2013.04.03
「ねんきん定期便活用術」(3)
4月は、年度初めの月。新年とはひと味違う新しい時間の区切りは、桜花に彩られ、華やかな出立の雰囲気が感じられます。しかし、新しい出発には、卒業、転勤、引越し、定年退職等に伴う生活の場や周りの人たちとの別れがあり、また、今までの自分との別れもあったかもしれません。
「出発するということはいくらか死ぬことである。愛するひとに対して、死ぬことである。」(エドモン・アロウクール「別れの唄」より)という詩の一節があります。新しい出発の前には、それぞれちょっとした過去との別れがあり、そのかすかな心の痛みは、春の雪解けを告げる蕗の薹(フキノトウ)のほろ苦い味わいに似ているような気がします。
「ねんきん定期便活用術」その3
せっかくねんきん定期便が届いてもその見方がよくわからないという方は、少なくありません。ぜひ、これをきっかけに有効な年金情報をもっと退職後のライフプランに活かしてみませんか?
「夫婦で受け取る年金は、どのようになるの?」
「60歳以後働かないで年金だけで生活をすると、老後の資金は足りる?」
「80歳までの生活を保持するために老後資金はいくら必要?」
「どれくらいの生活費で生活すれば、年金生活が安心できるものになる?」
これから年金生活を迎える方にとっては、気になることばかりですね。
今回は、隼人さん、奈津子さんご夫婦をモデルに、ねんきん定期便を使って年金生活の現状と問題点を検証する方法をお伝えします。皆様もお手元にご夫婦の年金定期便をご用意いただき、ご一緒に検証してみましょう。
◆モデル事例
夫 隼人さん(昭和28年11月11日生まれ)59歳の会社員
隼人さんは、今年11月の誕生日に定年を迎えます。大学時代は20歳から国民年金に任意加入をしていました。卒業後、食品会社に就職し、現在も在職中です。26歳の時に高校の後輩だった2歳年下の奈津子さんと結婚しました。
妻 奈津子さん(昭和30年12月20日生まれ)57歳の専業主婦
短大卒業後、繊維関係の会社に就職し、7年間勤務して退職。その後は、専業主婦となり現在に至ります。国民年金の期間は、第3号期間のみです。
◆隼人さん、奈津子さんご夫婦のねんきん定期便をもとに「年金生活と老後資金の収支表」を作ってみましょう。
次の順序で、ご夫婦の年金を図表にしてみましょう。
(1)ご夫婦のうち年上の人はAの欄に、年下の人をB欄に記入します。
(2)「ねんきん定期便」に記載されている年金額を枠内に書き込みましょう。
・のマークがついている年齢が、年金の支給開始年齢となります。
生年月日や性別等によって、年金の支給開始年齢が違いますので注意してください。
・「経過的加算額」は、65歳からの老齢厚生年金と合算して、老齢厚生年金のところに記入します。(金額が少額の場合は、無視して構いません。)
・記入する見込年金額は、端数にこだわらず概算額とし、「○万○千円」としましょう。
(3)夫婦の年齢差を考慮して、配偶者の年金額をBの図に記入してください。
(4)加給年金額や振替加算額が加算されるかどうか確認しましょう。
加給年金額は年金の家族手当のようなもので、老齢厚生年金に加算されます。
加算の有無は、次のチャートで確認できます。
- 隼人さんご夫婦のケースでは・・・・
条件を満たしていますので、隼人さんが65歳に到達した月の翌月から奈津子さんが65歳に到達する月まで、加給年金額(年額393,200円)が加算されます。
その後、奈津子さんが65歳に到達すると加給年金額の加算はなくなり、奈津子さんの老齢基礎年金に振替加算額が加算されます。振替加算額は、妻の生年月日により、金額が異なります。 - 振替加算額
妻の生年月日 | 振替加算額(円) |
---|---|
昭和25年4月2日~26年4月1日生 | 81,500 |
昭和26年4月2日~27年4月1日生 | 75,400 |
昭和27年4月2日~28年4月1日生 | 69,500 |
昭和28年4月2日~29年4月1日生 | 63,400 |
昭和29年4月2日~30年4月1日生 | 57,300 |
昭和30年4月2日~31年4月1日生 | 51,400 |
昭和31年4月2日~32年4月1日生 | 45,300 |
昭和32年4月2日~33年4月1日生 | 39,100 |
昭和33年4月2日~34年4月1日生 | 33,300 |
昭和34年4月2日~35年4月1日生 | 27,200 |
昭和35年4月2日~36年4月1日生 | 21,100 |
昭和36年~40年4月2日~36年~40年4月1日生 | 15,200 |
(5)年金生活の記入は次のようにします。
・収入の欄には、ご夫婦の年金合計額を記入します。
隼人さんは年金の支給開始年齢が61歳ですので、再就職をしない場合は、60歳台の1年間は無収入になります。
・年間収支は、「収入-年間生活費」を記入します。
・資産残高は、「老後の資金±年間収支」を記入します。
これらによって、年金生活の問題点の推移を確認することができます。
「隼人さん・奈津子さんの年金生活と老後資金の収支表」
◆60歳以後働かないで年金生活に入ると、老後資金(1,000万円)はどうなりますか?(図中a参照)
・老後資金の1,000万円は、月額25万円で生活した場合、隼人さんが65歳台ですべて使い果たし赤字になります。
・その後も引き続き赤字は増え続けます。
◆80歳までの生活を保持するために老後資金はいくら必要でしょうか?(図中b参照)
・隼人さんが69歳11ヵ月の時点での赤字額が-136万円です。
その後年間14万円の赤字が10年間続くと、さらに-140万円となります。
・80歳時点での赤字の合計が、276万円になりますので、80歳時点まで生活費を確保するためには、1,276万円の用意が必要になります。
◆どれくらいの生活費で生活すれば、年金生活が安心できるものになりますか?(図中c参照)
受給できる年金の範囲内で生活することが、安心年金生活の基本となります。
図表中の年金生活の年間収支を見ていただくとわかるように、年金の受給開始からしばらくの間は、年間の不足額は変動します。
しかし、ある時期から不足額が一定の金額になります。この事例では年間14万円が不足するようになります。ということは毎月の生活費を14万円÷12ヵ月≒1.2万円節約して、月額23万8千円程度にすると収支が改善します。
- 安心できる生活費の目安
事例の隼人さんご夫婦の場合だけではなく、すべてのご夫婦に不足額または余剰額が確定する時期が訪れます。 それは、夫婦の双方が65歳に到達した時点です。その時点での夫婦の合計年金額が、安心年金生活のための生活費の目安になります。
- ねんきん定期便から安心年金生活費の目安を確認する
二人の老齢年金収入がいくらなのかを簡単に確認できる方法があります。それは、ご夫婦のねんきん定期便の老齢年金の見込額の赤枠のしるしのところに記載されている金額、隼人さん1,986,800円と奈津子さん815,350円と奈津子さんの振替加算額51,400円の合計を12ヵ月で割れば、算出できます。