2024.07.16
遺された年金~単身者の死亡
皆さん、こんにちは。社会保険労務士の尾田佳子です。
本格的な夏が到来、今年の夏も、酷暑が予想されています。
皆さま、どうぞ気を付けてお過ごしくださいね。
さて、年金制度は、定期的に見直しが行われます。
見直しは、5年毎に行われるのですが、ちょうど来年がその時期になっています。
事前にいろいろな検証等も必要なので、内容について、ニュース等で流れてくるようになりました。
時代が変われば、制度もその時代に合った内容に変化していきます。
皆さんが同じように当てはまる訳ではありませんし、まだ決定事項でもありませんので、これからのニュース等に注意してくださいね。
さてさて、いつもの食堂では、何やら大勢の人が集まっていますよ。
頼れる公美のお父さんもいるようです。何かあったのでしょうか?
昨夜、食堂を切り盛りしているそーくん(礎一郎)に、くーちゃん(公美)から電話がかかってきました。
ルルル・・・(ガチャ)
- 公美:
- 「あ、そーくん?急で悪いんやけど、明日の晩、食堂を貸し切りで使わせてくれない?」
- 礎一郎:
- 「え?いいけど、どうしたん?」
- 公美:
- 「実は、あんちゃん…叔父さんが亡くなって…。」
- 礎一郎:
- 「え?あんちゃんが?少し前にも、店に来てくれたで?…病気してたん?」
- 公美:
- 「調子があまり良くないのは、お父さんから聞いてたけどね…。」
- 礎一郎:
- 「そっか…昔、よく遊んでもらったよなぁ…。了解、じゃあ明日、店は貸し切りにしとくよ。」
- 公美:
- 「ありがとう!また連絡するね。」
公美の叔父さん、通称あんちゃんは、長男である公美の父親の末の弟。
長兄と末っ子で、年齢差は15歳。
公美が産まれた時から、近くに住んでいて、幼い時はよく遊んでもらっていました。
また、幼なじみである礎一郎や厚二郎も、一緒に遊んでもらっていて、あんちゃんと慕い、3人にとって、とても大切なあんちゃんでした。
年金を受け取っている人の死亡
- 公美父:
- 「礎一郎!すまんな。世話になるわ。」
- 礎一郎:
- 「いや、そんなんいいんすけど…。急なことでビックリしました。大変でしたね。この前、一緒に店来られた時、調子悪かったことに気が付かなくて…。」
- 公美父:
- 「まぁ、まさか、ワシより先に逝くとは思ってへんかったけど、仕方ないわな。」
- 公美:
- 「そーくん、ごめんね。ありがとう。」
- 厚二郎:
- 「くーちゃん、僕も何か出来ることあったらするから、言うてね。」
- 公美:
- 「こーくんも、ありがとう。」
- 叔父1:
- 「兄貴、大丈夫か?」
- 公美父:
- 「大丈夫や。それより、いろいろ手続きせなアカンから、頼むで。」
- 公美:
- 「手続き、いろいろあるけど、年金関係は私、分かるから。あんちゃんって、ずっと独身だっけ?」
- 叔母1:
- 「独身よ~。自由に過ごしてはった。」
- 公美:
- 「じゃあ、あんちゃんと一番連絡取り合ってたの誰?」
- 叔父1:
- 「兄貴やな。入院の保証人とかなってたよな?」
- 公美父:
- 「付き添ったし、必要なモンも買って持って行っとった。」
- 公美:
- 「あんちゃんの年金受取口座って分かる?」
- 公美父:
- 「通帳預かってる。まだ、何も手続きしてへんけどな。」
- 公美:
- 「大丈夫。えーっと…今月分までの年金は受け取れるから、8月15日の振込までで…。」
- 叔母2:
- 「年金、もらえるの?あの子いないけど?」
- 公美:
- 「年金って月単位で、亡くなった月分までは受け取れるの。そうなると、年金は後払いだから、どうしても本人が受け取れない月分が発生するんよね。それを、未支給年金っていうねんけど、生計を同じくする家族や親族が手続きをすることで、受け取ることが出来るねん。」
- 叔父1:
- 「あいつ、1人暮らしやから、受け取れる人間はおらんなぁ。」
第三者による証明
- 公美:
- 「1人暮らしでも、普段から音信とかあって、かつ、経済的な援助とかあれば、代わりに受け取れるよ。
本来、亡くなった人が受け取れる年金だから、代わりに受け取れる人の条件とかが、ちょっと優しい。今聞く感じでは、お父さんが手続きする?」
- 叔母1:
- 「うん。それがいいと思うよ。」
- 公美:
- 「じゃ、兄弟関係確認出来る書類はすぐ取れるとして、お父さんとあんちゃんが生計を同じくしていたってことを申し立てる書類、もらってきたから、これ書いて。」
- 公美父:
- 「書類は苦手やから、公美が書け。」
- 公美:
- 「はいはい。じゃあ、お父さんからあんちゃんに経済的援助してたことを書くね。
病院への付き添いとか、必要な日用品の購入とか、こういうのも生計を同じくしていたってことになるから。
で、これ、申立書だから、お父さんとあんちゃんが生計を同じくしていたことを誰かに証明してもらわんとアカンねんけど。第三者の人で、それを見知っている人…誰かいる?」
- 親族一同:
- 「うーん…。」
- 礎一郎:
- 「あ、それなら、俺か厚二郎が証明出来ますよ。」
- 公美父:
- 「え?…あ、そうやそうや!礎一郎も厚二郎も、親戚ちゃうかったな。頼むわ。すまんな!ありがとう!」
- 公美:
- 「そうだった。幼なじみであって、親戚じゃなかった。この第三者の証明って、結構ハードル高く感じてたから、助かった~」
!今回のポイント!
年金は、日本年金機構側から言うと、「後払い」で、偶数月の15日に、前の2ヶ月分が支払われます。
また、月単位で支払われる為、死亡日がいつであっても、死亡された月分まで支払われます。
本来、年金というのは、年金受給者本人の権利となるので、本人しか受け取ることが出来ませんが、亡くなった場合については、本人に代わって請求できる「未支給年金」という制度があります。
ただし、誰でも手続き出来る訳ではなく、『生計を同じくしていた親族』であることが必要です。
ここでいう、『生計を同じく』とは、必ずしも家計が同じであることは必要なく、別居していたとしても、普段から音信等があり、身の回りのお世話や、日用品や嗜好品等の購入等、経済的援助をしていたという実態を証明出来れば、要件を満たしていると判断されます。
ただし、本人のみの申し立てでは信ぴょう性に欠けるので、第三親等以外の親族による、第三者の証明によって判断することとなります。
また、親族には、請求出来る方に順番があり、死亡者の「配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、その他三親等内の親族」となっており、先順位者がいる場合は、請求出来ません。
この『生計を同じくしていた親族』がいない場合、亡くなった後に振り込まれた年金は返納する必要がありますので、ご注意ください。
なお、この未支給年金については、亡くなった後に支払われる年金である為、財産とはならず、相続の対象にもなりません。
請求された方の一時所得という扱いになります。
ちなみに、年金を受け取っておられる方が奇数月に死亡され、翌月の年金支給日までに受取口座の解約や凍結等の手続きを行っていなかった場合、亡くなった方の口座へ振り込まれることがあります。
年金は生活費の柱となりますので、すぐに口座の解約や凍結等の手続きが出来ないこともあると思います。
その場合でも、亡くなった後に振り込まれていますので、「未支給年金」としての手続きが必要となります。
年金には、本当にたくさんの手続きがありますが、どれも必要な手続きなので、必ず行うようにしてくださいね。
!言葉のおさらい!
未支給年金
受け取る権利が発生している年金で、本人が死亡により受け取れない場合に、生計を同じくする家族や親族が、本人に代わって受け取ることが出来る年金。
生計を同じく
同居のみならず、別居であっても、普段から音信(行き来)があり、身の回りのお世話や日用品等の購入、病院代や施設の利用料等、どちらか一方が負担していたこと。
第三者証明
当事者の申し立てを客観的に証明を行うこと。
必ずしも署名であることは必要なく、領収書(双方の氏名が記載)等の添付でも良いとされている(*該当するものについては、事前にご確認ください)。
尾田佳子