60.0歳です。)老齢基礎年金を65歳前から受給することを、「繰上げ」といいます。
ただし、繰上げ受給をすると老齢基礎年金の額が減額(1か月刻みで0.5%ずつ)され、その減額が生涯続きます。65歳からの受給率を100%とした場合、60.0歳で繰上げ請求すると、受給率は70%(30%の減額=0.5%×60ヶ月)になります。 相談者の場合は、65歳から受け取る老齢基礎年金が月額約6万6000円ですので、60歳で繰上げ受給をすると6.6万円×70%=4万6200円となり、報酬比例部分と合計すると14万6200円となります。65歳以後も同額です。
さて、繰上げ受給の損得が気になりますが、老齢基礎年金の請求が60.0歳と65歳の場合を比較すると、総受給額の分岐点は77歳位です。つまり、77歳以上長生きする場合は、65歳で請求する方がお得になります。
《重要》繰上げ受給の注意点
繰上げ受給には、いくつかの注意点があります。請求前に、必ず確認をしておきましょう。
- 年金額は、繰上げ請求をする時期に応じて減額され、受給率は一生変わりません。
- 繰上げ請求後に障害になっても、原則障害基礎年金は受給できません。
原則的に、障害基礎年金は65歳までに初診日のある病気や怪我で障害の状態になったときに支給されます。ところが老齢基礎年金を受給すると、それが65歳前の繰上げ受給であったとしても、65歳に到達したものとみなされます。そのため、障害の状態になっても障害基礎年金の対象になりません。 - 遺族厚生年金は、65歳になるまで併給されません。
繰上げて老齢基礎年金を受給している方が遺族厚生年金を受給できるようになっても65歳まではどちらか一方しか受給できません。多くの場合、遺族厚生年金の金額のほうが有利なため、せっかく繰り上げた老齢基礎年金は65歳までの間は、支給停止となります。65歳以後は併給されますが、老齢基礎年金は減額されたままの金額です。
この他、自営業の方に限られますが、繰上げ受給をしていた夫が死亡した場合は、寡婦年金は発生しません。また、繰上げをしている妻は、寡婦年金が受給できません。 繰上げ請求をすると、取り消しはできませんので、これらの注意点も考慮して、決定してください。〈付録〉
特別支給の老齢厚生年金の定額部分が支給される方には、「一部繰上げ」をお勧めします。 というのも、前述の繰上げの方法だと、定額部分が受け取れなくなってしまうからです。 一部繰上げは、定額部分の支給開始月の前月まで請求できます。
この受給方法は、定額部分を活かしながら、65歳から受給できる老齢基礎年金の一部だけを繰り上げて受給する方法です。繰上げの対象となる老齢基礎年金の一部だけが減額になり、繰り上げなかった残りの老齢基礎年金は減額されないため、全部繰り上げよりもゆるやかな減額ですみます。
また、一部繰上げの請求時期にかかわらず、「定額部分の繰上げ調整額」と「原則通りで受給する定額部分の額」の総額は、同額になるため、定額部分の金額が多い人でも、将来の年金額への影響は少なくてすむ有効な受給方法です。
なお、定額部分だけの繰り上げは認められず、必ず老齢基礎年金の一部を繰り上げなければなりません。繰上げの対象となる老齢基礎年金は、繰上げ時期に応じて決められおり、本人が自由に設定できるものではありません。(報酬比例部分や加給年金額は、原則通り受給できます。) この受給方法は、60.0歳~定額部分の支給開始までの間であればいつでも請求可能で、原則通りの年金を受給している場合でも、途中からこの受給方法に変更することができます。ただし、定額部分が支給されない生年月日の人は、この受給方法を選択できません。