2014.05.14
「年金WEB相談室」(5)年金の繰上げ・繰下げ<老齢基礎年金と老齢厚生年金の繰上げ・繰下げ>
早朝のNHKラジオで、「人生ラスト10年問題」という言葉を知りました。
平成24年度の簡易生命表によると、平均寿命は男性で79.94歳、女性で86.41歳です。
しかし、健康上の問題がなく、日常生活に制限のない期間、いわゆる「健康寿命」は、男性70.42歳、女性73.62歳なのです。
驚きました!元気な時間がそんなに短いとは!
健康寿命と平均寿命の差は、男性で約10年、女性は約13年で、予想した以上に長い期間、介護や医療が必要になるということなのです。
この期間を「人生ラスト10年問題」と名付けた医師の秋山和宏さんは、解決の糸口はウォーキングにあると話されました。
人生ラスト10年には、(1)歩けなくなる(2)食べられなくなる(3)物事がわからなくなるという、3つの節目があるそうです。 そしてそのすべてにウォーキングが非常に有効であると訴えられました。
ウォーキングなどの運動による骨格筋量増加が、歩くことはもちろん、摂食・嚥下機能に大きく作用する舌の筋肉量に比例することが科学的にわかってきたそうです。また、運動器官からの脳への刺激やセロトニンの分泌促進などはウォーキングの認知症予防効果も注目されています。
ウォーキングの目標は、1日1万歩と言われていますが、必ずしも1万歩にこだわる必要はなく、今までよりも1000歩、また1000歩と増やしてゆき、歩くことを続けることが大切だそうです。私は歩いて通勤していますが、少し回り道をして通勤距離を伸ばしてみようと思いました。
さて今回は、「繰上げ請求と繰下げ請求」のお話です。
1.老齢基礎年金と老齢厚生年金の繰上げと繰下げ請求について
【質問1】
老齢の年金を決められた年齢ではなく、希望する年齢から受給することができると聞きましたが、そんなに自由に自分で決められるのですか?
【回答1】
65歳から受給できる老齢基礎年金と老齢厚生年金は、65歳前の希望する年齢に早めて請求することができます。これを「繰上げ請求」又は「繰上げ受給」といいます。一方、65歳後の希望する年齢に遅らせて請求することもできます。これを「繰下げ請求」又は「繰下げ受給」といいます。
繰上げ請求ができるのは60歳以後から、また、繰下げ請求をして金額が増額になるのは、原則70歳までの間となっています。ただし、65歳で受給資格期間を満たすことができない人は、その後受給資格期間を満たした時点から5年間、繰下げることができます。
【質問2】
繰上げ請求や繰下げ請求をすると、年金額はどのようになりますか?
【回答2】
繰上げ請求をすると繰上げ月数に応じて、年金額は減額になります。1月当たりの減額率は-0.5%となるため、60歳までの60月を繰り上げるとすると受給率は70%となります。
繰下げ請求をすると繰下げ月数に応じて、年金額は増額になります。1月当たりの増額率は+0.7%となるため、60歳までの60月を繰り下げるとすると受給率は142%となります。なお、繰下げは、66歳以後しかできません。
次に繰上げ・繰下げした場合の年金額の計算事例を見てみましょう。
■65歳から60万円の老齢基礎年金を受給できる昭和26年5月生まれの人が…
62歳0ヵ月で繰上げ受給すると ⇒ 受給率は82.0%(100%-0.5%×36月)で、
年金額は492,000円(60万円×82.0%)となります。
69歳2ヵ月で繰下げ受給すると ⇒ 受給率は135.0%(100%+0.7%×50月)で、
年金額は810,000円(60万円×135.0%)となります。
2.老齢基礎年金を繰り上げる場合の注意点
【質問1】
老齢基礎年金の繰上げ請求を行う際に気をつける点があれば教えてください。
【回答1】
老齢基礎年金の繰上げ請求を行う際の注意点は、次のようになっています。繰上げ請求を希望する際には、よく検討して下さい。
①一生減額された年金額になります。65歳になっても増額はしません。
②障害状態になっても、障害基礎年金は発生しません。
③遺族基礎年金に該当しても65歳までは、繰上げの老齢基礎年金と遺族厚生年金のどちらか一方を選択します。65歳からは両方受け取ることができます。
④寡婦年金は受給できません。
⑤任意加入できません。
⑥特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分は、繰り上げた老齢基礎年金と併給されます。
⑦繰り上げた老齢基礎年金は、厚生年金の被保険者になった場合でも支給停止されません。
3.老齢厚生年金の繰上げ請求について
【質問1】
老齢厚生年金の繰上げ請求について教えてください。
【回答1】
老齢厚生年金の繰上げには、次の3つのパターンがあります。
①報酬比例部分の支給開始年齢に到達する前に繰り上げるケース
②報酬比例部分の支給開始年齢に到達以後に繰り上げるケース
③長期加入者・障害者の特例に該当する人が繰り上げるケース
①については【パターン1】で、②については【パターン2】で、③のケースでは【パターン3】で説明をしましょう。
【パターン1】報酬比例部分の支給開始年齢に到達する前に繰り上げるケース
私は、昭和30年3月生まれの男性です。来年3月に60歳を迎え、38年勤めた会社を退職します。
退職後は再就職をせずに、野菜作りや花作りをしたいと思っています。幸い妻も働いているので、私の希望もかなえられそうです。
ところで私の年金は、原則通り受け取れば下記のようになります。このままだと60歳から61歳までの間、年金が受給できないので報酬比例部分を60歳まで繰り上げて受け取りたいと思います。繰り上げて受け取るといくらの年金額になりますか?
【回答1】
相談者は、報酬比例部分の支給開始年齢が61歳です。60歳で厚生年金を繰り上げ請求をしたいというご希望ですが、報酬比例部分の支給開始年齢到達までの間に繰上げ請求をする場合は、「老齢基礎年金と老齢厚生年金は、その両方を同時に繰り上げなければならない」ということになっています。また、老齢厚生年金を繰り上げた人は、その後要件に該当しても、長期加入者の特例、障がい者の特例は受けられませんので、注意が必要です。
では、年金額の計算をしてみましょう。
(1)まず、繰上げ請求月から報酬比例部分の支給開始年齢到達月の前月までの月数(=A月)を数えます。12ヵ月ですね。次に繰上げ請求月から65歳到達月の前月までの月数(=B月)を数えましょう。
60ヵ月ですね。
(2)①全部繰上げ受給の老齢基礎年金の金額を求めてみましょう。
全部繰上げ受給の老齢基礎年金=老齢基礎年金の額-(老齢基礎年金の額×0.005×B月)
=70万円-(70万円×0.005×60月)
=49万円
(3)②繰上げ受給の報酬比例部分の金額を求めてみましょう。
繰上げ受給の報酬比例部分
=報酬比例部分の年金額-{(報酬比例部分の年金額×0.005×A月)+(経過的加算額×0.005×B月)}
=100万円-{(100万円×0.005×12月)+(1万円×0.005×60月)}
=93万7,000円
(4)最後に③経過的加算額ですが、繰上げによる減額分は報酬比例部分から減額され、経過的加算額そのものは減額されずに加算されることになるので、1万円です。
【パターン2】報酬比例部分の支給開始年齢に到達以後に繰り上げるケース
私は、昭和30年3月生まれの男性です。来年3月に60歳を迎え、38年勤めた会社を退職します。
1年間は再就職をする予定ですが、その後は夫婦で世界中を旅するという若い頃からの夢を実現させます。幸い年金も報酬比例部分が受給できるようになるので、61歳(平成27年3月)で第2の退職を考えています。
さて私の年金は、原則通り受け取れば次のようになります。しかし、年金が報酬比例部分のみでは少し心もとないので、老齢基礎年金も61歳から受け取ることを考えています。繰り上げて受け取るといくらの年金額になりますか?
【回答2】
相談者は、報酬比例部分の支給開始年齢が61歳です。61歳で老齢基礎年金も繰り上げ請求をしたいというご希望です。このように、報酬比例部分の支給開始年齢到達以後に繰り上げるケースでは、報酬比例部分はそのまま受給できます。老齢基礎年金については、全部繰上げとなります。
では、年金額の計算をしてみましょう。
(1)繰上げ請求月から65歳到達月の前月までの月数(=B月)を数えましょう。
48ヵ月ですね。
(2)①全部繰上げ受給の老齢基礎年金の金額を求めてみましょう。
全部繰上げ受給の老齢基礎年金=老齢基礎年金の額-(老齢基礎年金の額×0.005×B月)
=70万円-(70万円×0.005×48月)
=53万2,000円
(3)報酬比例部分は減額なしの額で100万円、65歳からの老齢厚生年金は経過的加算額1万円が加算されて、101万円となります。全部繰上げの老齢基礎年金は、65歳以後も53万2,000円です。
【パターン3】
私は中学を卒業してから、44年6ヵ月会社に勤めました。年金の受給開始は、61歳ですが、長く働いたので、60歳で退職したいと思っています。年金を早くもらうことはできますか?
【回答3】
あなたは、長期加入者に該当し、退職して厚生年金の被保険者でなくなるので、61歳から特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分に合わせて定額部分を受け取ることができます。
60歳まで繰り上げた場合は、老齢厚生年金と老齢基礎年金は必ず同時に繰り上げることになっています。しかし定額部分があるため、老齢基礎年金の全額を繰り上げると定額部分が支給停止になってしまうため、老齢基礎年金は一部繰上げとなります。ということで、60歳まで繰り上げると次のような受給スタイルとなります。
それぞれの計算式は、次のようになります。なお、A月は、繰上げ請求月から報酬比例部分の支給開始年齢到達月の前月までの月数、B月は繰上げ請求月から65歳到達月の前月までの月数です。
②=報酬比例部分の年金額-{報酬比例部分×0.005×A月+経過的加算額×(B月-A月)/B月+経過的加算額×A月/B月×0.005×B月}
③=繰上げによる減額分は報酬比例部分から減額され、経過的加算額そのものは減額されずに加算
④=老齢基礎年金×A月/B月×(1-0.005×B月)
⑤=老齢基礎年金×(1-A月/B月)
⑥=報酬比例部分の年金額-{(報酬比例部分×0.005×A月)+(経過的加算額×A月/B月×0.005×B月)}+経過的加算額 ※加給年金額は、特例支給開始年齢から加算
【質問2】
老齢厚生年金を繰り上げる際の注意点を教えてください。
【回答2】
老齢厚生年金を繰り上げた場合には、次のような注意点がありますので、よく検討してから手続きをしてください。
①繰り上げた後に厚生年金の期間を延ばし528月を超えても、長期加入の特例は受けられない。
また、万一障害の状態になっても障害者の特例を受けることはできない。
②繰り上げた報酬比例部分と基本手当は、どちらか一方を選択する。
基本手当を受け取ると報酬比例部分は受給できない。
③繰り上げた報酬比例部分は、28万円の在職老齢年金の調整が行われる。
④繰り上げた報酬比例部分は、高年齢雇用継続基本給付金との調整が行われる。
3.老齢基礎年金・老齢厚生年金の繰下げ請求について
【質問1】
老齢基礎年金と老齢厚生年金の繰下げ請求について教えてください。
【回答1】
①老齢年金の受給権発生から、最低1年以上、受給時期を遅らせる必要があります。
そのため66歳到達後でなければ、繰下げ請求はできません。65歳到達後から65歳11ヵ月の間で請求すると、繰下げ受給には該当しません。
②老齢基礎年金と老齢厚生年金が受給できる場合の繰下げ受給は、
(1)両方とも繰下げても構いません。
(2)どちらか一方のみの繰下げも可能です。
(3)繰り下げる時期が、それぞれ異なっていても構いません。
③65歳時点で遺族厚生年金や障害厚生年金(=「老齢や退職」以外の年金給付)の受給権のある人は、老齢基礎年金の繰下げはできません。
④障害基礎年金の受給権のある人は、老齢基礎年金の繰下げはできませんが、65歳以後は障害基礎年金と老齢厚生年金の併給(両方の受給)が認められるため、老齢厚生年金の繰下げは可能です。
⑤特別支給の老齢厚生年金(65歳未満の間に支給される報酬比例部分や定額部分)を受給しても、老齢基礎年金や65歳以後に支給される老齢厚生年金の繰下げ受給は可能です。
⑥加給年金額や振替加算額は、繰下げしても増額されません。また、繰下げ待機期間中は、受けることはできませんので、受給できないままになってしまいます。
⑦繰下げ待機期間中に請求をする場合は、「繰下げによる増額請求」または「増額のない年金をさかのぼって受給」のどちらか一方を選択できます。
⑧在職中の人は、在職老齢年金の調整後に支給される年金が増額の対象となります。年金の全額が繰下げ受給による増加の対象にならないので、注意してください。
⑨繰下げ受給の際の手続きは、
(1)両方の繰下げ ⇒ 65歳到達時に送付されるハガキ形式の「老齢給付裁定請求書」を提出せずに、繰下げ受給の開始を希望する時期に「老齢基礎・厚生年金支給繰下げ請求書」を提出します。
(2)一方のみの繰下げ ⇒ 65歳到達時に送付されるハガキ形式の「老齢給付裁定請求書」の繰下げ希望欄に、繰下げる年金を○で囲んで提出します。