2016.05.18
「れいこ先生のやさしい年金」(1)自由に選べる年金受給開始年齢 その1~繰上げ受給~
皆様こんにちは。
新緑が美しい季節となりました。
濃淡さまざまな木々のグラデーションを見ていると、からだ中に萌え出づるもののエネルギーが注ぎ込まれるのを感じます。
自然に癒され、元気づけられる季節です。
さて、今回より、新シリーズ「れいこ先生のやさしい年金」がスタートします!
年金制度に関する情報を、図表を用いて、よりわかりやすく解説します。
第1回の今回は「自由に選べる年金受給開始年齢 その1~繰上げ受給~」のお話です。
【1】 年金の繰上げ受給
国民年金や厚生年金は、一体何歳から受け取れるのでしょうか?
国民年金から支給される老齢基礎年金は、65歳から受給開始のはずですが、65歳よりも前から受け取っている方や、65歳を超えてから受け取り始める方もおられます。
厚生年金から支給される老齢厚生年金は、厚生年金の加入期間が1年以上あれば、65歳前から受けとることができますが、受給開始年齢は性別や生年月日等により異なっています。
これって、一体どうなっているのでしょうね?
実は、老齢基礎年金は原則65歳から受給開始ですが、60歳から65歳未満の間であれば、ご本人が希望する時期から早く受け取ること(繰上げ受給)ができます。また、65歳で請求をせずに、70歳までの間の希望する時期まで遅らせて受け取ること(繰下げ受給)もできます。
老齢厚生年金も同様で、60歳から受給開始年齢までの間であれば、早く受け取ること(繰上げ受給)ができます。また、65歳で請求をせずに、70歳までの間の希望する時期まで遅らせて受け取ること(繰下げ受給)もできます。
つまり、老齢基礎年金も老齢厚生年金も、受給開始時期を60歳以上70歳までの間の希望する時期に変更して受け取れるということなのです。改めてこのことを理解していただくと、退職後の生活設計を考える際には、自分の希望に合った公的年金の受給スタイルにアレンジすることが可能になります。
今回は、「ねんきん定期便」を使って、ご自身の年金額で簡単に試算をしていただければと考えてみました。「ねんきん定期便」がある方は、お手元にご用意いただいて先にお進みください。
繰上げ受給について次の内容を話したいと思います。
・「受給する年金は、どのようなスタイルになるのか?」
・「受給額はいくらになるのか?」
・「損益の分岐点は何歳か?」
・「繰上げ・繰下げの留意するべき点は何か?」
1.老齢基礎年金の繰上げ受給
(1)ねんきん定期便の老齢基礎年金の額を、下図の①に記入してください。
【50歳以上の方】
現在の保険料納付状況が60歳まで継続した場合の受給見込額が記載されていますので、ねんきん定期便の老齢基礎年金の額をそのまま①に記入してください。
【50歳未満の方】
現時点での実績額が記載されています。そこで、60歳まで納付したとすればいくらになるのかを次の計算式で求めて①に記載します
(2)繰上げ受給額を求めてみましょう。
繰上げ受給は、原則65歳から受け取る年金を、60歳から65歳未満の間の希望する時期から受け取る制度です。1カ月繰り上げるごとに、65歳から受け取る年金額の0.5%が減額されます。
繰上げ受給額は、何歳で繰り上げるかによって受給率が決まりますので、まずは、何歳から受け取るのかを決めましょう。
繰上げ受給率は次の表で簡単に分かります。例えば、63歳6カ月から繰り上げて受給する場合は、表の縦列63歳と横列6月の交点の数字、91%が繰上げ受給率となります。
※画像をクリックすると拡大できます。
受給率を確認して下記の計算式③に記入し、計算をすると受給額が求められます。ただし、年金額は物価や賃金の変動により毎年改定されますので、実際の受給額とは異なります。
(3)損益の分岐点を確認しましょう。
繰上げの損益は、「繰上げ受給をした方が何歳まで生きるか」ということで決まります。繰上げ受給の累計受給額と、原則通り65歳から受給した場合の累計受給額は、何歳で繰り上げても、繰上げ受給開始時期から16年8カ月後に65歳から受給した額が繰上げ受給額を上回ります。
つまり、累計受給額を基準にして判断すると、繰上げ受給を請求した時点から分岐点までの間(=請求から16年8カ月目)は繰上げ受給が優位ですが、分岐点後は65歳受給が優位となります。
この16年8カ月という期間が、繰上げを選択するかどうかの判断のポイントになります。
ちなみに、平成26年簡易生命表による60歳の方の平均余命(60歳になった方のその後の平均生存年数)は、男性23.36年、女性28.68年となっています。
(4)繰上げ受給の留意点
①繰上げを希望する時点で次のいずれかに該当する場合は、繰上げ請求はできません。
- ☐遺族厚生年金または障害厚生年金の受給権がある。
(障害基礎年金のみの受給権のある場合は除く。) - ☐遺族共済年金または障害共済年金を受給権がある。
(障害基礎年金のみの受給権のある場合は除く。)
②障害基礎年金に該当する障害の状態でも受給できません。
障害基礎年金は65歳未満の間に初診日があることが受給要件のひとつです。この要件を確認する際には、繰上げ受給をすると実際には65歳未満であっても、65歳に到達したものとみなされるため、障害基礎年金に該当するような障害の状態であっても、原則障害基礎年金の受給権は発生しません。
つまり、国民年金には65歳までの障害保障がせっかくあるにもかかわらず、繰上げ受給はその保障を放棄してしまうということです。「それでも老齢基礎年金が受け取れるからいいのでは?」と思われるかもしれませんが、実は年金額が大きく違うのです。 障害基礎年金には、障害の状態により1級と2級があります。2級は老齢基礎年金の満額(40年間保険料を納付した場合の老齢基礎年金の額)と同額の78万100円です。1級は97万5,125円です。
これらの額は、保険料を納付した期間にかかわらず定額で受給できます。一方、老齢基礎年金の額は、保険料を納めた期間に比例して受給するため、必ずしもすべての方に78万100円が保証されているわけではありません。さらに、繰上げ受給をすると1カ月繰上げるごとに0.5%減額となります。
それ故、万一の場合に障害基礎年金が受給できないという事態は避けたいとお考えの場合には、繰上げ受給は適しません。
③国民年金に任意加入ができません。
国民年金では、老齢基礎年金が満額受給できない場合には、60歳以上65歳未満の間、任意加入をして年金額を増やすことができます。しかし、繰上げ受給をすると65歳に到達したものとみなされるため、任意加入ができなくなってしまいます。
④配偶者が厚生年金に加入している方の留意点です。
◆遺族厚生年金が発生しても、65歳までの間は、繰り上げた老齢基礎年金と遺族厚生年金の両方は受け取れない。
例えば、60歳から繰上げ受給中の妻が、62歳になったときに夫が亡くなり、新たに遺族厚生年金が発生した場合は、65歳になるまでは、老齢基礎年金か遺族厚生年金のどちらか一方を選択して受け取ることになります。(繰上げにより減額された老齢基礎年金よりも、遺族厚生年金が高いケースがほとんどです。)妻が65歳に到達すると、繰上げ受給の老齢基礎年金と遺族厚生年金は併給(両方受け取れます)されますが、年金額は繰上げ受給で減額された額です。
⑤夫の国民年金の保険料納付済期間と免除期間の合計が25年以上ある方の留意点です。
◆寡婦年金は受け取れない。
寡婦年金とは、国民年金の保険料を納めていた、または免除を受けていた期間が25年以上ある夫が、障害基礎年金や老齢基礎年金を受け取らずに亡くなった時に、妻(だから寡婦年金という。夫は妻を亡くしても同様の給付はありません。)に60歳から65歳到達までの間支払われる年金です。
金額は、夫が受け取ることができるはずであった老齢基礎年金の3/4の額です。
さて、「繰上げ受給をすると寡婦年金が受け取れない」ということについて、実は2つのケースがあります。
その1は、妻が繰上げ受給をしていると夫が亡くなっても寡婦年金は受け取れません
その2は、繰上げ受給をしていた夫が亡くなった場合、寡婦年金は発生しません。
つまり、自営業のご夫婦の場合は、夫、妻のどちらか一方が繰上げ受給をすると、寡婦年金は受け取れなくなるということです。
⑥繰り上げても振替加算額は、65歳から減額されずに加算されます。
⑦繰上げ受給をすると一生減額された年金額となり、繰上げ請求後に繰上げの取り消しを申し出ることはできません。
さて次回のご案内です。
次回は、2016年7月20日(水)公開「自由に選べる年金受給開始年齢 その2~老齢厚生年金の繰上げ受給と老齢基礎年金・老齢厚生年金の繰下げ受給~」を予定しています。