2013.10.16
「年金WEB相談室」(2)女性に優しい遺族年金<遺族基礎年金・遺族厚生年金・加算額>
先月、縁結びの神様として知られる出雲大社に参拝しました。今年は、60年に一回の遷宮(御神体や御神座を本来あったところから移し、社殿を修造し、再び御神体にお還りいただくこと)の年に当たり、国宝である御本殿は、大屋根に新しい檜皮(ひわだ)が分厚く葺かれ、その美しさ重厚さに感じ入りました。5月10日には、新しく生まれ変わった御本殿に「大国主大神」がお戻りになる儀式が無事終了したとのことでした。改修工事はご本殿だけではなく、摂社・末社も工事が進められています。すべてが完了するまでに8年の歳月と総工費80億円の費用がかかる大事業です。この工程の中で、社殿の建築など様々な技術の継承が行われるそうです。
また、遷宮を行うことで神様の力がリフレッシュされるといわれています。ご本殿の前に立った時、ピリッと姿勢を正したくなるような清らかな空気が流れてきたように感じたのは気のせいでしょうか。皆さまも、この秋には出雲にお出かけされてはいかがですか?
★遺族年金は、男性より女性に優しい制度なのでしようか?
【質問1】遺族年金のことで疑問があります。
共働きの夫婦の場合、夫が死亡すると妻に遺族の年金が支給されますが、妻が死亡しても夫には遺族の年金が出ませんよね。
最近は、共稼ぎをしてやっと生活費が捻出できるという家庭も珍しくありません。つれあいが亡くなって困るのは、妻だけじゃありませんよ。
夫だって本当に困りますよね。
これって一体、どういうことですかね!?
教えてください。
(妻に支えられて生きている53歳の男性)
【回答】
◆遺族基礎年金は、どうなる?
遺族の年金は、死亡した人が「遺族年金の死亡者の要件」に該当していること、遺族が「遺族年金を受け取ることのできる範囲の遺族」であることにより支給されます。亡くなった方と遺族の両者の要件がそろって初めて、年金が支払われるのが特徴です。
1. まずは、遺族基礎年金の死亡者の要件を確認してみましょう。
① 国民年金の被保険者の死亡
② 国民年金の被保険者であった方で、日本国内に住所を有する60歳以上65歳未満の方の死亡
③ 老齢基礎年金の受給権者の死亡
④ 老齢基礎年金の受給に必要な加入期間の要件を満たしている方の死亡
夫が死亡した場合も、妻が死亡の場合も、①の要件を満たしているので、いずれも遺族基礎年金を残すことはできます。
2. 次に、遺族基礎年金を受給できる遺族について確認してみましょう。
遺族基礎年金を受給できる遺族は、
『生計維持関係(注1)にあった、「子(注2)のある妻」または「子」』
となっていて、夫は遺族の範囲に含まれていません。
つまり遺族基礎年金は、夫の死亡により妻と子が残されて母子家庭状態となった場合または、子だけが残された場合に支給されるということです。これは、遺族基礎年金が「①妻が主な働き手である夫を失って、生活の途をなくし、かつ、②未成年の子を抱え、働くことが困難である場合に生活保障すること」を支給目的として定められているからです。
妻が死亡して子と夫が残されても、現行の法律では、夫は遺族基礎年金は受給できません。では、この場合には、子が受け取れるのかというと「生計を同じくするその子の父がいる場合は、子の遺族基礎年金は支給停止する」というルールがあり、子が父と一緒に住んでいる間は、子も受け取ることはできません。つまり妻が亡くなって、遺族基礎年金を残しても、誰も受け取ることができない状態となります。父に生計を維持されていれば、子の生活は保障されると考えられるため、このように定められています。
3. 夫にも遺族基礎年金が支給される!?
2014年(平成26年)4月から、遺族基礎年金の受給権者の範囲が『「子のある妻」または「子」』から『「子のある配偶者」または「子」』に改正されます。これによって、妻が死亡し、子のある夫が残された場合には、夫に遺族基礎年金が支給されることになります。
(注1)「生計維持関係」とは
受給権者と生計を一緒にし、前年の年収が850万円未満(または、所得が655.5万円未満でも可)であれば、生計維持関係があると認められます。なお、前年の年収が850万円以上ある場合でも、おおむね5年以内に定年退職等で850万円未満になることが明らかな場合は、生計維持関係が認められます。
(注2)「子」とは
18歳に達した日以後の最初の3月31日までの間にあるか、20歳未満の障害等級1・2級の障害の状態にある、いずれも未婚の子
◆遺族厚生年金はどうなる?
1.まずは、遺族厚生年金の死亡者の要件を確認してみましょう。
① 在職中の死亡
② 被保険者であった方が、厚生年金加入中に初診日のある病気・けが等により、初診日から5年以内に死亡
③ 障害厚生年金1・2級の受給権者の死亡
④ 老齢厚生年金の受給権者の死亡
⑤ 老齢厚生年金の受給に必要な加入期間の要件を満たしている方の死亡
夫が死亡した場合も妻が死亡の場合も①の要件を満たしているので、いずれも遺族厚生年金を残すことはできます。
2. 次に、遺族厚生年金が受給できる遺族について確認してみましょう。
遺族厚生年金が受給できる遺族は、
「生計維持関係にあった、①配偶者・子 ②父母 ③孫 ④祖父母」です。
配偶者には妻も夫も含まれますので、妻が死亡した場合、夫も遺族厚生年金を受け取ることができます。ただし夫には年齢制限があり、妻の死亡当時55歳以上である場合に限り遺族となります。また、受給開始も60歳からと定められています。年齢にかかわらず、夫の死亡により何歳でも遺族となり、すぐに遺族厚生年金が受給できる女性に比べて、明らかに男性の年齢要件は不利ですが、法律が制定された当時は、女性に比べて男性は一般に所得が高く、しかも男性は女性と比べて雇用の機会や雇用条件が恵まれていたという事情があったために、このように定められました。今後の社会情勢の変化の中で、改定されてゆく可能性がありそうです。
ところで、60歳以後、夫が自身の特別支給老齢厚生年金を受給する場合、妻の遺族厚生年金との間に併給調整が行われ、どちらか有利な方を選択することになります。一般的には、妻の遺族厚生年金より夫の老齢厚生年金の方が高く、夫は自身の老齢厚生年金を選択することになります。そのため、「共働きの妻が亡くなっても、夫は妻の遺族厚生年金を受け取れない」といわれているのです。しかし正確には、受け取れないのではなく有利な方を受け取った結果、自身の老齢厚生年金を受けとる人が圧倒的に多いということです。
◆まだまだあります、女性に優しい遺族年金!
1.中高齢寡婦加算額(厚生年金)
その名の通り「寡婦」、つまり女性限定の遺族厚生年金の加算額です。子が18歳以上等の理由で遺族基礎年金の受給権を持たない(または、持っていたけれどなくしてしまった)中高齢(40歳以上65歳未満)の妻は、夫が死亡しても遺族基礎年金は受給できません。しかし、遺族厚生年金の基本額だけでは生計を維持することは難しく、収入をアップさせるために就職を希望しても年齢的に難しいのが現状です。そこで、65歳の老齢基礎年金の受給開始前までの間、中高齢寡婦加算額が遺族厚生年金に加算されるのです。金額は、定額で583,900円(年額)です。
加算される要件は、次の通りです。
【死亡した夫の要件】
① 厚生年金の被保険者期間が原則20年以上ある夫
② 20年未満であっても、在職中の死亡等に該当し「期間みなし年金」となる夫
【妻の要件】
① 夫の死亡当時40歳以上65歳未満の妻
② 40歳に到達した時点で、遺族基礎年金の受給権を有していた65歳未満の妻
ただし加算は、遺族基礎年金の受給権を失った時からとなる
2.経過的寡婦加算額(65歳からの遺族厚生年金に加算)
中高齢寡婦加算額は、遺族厚生年金を受給している妻が65歳になった時点で、経過的寡婦加算額に変わります。理由は、妻が65歳になると老齢基礎年金を受給するようになるからです。しかし老齢基礎年金は、必ずしも中高齢寡婦加算額と同じ金額とは限りません。1956年(昭和31年)4月1日以前生まれの方は、基礎年金制度ができた1986年(昭和61年)4月1日において30歳以上であったため、その日に国民年金に加入しても、中高齢寡婦加算額より老齢基礎年金の額が低額になってしまいます。
そこで生年月日に応じて経過的寡婦加算額を加算することで、65歳からの年金額の低下を防いでいます。
3. 寡婦年金(国民年金)
寡婦年金も「寡婦」つまり、女性限定の遺族年金で、国民年金から支給されます。死亡した夫の要件は、以下の通りです。
① 国民年金の第1号(任意加入も含む)被保険者としての保険料納付済期間と免除期間を合算して25年以上あること
② 障害基礎年金を受ける権利を持っていたり老齢基礎年金を受給していなかったこと
また、遺族である妻の要件は、以下の通りです。
① 生計維持関係にあり、10年以上婚姻関係が継続していたこと
② 65歳未満であること
③ 老齢基礎年金の繰り上げ受給をしていないこと
夫が何らの給付も受け取ることなく死亡し、かつその死亡によって遺族基礎年金も発生しない場合に寡婦年金が発生します。つまり寡婦年金は、掛け捨て防止の役割と、妻が60歳から老齢基礎年金の受給を開始する65歳までの間の収入を補完する役割を果たします。
◆いろいろと見てくると・・・
ご相談者の印象通り、遺族年金は女性に優しい制度がいろいろと組み込まれています。今でこそ、女性の社会的な進出が目覚ましく、どうして女性がそんなに手厚く保護されるのかと感じられるかもしれません。
しかし、国民年金は1961年(昭和36年)に施行されました。厚生年金はもっと古くて1942年(昭和17年)からスタートしています。当時の女性が置かれていた社会的な状況を考えると頷ける部分があります。そして、制度の優しさのようなものが感じられます。
近年では夫と妻のどちらも働いている、いわゆる共働き世帯が増えて、2012年(平成24年)には1054万世帯となり、片働き世帯787万世帯を大きく超えています。かつては、一家の大黒柱といえば夫でしたが、現在では多くの家庭が、夫と妻の2本の大黒柱で家計を支えているということですね。このように妻も大黒柱になっていることが一般的となり、妻の死亡に対して子のある夫が遺族基礎年金を受給することができる改正が、2014年(平成26年)の4月から行なわれます。ゆっくりではありますが、社会の動きや流れに年金制度も合わせてゆこうという意図が感じられますね。