年金コラム

2024.09.17

遺族厚生年金について

こんにちは社会保険労務士の土屋です。今回も皆さんにとって関心の高い年金についてお話しさせていただきます。今回は遺族年金について事例をあげて説明させていただきます。

65歳からは遺族厚生年金は丈くらべをして先あて支給

清子さん(昭和37年8月2日生まれ)は夫の信夫さん(昭和30年9月2日生まれ)と結婚する前まで15年程商社で勤務。厚生年金に加入していましたが、結婚に伴い退職された後は60歳まで夫の扶養(第3号被保険者)でした。信夫さんは60歳定年後再雇用で就労していましたが、今年の3月で会社を退職し、自分の趣味や夫婦で旅行に行くこと等を考えていました。特段持病はなかったのですが、最後に受けた会社の健康診断で異常を指摘され、大学病院で検査を受けたところ末期がんと診断されました。抗ガン剤の治療を行いましたが、7月に帰らぬ人となりました。病院の手続きや葬儀も終えた清子さんは年金事務所に遺族年金の請求手続に行きましたが、相談員の説明が複雑でよく理解できなかったため相談にお見えになりました。

清子さん 「遺族年金が死亡月の翌月から受けられることはわかりましたが、自分の年金との選択等についてよくわからないのですが」
社労士 「清子さんは自分の厚生年金(特別支給の老齢厚生年金)は63歳から受け取るとことになりますので、63歳になるまでは遺族厚生年金を受取り、63歳からは遺族厚生年金を選択(特別支給の老齢厚生年金は支給停止)することになるかと考えます。清子さんの場合、ご主人の厚生年金の加入月数や在職時の報酬が清子さんより高いと考えられますので、63歳時に自分の老齢年金を請求する際には請求書に選択届を添付して、遺族厚生年金を選択することになるでしょう。」
清子さん 「私が65歳になるとどうなるのですか?」
社労士 「清子さんが65歳になると誕生月のはじめに日本年金機構からはがき形式の請求書が送付されますので、期限までにかならず投函をしてください。65歳で遺族厚生年金に加算されている中高齢寡婦加算((612,000円 令和6年度価格)は終了し、遺族厚生年金(丈くらべ計算後の支給)だけの受給になります。」
清子さん 「中高齢寡婦加算ってなんですか。年金が減ってしまうんですか?」
社労士 「中高齢寡婦加算とは死亡した方が厚生年金20年以上の加入期間がある方や在職中(厚生年金加入中)に死亡した方で、夫が死亡した時点で妻が40歳以上65歳未満であった場合に加算されます。また、40歳未満で遺族年金を受給していて、子がすべて満18歳(障害のある子は20歳まで)の年度末後に遺族基礎年金の支給が終了した時点で40歳以降であれば加算されます。」
※昭和31年4月1日以前生まれの妻は65歳から経過的寡婦加算がプラス(610,300円~20,367円生年月日により加算)されます。
図表1
☆寡婦加算:定額612,000円(老齢基礎年金816,000円×3/4=612,000円) 死亡した者の妻が65歳になり自分の老齢厚生年金を受けるまでのつなぎの意味で支給されます。
清子さん 「つまりは65歳からは受給する年金が減るということでしょうか?」
社労士 「必ずしも年金が減額になるわけではありません。確かに中高齢寡婦加算は65歳で終了しますが、中高齢寡婦加算とは妻が65歳になって自分の老齢基礎年金を受け取るまで支給されるものです。清子さんは第3号被保険者として年金に加入をされていますので、老齢基礎年金の額も満額に近いはずだと思いますので、年金額が減るということはないかと考えます。ただ、外国籍の方で国民年金の加入月が少ない方や未納期間の多い方は65歳からの年金額が減ってしまうということはありえます。」

【65歳からの老齢年金と遺族年金の丈くらべを社労士が解説】

平成19年4月以降老齢厚生年金と遺族厚生年金を受給するようになった配偶者は、自分の老後の年金である老齢基礎年金と老齢厚生年金が優先支給になり、差額があれば遺族厚生年金を支給します。この場合選択はできず、自動的に決定、改定されます。この仕組みを先あて支給といいます。

図表2

(A)と(B)を比べて、多い方がその人の遺族厚生年金になります。(B)には自分の老齢厚生年金の1/2がありますが、全体を遺族厚生年金として支給します。

次に、老齢厚生年金と遺族厚生年金の額を比べて、老齢厚生年金の方が多ければ遺族厚生年金は支給されません。反対に遺族厚生年金の方が多い場合は差額が遺族厚生年金として支給されます。

図表3
図表4

※国民年金の加入期間しかない方は当然ですが、上記の仕組みは適用されず、老齢基礎年金に加え遺族厚生年金が全額支給されます。

☆平成19年4月以前は完全選択でしたので、①遺族厚生年金、②老齢厚生年金、③遺族厚生年金の2/3と老齢厚生年金の1/2のいずれかを自身で選択することになっていましたが、受給者から自分の厚生年金が無駄になるのは納得できないという意見が多数あり、現在の制度に改定されました。

繰上げ請求または繰下げ請求を希望して年金を先送りしていた場合

清子さん 「夫は老齢基礎年金を先送りしてもらっていませんでしたし、私の年金額もそれほど多くはないので、65歳からの老齢基礎年金を繰り下げして増額をしたいと思いますが。」
社労士 「大変残念ながら、他の年金の受給権のある方は自分の老齢厚生年金を繰下げすることはできません。したがって、65歳の裁定はがきの手続きを期限までに必ず行ってください。また、ご主人の老齢基礎年金については本人の繰下げ請求の意思が生前に確認できなければ、本来の受給年齢である65歳に遡って計算され、未支給年金として支給されます。」
※死亡前に本人が繰下げ請求を行っていれば、死亡後でも繰下げした金額で未支給年金」が計算されます。

【繰り下げできない仕組み等について社労士が説明】

65歳以降の老齢基礎年金と老齢厚生年金は繰下げをして最大75歳まで増額をすることができますが、遺族厚生年金の受給権のある方は、仮に65歳になるまで特別支給の老齢年金を選択し、遺族厚生年金が支給停止になっていたとしても、老齢基礎年金も老齢厚生年金も繰下げすることはできません。また、65歳以降繰下げを希望し先送りをしていた場合、遺族厚生年金の受給権が発生した時点で繰下げ請求をしていただくか、65歳まで遡って請求をするかを選択していただくことになり、以降先送りをして繰下げ増額することはできません。

※年金の受給資格については前回のコラム記事を参照してください。
また、死亡した方が繰上げ請求をして減額された老齢厚生年金をもらっていた場合や、繰下げ請求をして増額した年金を受けていた場合でも、遺族厚生年金は繰下げ及び繰上げしていない本来の年金記録に基づき計算されます。

未支給年金の請求手続も同時に行う

年金受給者が死亡した場合には必ず未支給の年金がありますので、遺族年金の請求手続と一緒に未支給の年金の請求手続を行なってください。年金は偶数月の15日(土日祝の場合前日または前々日)支給ですので、1日に亡くなっても月末に亡くなっても死亡した月の分の年金は遺族が受け取ることができます。遺族厚生年金の請求者は配偶者、子、父母、孫、祖父母(子・孫は満18歳最後の年度末まで、障害者は20歳未満、夫・父母・祖父母は55歳以上で権利発生し、受給は60歳から(子のある夫は60歳前でも支給される場合あり))ですが、未支給年金は年齢制限なく、上記に加えて兄弟姉妹、第3親等の親族まで請求できます。
請求時にはいずれも生計維持や生計同一が求められますので、同居をしている場合であれば問題はありませんが、別世帯の場合には第3者証明等の提出が求められます。請求手続きの詳細については年金事務所や市区町村の年金課や社会保険労務士に確認いただくよう御願いいたします。

☆配偶者の遺族年金の請求の場合、死亡時に婚姻(戸籍謄本を提出)をしていることが必要。事実婚(内縁関係)の場合は事実婚である証明(お互いの戸籍謄本や第3者証明等の証拠書類等)が必要。
社会保険労務士
土屋 広和
さいたま総合研究所人事研究会 所属
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