2011.12.22
大きく得する年金の分岐点(5)60歳以後の有利な退職のタイミング
退職のタイミングについての最新記事は「れいこ先生のやさしい年金」(5)64歳11カ月での退職がお得って本当?(2017年5月24日公開)をご覧ください。
2011年もいよいよ残り数日となりました。お正月といえば、お雑煮をいただきますが、結婚して初めてのお正月を迎えたお嫁さんが戸惑うのが、お雑煮のレシピです。
まず、出汁は、醤油味、塩味、それとも味噌味にするのか。お餅は、別の鍋で茹でるのか出汁の中に入れて一緒に煮るのか、焼くのか。中には、白餅ではなく、あん餅を使う地方もあります。
上置きには、ぶりをはじめ、錦糸卵や鶏肉、かまぼこ、甘く煮た油揚げやシイタケ、ニンジン、ゴボウ、ユリ根、ホウレンソウ、ゆずの皮等々、豪華に用意するところもあれば、丸大根と小芋が入っただけのシンプルなものもあります。「実家のお雑煮がやっぱりおいしかった」と秘かに思いながらも、新しい家族の一員になったことを改めて感じるのでしょうね。
皆さんのお宅では、どんなお雑煮を用意されるのでしょうか。
新しい年がよき一年となりますことをお祈りいたします。
A1:60歳以後の退職のタイミングについてのご相談ですね。
雇用保険からの基本手当(いわゆる失業保険)を活用するという観点から、再就職先の退職時期についてアドバイスをすると、64歳11ヵ月での退職が有利です。
というのも、65歳前に基本手当を受給すると、年金を受け取ることができません。65歳前に受給する年金と基本手当はどちらか一つを選択することになります。しかし、65歳以後に受給する老齢厚生年金と基本手当は、両方受け取ることができるからです。
そのため、基本手当の受給資格を得るために65歳到達までの間に退職し、年金との併給調整がない65歳以降に基本手当を受け取ることができるタイミングが有利であると考えられます。そしてその時期が64歳11ヵ月なのです。
では、詳しく説明しましょう。
年金基礎知識!!【基本手当と老齢厚生年金・退職共済年金との調整】編
- 基本手当
●基本手当とは?
定年、倒産、契約期間の満了等により離職(退職のことです)し、新しい仕事を探す間の生活を保障するために、雇用保険から支給されるものです。
定年で退職した場合は、退職前2年間に11日以上働いた月が12ヵ月以上ないと基本手当は受給できません。●基本手当は何日受け取れるの?
基本手当を受け取ることができる日数を「所定給付日数」といいます。
離職の理由が定年、自己都合の場合と、倒産や解雇等の場合で、所定給付日数は異なり、倒産や解雇等の予測できない理由により離職する場合は、長く設定されています。また、雇用保険の加入期間等も影響します(表1参照)。
定年退職の場合は、20年以上の加入期間がある方は、150日の所定給付日数となります。●表1の「被保険者であった期間」について、たとえば60歳でA社を退職後、数ヵ月の空白期間の後、4年間B社に再就職し64歳9ヵ月で退職した場合、雇用保険の加入期間は、A社とB社の通算? それともB社分のみですか?
A社とB社の雇用保険の被保険者期間は、被保険者であった期間に1年を超えて空白がなければ、通算されます。今回は、数ヵ月とのことですので、通算の対象となります。
ただし、A社を離職した後、基本手当等を受給した場合には、通算はされず、B社での被保険者期間についてのみ、基本手当が支給されますので、ご注意ください。 - 基本手当はいくら受け取れるの?
基本手当の額は、離職前6ヵ月の給料の平均値をもとに決定します。賞与は関係しません。なお、給料の平均値が451,800円以上の場合は、451,800円とし、基本手当日額も6,777円が上限となります(表2参照)。
(例1)
勤続30年の方で、離職前6ヵ月の給料の平均値が40万円の場合は、受給できる基本手当の総額は、5,999円×150日=899,850円(所定給付日数すべて受給した場合)となります。
(例2)
A社38年、B社4年の通算42年間雇用保険に加入、64歳で自己都合退職し、B社離職前6ヵ月給料の平均値が25万円の場合は、受給できる基本手当の総額は、4,656円×150日=698,400円(所定給付日数すべて受給した場合)となります。 - 基本手当と老齢厚生年金・退職共済年金との調整は?
基本手当と老齢厚生年金・退職共済年金は、65歳前は、どちらか一方を選択し、65歳以後は併給されます(図3参照)。
●65歳未満の間の選択の目安
たとえば、退職前6ヵ月の給料が25万円の方は、4,656円×30日=139,680円の基本手当が受給できます。受給期間が65歳前の場合は、特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分と比較します。年金月額が、139,680円より低い場合は、基本手当を受給した方が有利です。
なお、長期加入者等の特例に該当し、定額部分や加給年金額が加算される場合は、加算部分も合計した年金額と基本手当を比較します。 - なぜ65歳前に離職するのか?
●65歳前に離職しなければ基本手当の受給ができない
基本手当は、65歳到達日前に離職すれば受給資格が得られます。
65歳到達日は誕生日の前日となりますので、誕生日の前々日までに離職すればよいことになります。たとえば、1月20日が誕生日の方は、1月18日までに離職すればよいということになります。●求職の申込み手続きは、65歳を過ぎても大丈夫?
基本手当を受給する手続きを「求職の申込み」といいますが、この手続きは65歳以後になっても問題ありません。
求職の申込みをして、7日の待期期間の後、指定された日にハローワークに出向き、失業の認定を受ければ、基本手当の受給が始まります。実際の受給期間が65歳以後になっても問題ありません。
つまり、65歳到達前に離職し、65歳到達月以後に求職の申込みを行って基本手当を受け取ることとすれば、年金との調整はまったく行われないということです。●手続きをする際「離職証明書」はどこで発行してもらえますか?
退職した会社が、作成し、交付することになっています。
●65歳以後に退職すると高年齢求職者給付金に・・・
離職日が65歳到達日以後になると、基本手当を受け取ることができなくなります。代わって受給できるのが高年齢求職者給付金(一時金で年金と併給)となります。
金額は、基本手当日額の30日(雇用保険の被保険者期間が1年未満)または50日分(雇用保険の被保険者期間が1年以上)となりますので、基本手当を受け取る方が有利です。 - 64歳で退職して、基本手当の受給を65歳以後にしてもよい?
65歳到達日前に離職すると、基本手当を受給するこができることはお分かりになったと思います。
では、64歳到達月で退職した場合は、65歳まで待って基本手当を請求すれば、よいのでは?と考える方がいらっしゃるかもしれませんね。
しかしそれはできません。
というのも、求職の申込みをして、所定給付日数分の基本手当の受給を完了するまでの期間は、離職日の翌日から1年間と決められているからです。
たとえば、基本手当受給を150日受けられる人が、100日受給した時点で離職日の翌日から1年を経過してしまったら、残りの50日分は受給できないまま終了ということになってしまいます。●65歳の誕生日の3ヵ月前に離職した場合(64歳9ヵ月)は、どうなりますか?
65歳未満での離職となりますので、基本手当の受給資格を得ることができます。3ヵ月待って、65歳に到達した日以後、求職の申込みをしても、所定給付日数150日は、離職日の翌日から1年の間に収まりますので、問題ありません。
- 結論
以上のことから、下記の3つの条件を満たす時期を選んで退職すると、基本手当と年金の両方を受け取ることができることとなります。
(1)基本手当を受給することができるように65歳に達する日の前日(65歳の誕生日の前々日)までに退職する
(2)65歳に達する日以後に求職の申込みをする
(3)基本手当の受給終了が離職日の翌日から1年以内の期間に収まるように65歳に達したら迅速に基本手当の手続きをする
今回のアドバイスは、基本手当と年金の関係のみに焦点をあてたものです。雇用契約が65歳到達時点で満了し、期間満了まで在職すれば、退職金や賞与等が支給されるようなときは、基本手当にこだわらない方がよい場合もあります。また、基本手当は非課税ですので、年金と基本手当の選択に関して、税金について考慮することも必要な場合もあります。個別の具体的な事例につきましては、ねんきん事務所、専門家等にご相談ください。