2023.09.19
年金受給後の手続き(同日得喪)について
こんにちは社会保険労務士の土屋です。今回も皆さんにとって関心の高い年金についてお話しさせていただきます。今回は年金受給者の手続き(同日得喪)についてです。
【事例】
山本A男さん(昭和32年9月2日生まれ)は定年退職後再雇用で65歳以降も継続して会社で仕事を続けています。年金は65歳から通常受給(老齢基礎年金780,000円+老齢厚生年金1,200,000円)しています。現在標準報酬月額360千円で、賞与は年2回計720,000円支給されていますので、老齢厚生年金は支給調整(減額)されています。9月に会社との雇用契約の更新についての面談があります。以前知人が厚生年金の同日得喪という手続きをして、年金が増えたという話を聞きました。そこで自分の場合はどうなるのかわからない為年金事務所に相談にいきました。
【解説】
社会保険料の計算の基礎になる標準報酬月額は、毎年7月に事業主が健保組合や日本年金機構に届け出る算定基礎届で決定されます。この手続きを定時決定といい、4月~6月までの賃金(通勤費も含む総支給額)の3ケ月の平均で、その年の9月~翌年の8月までの標準報酬月額が決定されます。ただ、途中で固定賃金を含む賃金が大幅に変更(2等級以上の変更)になりその状態が3ケ月続いた場合は、月額変更届を提出し、変更月から4ケ月目から変更後の標準報酬で社会保険料が計算されます。この手続きを随時改定といいます。
定年後に年金を受給しながら再雇用等で就労する場合、一年契約等で賃金の改定(報酬減額)があった場合、通常の手続きで報酬改定をされるとしばらくの間従前の報酬で計算された社会保険料を負担することになります。また年金受給者であれば、従前の報酬で厚生年金の報酬比例部分(60歳前は特別支給の老齢厚生年金)が支給調整されます。
そうした仕組みは60歳以上の年金受給者にとって著しく不利益ではないかということで、60歳以上の年金受給者の在職者(厚生年金被保険者)については、雇用契約の変更があり賃金の改定があった場合(1等級以上でも可)従前の社会保険を喪失させ、同じ日にあらたな報酬で再取得をさせます。社会保険料については新たに届け出た報酬で決定され、年金の在職調整についても変更後の標準報酬に基づき支給調整されます。この手続きを同日得喪といいます。
具体的な計算については山本A男さんの例で説明します。
・山本さんの現在の老齢年金額は以下の通り。
老齢厚生年金(報酬比例+差額加算)120,000円(下記式で支給調整して年金支給)
※山本さんの従前の報酬額での在職調整額の計算
《360,000(標準報酬月額)+(720,000(賞与年間支給額)÷12)》=420,000円(総報酬月額)
《420,000+(1,200,000(老齢厚生年金額)÷12)-480,000(在職調整基準額)》÷2=20,000円(在調整支給停止額)
100,000(老齢厚生年金月額)-20,000=80,000円(老齢厚生年金月額)
※9月から雇用契約変更により標準報酬月額320千円に変更後の計算
《320,000(標準報酬月額)+(720,000(賞与年間支給額)÷12)》=380,000円(総報酬月額)
《380,000+(1,200,000(老齢厚生年金額)÷12)-480,000(在職調整基準額)》÷2=0円(在調整支給停止なし)老齢厚生年金100,000円全額支給
月額の報酬は360千円から320千円に減額(約4万)になりますが、老齢厚生年金は20,000円増額支給になり、健康保険料が50,940円(標準報酬月額360千円)から45,280円(標準報酬320千円)に改定されます。(約5,000円程度減額)
※健康保険は協会健康保険組合(東京都)の場合です。介護保険は65歳以上の為控除はありません。
あくまで仮ケースでの試算ですので、その旨ご承知ください。
請求手続きには事業主が新たに締結した雇用契約書の写しや就業規則等を添付することが必要です。被保険者自身の手続きではありませんので、該当する方は会社の総務担当者に確認いただくようにしてください。また、事業主の方や総務担当者の方は、該当する被保険者がでた場合は必要な手続きをしていただくよう御願いします。健康保険組合やその方の雇用契約内容によっては、必要な書類が異なる場合がありますので、手続きを行なう場合には所属する健康保険組合または年金事務所や社会保険労務士にご確認ください。
なお、事業主や役員の被保険者の方で報酬変更があった場合でも同日得喪の手続きはできません。報酬変更(2等級以上の変更)があった場合には、月額変更届の手続きを行なうことになります。したがって、改定後の報酬が適用されるのは、報酬変更月から4ケ月目からになります。ただし、役員が退任し労働者扱いとなった場合には、その事実を証明する書類(役員退任届等)を提出することにより同日得喪の手続きができます。