2023.04.18
特例的な繰下げみなし増額制度について
こんにちは社会保険労務士の土屋です。今回も皆さんにとって関心の高い年金についてお話しさせていただきます。今回は令和5年4月1日から施行される「特例的な繰下げみなし増額制度」についてです。
繰下げ受給の上限年齢の引き上げ
以前このコラムでも書きましたが、令和4年4月~65歳から受け取る老齢基礎年金・老齢厚生年金をご自分の意思で先送り(繰下げ)できる上限年齢が、75歳まで(従来は65歳~70歳までの5年の間で繰下げ可能)最大10年延長されることになりました。なお、75歳まで繰下げ延長できる方は令和4年3月31日時点で満70歳に達していない方(昭和27年4月2日以降生まれの方)または受給権を取得してから5年を経過していない方です。
繰下げをして増額すると一見得にみえますが、結果として繰下げしていた間の年金を受けとれない(ある意味捨てる)ことになり、単純に計算すると繰下げ増額した年金を受けてから、12年~13年の間年金を受け取らないと受給総額としては損になるという計算になります。また、年金は雑所得として課税対象になります。年金以外の他の収入(不動産所得等)の金額によって所得税や住民税に影響することや、介護保険料・国民健康保険料や後期高齢者の保険料に影響をすることもありえますので、よく検討の上手続きをしていただければと考えます。
2,556,000-1,800,000=756,000円(増額分)
65歳~70歳まで受給できた金額 1,800,000×5(年)=9,000,000円
9,000,000÷756,000=11.904年
70歳から12年間(82歳まで)繰下げ増額した年金受け取らないと、計算上は損になります。
繰下げ請求時の注意点
繰下げ請求時には注意する点があります。
※加給年金と振替加算についてはこのコラムのバックナンバー(2017.9.27)を参照してください。
特例的な繰下みなし増額制度
繰下げ年齢の上限が75歳まで延長されたことに伴い、「特例的な繰下げみなし増額制度」が令和5年4月から施行されることになりました。たとえば、今回の制度改正前の場合、65歳以降の年金請求を先送りしていた方が、72歳時点でなんらかの事情で現金が必要になり、65歳の本来請求の手続きをすると5年の時効がありますので、5年間分の年金を遡及して受け取る手続きはできますが、65歳~67歳までの2年間分の年金は時効に該当し受け取ることができません。72歳時点で繰下げ請求をすることもできますが、令和5年4月~の改正後は特例的な繰下げみなし増額制度が適用され、5年前の67歳で繰下げ請求したとみなして、増額をした5年分の年金を受け取ることができるようになります。
繰下げ増額制度の対象となる方は昭和27年4月2日以降生まれの方(令和5年3月31日時点で満71歳未満の方)又は老齢基礎年金・老齢厚生年金を受け取る権利を取得した日が平成29年4月1日以降の方(令和5年3月31日時点で老齢基礎年金・老齢厚生年金を受け取る権利を取得した日から6年を経過していない方)になります。ただし、80歳以降に請求する場合や、請求の5年前の日以前から障害年金や遺族年金を受け取る権利を取得している場合は、特例的な繰下げみなし増額制度は適用されません。
繰下げ請求手続きをしないまま本人が死亡した場合
もし、繰下げ請求手続きをされないまま本人が死亡した場合はどうなるかですが、本人が死亡した以上本人の意思確認ができません。この場合は残された遺族が繰下げ増額されない、本来の年金5年分を未支給年金として請求することになります。なお、繰下げ増額の請求手続きを行った日に本人が死亡した場合は、繰下げ増額が適用されます。
最後に
繰下げは損得ではなく、ご自分の老後の生活設計(就労やその他の収入や預貯金等)を考えて検討をしていただくべきだと考えます。一度請求手続きをすると、取り消しをすることはできません。繰下げ請求をする場合は事前に年金事務所等で見込額を確認した上で十分検討をした上で請求手続きをしていただくよう御願いいたします。