2014.11.12
「年金WEB相談室」(7)障害年金の基礎知識
老齢の年金には、「雑所得」として所得税および復興特別所得税がかかります。日本年金機構は、受給者の方に年金を支払う際にこれらの所得税等を源泉徴収することになっています。所得税等の額の計算をするために、毎年10月下旬になると日本年金機構から課税対象となる方に、はがき形式の「扶養親族等申告書」が順次送付されます。年金に係る所得税額および復興特別所得税額の計算は、「扶養親族等申告書」をもとに行われますので、必ず返送してください。提出しないと年金の各種控除が受けられません。
なお、課税の対象となるのは、65歳未満の方は108万円以上、65歳以上の方は158万円以上の金額の老齢年金を受け取られた場合です。この金額に満たない方には、「扶養親族等申告書」は送付されませんし、提出の必要もありません。また、障害や遺族の年金は、非課税ですので、受け取る年金額を計算するときには、算入されません。
さて、今回は、障害年金のご相談です。
◆障害年金の種類と対象となる障害
【質問1】
国民年金のみに加入している私と、厚生年金に加入している夫とでは、万一の時に受け取ることができる障害の年金は違うのでしょうか?
【回答1】
障害の状態になった場合の保障として、国民年金の場合は障害基礎年金、厚生年金の場合は障害厚生年金、共済年金の場合は障害共済年金があります。障害の程度によって等級分けがされていて、厚生年金と共済年金は1級・2級・3級がありますが、国民年金は1級・2級のみです。
国民年金と厚生年金・共済年金の関係は次のようになっています。
【質問2】
どのような障害が障害年金の対象になるのでしょうか?
【回答2】
障害の給付を受けることができるのは、身体と精神に障害等級表(国民年金法、厚生年金保険法による)に定める程度の障害の状態があり、かつ、その状態が長期にわたって存在する場合です。例えば人工透析療法施行中の場合は2級、また心臓にペースメーカーを装着した場合は3級とされます。
障害等級表を確認したい場合は、こちらでどうぞ
なお、障害状態の基本的な考え方は、次のようになっています。
(1)1級
身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が、他人の介助を受けなければほとんど自分の用事をすませることができない程度のもの。
例えば、身のまわりのことはかろうじてできるが、それ以上の活動はできないようなケースで、病院内の生活でいえば、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの、また、家庭内の生活でいえば、活動の範囲がおおむね就床室内に限られるもの。
(2)2級
身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が、必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活は極めて困難で、労働により収入を得ることができない程度のもの。
例えば、家庭内の極めて温和な活動(軽食作り、下着程度の洗濯等)はできるが、それ以上の活動はできないケースで、病院内の生活でいえば、活動の範囲がおおむね病棟内に限られるもの、また、家庭内の生活でいえば、活動の範囲がおおむね家屋内に限られるもの。
(3)3級
労働が著しい制限を受けるか又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの。
また、「傷病が治らないもの」にあっては、労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度のものとする(「傷病が治らないもの」については、障害手当金に該当する程度の障害の状態がある場合であっても3級に該当する)。
(4)障害手当金
「傷病が治ったもの」であって、労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度のもの。
◆障害年金が受け取れるかどうかの確認はどのようにしますか?
【質問1】
障害年金が受け取れるのかどうかは、どのようにして判断すればよいのでしょうか?
【回答1】
障害年金の受給ができるかどうかについては、まず障害の原因となった病気やけがの初診日を確認する必要があります。その上で、次の3つの要件をすべて満たしていることを確認します。
1.障害の原因となった病気・けがの「初診日」に年金制度(国民年金・厚生年金・共済年金)に加入していることが必要です。
2.「初診日の前日」に一定の保険料納付要件を満たしていることが必要です。
3.「障害認定日」に一定の障害状態にあることが必要です。
【質問2】
「初診日」要件とはなんですか?
【回答2】
まず「初診日」ですが、病気・けがで初めて医師・歯科医師の診察を受けた日をいいます。そして、初診日にどのような公的年金制度に加入していたのかによって、受給できる年金が違ってきます。
国民年金のみに加入・・・障害基礎年金
厚生年金に加入・・・障害基礎年金と障害厚生年金
共済年金に加入・・・障害基礎年金と障害共済年金
よくある例ですが、体調が悪くなって退職した人が、退職してから初めて病院に行った場合には、初診日には国民年金の被保険者となってしまいます。この病気が原因で障害の状態になったとしても、障害基礎年金の保障しかありません。しかし、退職前に受診しておけば、初診日には厚生年金に加入しているので、障害基礎年金と障害厚生年金を受給することができます。障害の状態になったのが、退職後であったとしても障害厚生年金を受給することができます。
【質問3】
「初診日」を証明するには、どんな書類が必要ですか?
【回答3】
【回答2】で記述したように、初診日がいつであるのかは、年金を受給する上で非常に大切なことになります。
初診日を証明する書類としては、病気やけがで初めて診察を受けた病院等での証明書が必要です。しかし、転医等でその病院等の証明を受けられないときは、過去にさかのぼって初診日を証明する必要があります。その際は、「初診日の証明書が添付できない理由書」と合わせて次のようなものが参考書類として必要です。
・障害者手帳交付時の診断書 ・事業所の健康診断記録
・生命保険加入時の健康診断記録 ・母子手帳交付時の健康診断記録
・最初に診察を受けた医療機関のカルテがない場合は、2か所目以後で作成可能な最も古い医療機関での「受信状況等証明書」
【質問4】
「保険料納付要件」とはなんですか?
【回答4】
障害年金の受給に際しては、保険料をきちんと納めているかどうかが問われます。確認日は、初診日の前日となっています。これは、病気やけがにみまわれてから、滞納していた保険料を支払って、障害年金を受け取るといった逆選択を防止するためです。
では、きちんと納めているかどうかは、どのように判断するのでしょうか?
まずは①の原則で判断します。原則の要件を満たしていない場合は、②の特例の要件で確認をします。
①(原則)初診日の前々月までの被保険者期間のうち、保険料納付済期間または保険料免除期間(学生の納付特例、若年者の納付猶予を受けた期間も含む)が3分の2以上あること。
②(特例)初診月の前々月までの直近1年間に、保険料の滞納期間がないこと。
この特例は、初診日において65歳以上の者には適用されません。
【質問5】
「障害認定日」とはなんですか?
【回答5】
障害の程度を決める日です。
「障害認定日」は、障害年金を請求する傷病の初診日から起算して1年6か月を経過した日です。又は1年6か月以内にその傷病が治った場合には、その治った日(その症状が固定し、治療の効果が期待できない状態に至った日を含む)をいいます。
【質問6】
「障害認定日」に障害等級に該当しなくても、その後障害の状態が悪化して障害等級に該当するようになった場合には、年金は受け取れるのでしょうか?
【回答6】
障害年金の初診日要件と保険料納付要件は満たしているけれど、障害認定日に障害等級に該当していなかった人が、障害認定日後に障害等級に該当する場合を「事後重症」といいます。事後重症による障害年金を請求するには、次の2つの要件を満たすことが必要です。
①65歳に達する日の前日までに、障害等級1・2級(厚生年金・共済年金の場合は1・2・3級)に該当すること。
②65歳に達する日の前日までに、請求を行うこと。
【質問7】
年齢が高くなると、病気等で障害の状態になる可能性が高くなると思いますが、障害年金の保障を受けられるのは、いつまでですか?
【回答7】
厚生年金の被保険者でない場合は、「初診日が65歳に達する日の前日までの間にある場合」となります。ただし、65歳未満で老齢基礎年金の繰上げ受給をした場合は、その時までとなります。
また、初診日に厚生年金の被保険者(70歳未満)の場合は、繰上げ受給をしていても、65歳を超えていても認定日請求の障害厚生年金が請求できます。ただし、事後重症による請求はできません。
◆障害年金はいくらくらい受け取れるの?
【質問1】
障害基礎年金の金額はいくらですか?
【回答1】
障害基礎年金の年金額は、保険料を納付した期間に関係なく、定額です。
【質問2】
障害厚生年金の金額はいくらですか?
【回答2】
障害厚生年金の年金額は、等級により、次の表のようになります。
障害厚生年金の額の計算のもととなる、報酬比例の計算は、次のようになっています。
給料等の平均値×給付乗率×被保険者月数×スライド率
老齢厚生年金の額の計算とおおむね同様ですが、異なる点もあります。
①厚生年金の被保険者月数が300月に満たない場合は、300月として計算します。
②給付乗率は、受給権者の生年月日や被保険者期間に関係なく定率です。
(1)H15年3月まで:7.5/1,000
(2)H15年4月以後:5.769/1,000
なお、2級と3級の年金額は、配偶者がいない場合は、同額となります。また、障害の程度が軽い3級に最低保障がついているのは、3級には障害基礎年金がないためです。
【質問3】
障害手当金や障害一時金について教えてください。
【回答3】
初診日に厚生年金、共済年金に加入していた人で、障害等級が1級、2級又は3級の障害の程度に該当しない軽度の障害の状態であっても、傷病が初診日から5年以内に治り又は、症状が固定し、その治った日において一定の障害の状態にある場合は、障害手当金(最低保障額1,153,800円)が支給されます。なお、共済年金は、同様の要件に該当し、退職したときに障害一時金(最低保障額1,153,800円)が支給されます。