2013.06.26
「ねんきん定期便活用術」(5)
今回は、60歳で定年を迎えてから、フルタイムで働く場合の収入についてのお話です。フルタイムで働くと、厚生年金と雇用保険に加入することになります。前回ご紹介した、厚生年金は加入せず雇用保険だけ加入して働くケースでは、年金はカットされず、全額受給できましたね。では、厚生年金に加入して働くと年金はどうなるのでしょうか?
前回に引き続き、平均的なサラリーマンである隼人さんをモデルにして、厚生年金に加入して働いた場合の年金と老後資金の収支を検証してみましょう。
◆60歳以後年金受給者が働く場合の収入は?
定年退職前の方の収入は給料と賞与でしたが、60歳以後年金受給者の方が働く場合の収入は、次のようになります。
①会社から支給される給料
②雇用保険で受給できる給付金
(定年後の就職は支給される給料が大幅に低下するため)
③支給開始年齢から受給できる年金
(年金は、働き方と給料や年金額によって、全額または一部が支給停止される場合があります。)
◆隼人さんのプロフィールを簡単におさらいしましょう。
- 隼人さん(昭和28年11月11日生まれ)59歳の会社員で、今年11月の誕生日に定年を迎えます。
- 妻の奈津子さん(昭和30年12月20日生まれ)57歳の専業主婦で、国民年金の期間は、第3号期間のみです。
- 老後資金は1,000万円で、生活費は月額25万円です。
◆隼人さんの年金は、次のようになります。
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- 60歳から再就職し、月額20万円の給料(賞与なし)でフルタイム勤務の予定。雇用保険、厚生年金に加入。
- 61~64歳は老齢厚生年金の報酬比例部分(120万円)※年額。以下同じ
- 65歳から老齢厚生年金(120万円)と老齢基礎年金(78万6,500円)
(1)隼人さんが20万円の給料で働くと年金はいくら受給できますか?
・隼人さんが会社から支給される「手取り給料」とは、「総支給額-(社会保険料控除額+所得税等の源泉徴収額)」となります。
・60歳代の収入:「手取り給料+高年齢雇用継続基本給付金」
・61歳~64歳の収入:「手取り給料+高年齢雇用継続基本給付金+在職老齢年金」
・厚生年金に加入しますので、報酬比例部分は、在職老齢年金の仕組み(注1)により、月額1万円が支給停止となり、月額9万円の支給となります。
・隼人さんの在職老齢年金の計算は次のようになります。
年金月額=10万円、総報酬月額相当額=20万円として計算します。
在職老齢年金の支給停止額=(10万円+20万円-28万円)÷2=1万円
在職老齢年金の支給額=10万円-1万円=9万円
(注1)在職老齢年金の仕組み
1.「在職老齢年金」とは?
老齢厚生年金(退職共済年金)を受給しながら、厚生年金(共済年金)に加入して働く場合に、年金の一部または全部が支給停止となる仕組みです。ポイントは、「在職」が単に「働く」ということではなく、「厚生年金(共済年金)に加入して働く」という点です。厚生年金に加入せずに働いた場合は、給料の額にかかわらず、年金は全額支給されます。
基本的な仕組みは、『総報酬月額相当額(※1)と年金月額(※2)の合計が28万円を超える場合は、総報酬月額相当額の増加2に対し年金を1停止する』さらに『総報酬月額相当額が46万円を超える場合は、超えた分だけ年金を停止する』となっています。(※1)総報酬月額相当額=標準報酬月額+過去1年の賞与合計額×1/12
(※2)年金月額=年金の年額(加給年金額を除く)×1/12
標準報酬月額については、日本年金機構のWEBサイト(http://www.nenkin.go.jp/index.html)をご参照いただくか、日本年金機構に直接お問い合わせください。
2.在職老齢年金の計算方法
最もよく使われる在職老齢年金の受給額の計算式は、次のようになります。
『受給額=年金月額-(総報酬月額相当額+年金月額-28万円)×1/2』総報酬月額相当額と年金月額、この2つの額を合計し、28万円(法律で決められている定額)を超えた部分の1/2が支給停止額となります。なお、2つの額の合計が28万円以下の場合は、年金はカットされません。(下図参照)
基本的には、給料や過去1年に支払われた賞与がある一定額より高い場合には、カットされる年金額が多くなり、給料や賞与が下がるにつれてカットされる年金額が少なくなります。3.高年齢雇用継続基本給付金を受給すると年金がさらにカットされるのでは?
厚生年金に加入して、給付金を受給しながら働く場合には、在職老齢年金の仕組みによる年金の支給停止に加えて、給付金を受給することによる年金の支給停止が行われます。
支給停止額は、再就職時の賃金が60歳到達時賃金(60歳到達前6ヵ月の給料の平均値)の61%未満に低下した場合には、再就職時の標準報酬月額×6%の額となります。
※高年齢雇用継続基本給付金は前回参照(2)隼人さんの給料の金額によって、手取り給料+在職老齢年金+高年齢雇用継続基本給付金の収入額はどのように変わるのでしょうか?
隼人さんが30万円の給料で働いた場合と15万円の給料で働いた場合で比較してみましょう。生活費は月額25万円。老後資金は、60歳時点で1,000万円あるという前提です。なお、このシミュレーションには、働く効果をわかりやすく見ていただくために、妻の年金は加えていません。
60歳から61歳の間は年金が支給されませんので、生活費はすべて老後資金を充てることになります。年金の受給が始まっても61歳から64歳までは、報酬比例部分が月額10万円支給されるのみですので、月額15万円のマイナスになるため年間180万円を老後資金1,000万円から捻出することになり、1,000万円の老後資金は、64歳代で赤字になります。
老後資金の64歳末月の残高は1,275万円で5年間働くことで、275万円の資金の増額となります。また、78歳代までは、資金は赤字になりません。
老後資金の64歳末月の残高は、60歳以後働かなかった場合では-20万円でしたが、15万円の給料で5年間働いた場合には826万円となります。また、73歳代までは、資金は赤字になりません。【シミュレーションの結果】
隼人さんが60歳から65歳までの5年間、30万円の給料で働いた場合と15万円の場合の総支給額と総収入を比較してみましょう。
①総支給額の差は、(30万円-15万円)×60ヵ月=900万円となります。
②総収入(=手取り給料+在職老齢年金+高年齢雇用継続基本給付金)の差は、1,275万円-826万円=449万円(=64歳末月での資金残高の差)に縮まります。
これは、在職老齢年金の「給料が2上がれば年金は1減額される」という仕組みによるものです。また社会保険料や給付金等の影響もあり、総支給額では、900万円の差があっても、総収入で比較すると、差は大きく縮まります。
15万円の給料で5年間働いても老後の生活の安定にどれほどの効果があるのか?と懐疑的になっている方も、このシミュレーションを見ていただくと、60歳以後の5年間を給料にこだわらずに働くことが、老後の生活の安定に大きな効果があるということがお分かりいただけるかと思います。
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