2010.08.26
知って得する年金あれこれ 「女性と年金大特集」(2)出産予定の共働きの30代の女性
温泉は冬に限ると思われている方が多いのですが、夏の温泉もなかなかよいものです。8月の初め、福岡県の原鶴温泉にゆきました。筑後川のほとりの和モダンの宿は、源泉かけ流し(垂れ流しではありません)。ここのお湯は、優しく、実に穏やかに、染み渡るように包んでくれました。その心地よさの秘訣は湯の温度。湯守の女性が、「夏は38度が、冬はもっと熱いのが心地よいのですよ。ほんのわずかなバルブの開き具合の違いで、すぐ熱くなってしまうので・・・」と、何度も何度も温度を計っては、調整しておられました。川を渡ってさわさわと吹いてくる涼しい風に吹かれながら、妥協しない丁寧な仕事が作り出す心地よさを満喫しました。
今回は、出産を間近に控えた、会社員の女性からのご相談です。出産・育児に際しては、厚生年金や健康保険の保険料等についての支援措置をはじめ、出産手当金や出産育児一時金の支給、労働条件の緩和措置があります。せっかく用意されている次世代育成のための支援策です。内容を知って賢く活用してください。
- 大学卒業後就職したB子さんは30歳。結婚後も共働きで、今年で厚生年金の加入が8年になります。
- 現在妊娠していて、来年の2月に第1子出産予定です。
- 夫も会社員で厚生年金に加入中。32歳です。
B子さんからの質問
A1:出産前後や育児期間については、母体保護や育児支援の観点から、休業や労働時間の短縮等、労働条件を緩和するためのサポート(下図●)があります。また出産手当金や出産育児一時金、育児休業給付金等の支給(下図▲)が健康保険や雇用保険から行われます。さらに育児期間中については、厚生年金や健康保険の保険料についての特別措置(下図◆)があります。妊娠から職場復帰までを時系列で整理してみましょう。
A2:出産手当金は、出産で仕事を休んだため、給料が受けられない産休の間の生活をサポートするために、健康保険から支給されるお金です。受給できる金額は、標準報酬日額×2/3×産休の日数分です。
ところで産休というのは、労働基準法で定められている産前・産後の休業期間のことです。産前は、原則として出産予定日以前42日ですが、実際の出産が予定日より遅れた場合は、実際に出産した日までの期間も支給されます。たとえば、実際の出産が予定より5日遅れたという場合は、その5日分についても出産手当金が支給されます。また、多胎妊娠の場合は出産予定日以前98日となります。
産後は、出産の日の翌日以後56日間が支給対象です。
ただし、勤務先から産休の間も給料が支給され、その額が出産手当金の額より多い場合は、出産手当金は支給されません。
A3:出産をしたとき、胎児数に応じて支給されるものです。給付金額は、全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)の場合は、1児につき一律39万円です。なお、産科医療補償制度(注1)に加入している医療機関等で出産したときは、1児につき42万円が支給されます。多生児を出産したときは、胎児数分だけ支給されます。たとえば、双子の場合は×2人、三つ子の場合は×3人になります。また、加入しているのが組合管掌健康保険の場合は、プラスアルファの給付が行われることもありますので、所属している健康保険組合にお問い合わせください。
お産をしたときになんらかの理由で重度脳性まひとなった赤ちゃんとそのご家族の経済的負担が補償される制度で、分娩を取り扱う病院、診療所や助産所(分娩機関)が加入します。
A4:雇用保険に加入している人が、1歳未満の子を養育するために育児休業を取得した結果、給料が80%未満に減った場合に受給できます。
給付金は、原則として、休業開始時賃金月額(注2)×50%相当額(当分の間)です。
たとえば育児休業前の1ヵ月あたりの賃金が30万円の場合、育児休業給付金は1ヵ月あたり15万円(30万円×50%)となります。
A5:年金制度における次世代育成支援策として、育児休業中の保険料や標準報酬月額について、次の3つの支援措置があります。いずれも育児休業による給料の低下が、将来の年金や現在の暮らしに影響を与えることがないように配慮したものです。
- 厚生年金と健康保険の保険料免除措置
厚生年金と健康保険の保険料(いずれも事業主負担分および本人負担分)が免除されます。免除期間は、育児休業等を開始した月分から、育児休業等を終了する月の前月(終了した日が月の末日の場合はその月)までとなります。この間の年金額の計算は、育児休業取得直前の標準報酬で保険料納付が行われたものとして取り扱われ、保険料を免除されても年金額が減額される等の影響はありません。なお、保険料が免除となる期間には、産前・産後休業期間は含まれません。
- 育児休業期間における従前標準報酬月額みなし措置
仕事と育児を両立させる場合、残業ができなくなったり、短時間勤務にせざるを得なくなることから給料が下がるケースは珍しくありません。しかし、給料の低下は、将来の年金額の低下に直結してしまいます。そこで、3歳未満の子を養育する期間中の各月の標準報酬月額が、育児休業に入る前の標準報酬月額と比べて低下した場合、保険料は実際の低下した標準報酬月額に基づき決定されますが、年金額の計算にあたっては、育児休業前の高い標準報酬月額とみなす措置を取ってもらえます。これを従前標準報酬月額みなし措置といいます。
- 育児休業等終了時の標準報酬月額の改定
標準報酬月額の改定は、年に1回定時決定という方法で見直しが行われるほか、大きく給料が変動した場合は、一定のルールの下随時改定という方法で改定を行うこととなっています。しかし、育児休業等を終了した際の改定は、随時改定のルールとは別に、育児休業等が終了する日の翌日の属する月から3ヵ月間に受けた報酬をもとに、新たな標準報酬月額を決めることになります。これにより、2と同様の理由で給料が低下し、被保険者が申出をした場合は、標準報酬月額の改定が行われ、実際の報酬の低下に応じた保険料負担となります。これによって職場復帰後の保険料の負担の軽減が図られることになります。