2016.11.16
「れいこ先生のやさしい年金」(3)遺族厚生年金の年金額
皆さま、こんにちは。
紅葉が美しい季節になってきましたね。
紅葉の名所は全国各地にありますが、名所といわれる場所ではなくても、散歩や通勤途上で美しく色づいた木々に歩みが止まることもあります。ご自分のお気に入りスポットを探して、日々変わり行く季節の流れを感じるのも秋ならではの楽しみですね。
なぜ、こんなに違う!? 遺族厚生年金の額
Mさんは、大学卒業後、家業を継いで自営業者になりました。59歳で株式会社を設立し、在職中に60歳で亡くなりました。
Kさんは、大学卒業後、就職しましたが1年で退職。その後は自営業者となり、60歳で亡くなりました。
二人の年金加入期間は、ともに厚生年金が1年、国民年金が39年でした。
もし、二人の老齢厚生年金の見込額が同じだとしたら、遺族厚生年金の金額はどうなるのでしょうか?
なんと、Mさんの遺族厚生年金の額は、Kさんの額の25倍にもなるのです。
さらにMさんの遺族厚生年金には、一定の要件を満たした妻がいれば、妻が65歳に到達するまでの間、年間58万5,100円の加算までつくのです。
なぜ、このような差が生ずるのでしょうか?
実は、亡くなった人が遺族厚生年金を残すためには、一定の要件を満たしていなければなりません。いくつかある要件のうち、どの要件に該当するのかによって、年金額の計算の際に大きな差が生じます。さらに遺族が妻の場合は、夫が死亡した時点での妻の年齢等によって、中高齢寡婦加算額や、経過的寡婦加算額等の加算が行われることがあります。
これらのことを理解してゆくと、遺族厚生年金がいくらになるのかという目処がつきます。
今回は、遺族厚生年金の年金額についてお話します。
1.遺族厚生年金の受給要件
(1)亡くなった人の要件
死亡した当時に下図の①~⑤のいずれかの条件に該当していれば遺族厚生年金を残すことができます。
(2)遺族厚生年金の請求ができる人は?
死亡者の死亡当時、生計維持関係にあった以下の人ですが、すべての人が受け取れるのではなく、①~④の遺族のうち最も順位の高い人です。
① 配偶者・子 ② 父母 ③ 孫 ④ 祖父母
<遺族についての補足説明>
・生計維持関係があるとされる要件は、「生計を同じくしていたこと」と「死亡した年の前年の遺族の年収が850万円未満であること」となっています。
・子・孫については、18歳に達した日以後の最初の3月31日までの間にあるか、20歳未満の障害等級1・2級の障害の状態にある、未婚の子・孫が該当します。
・夫・父母・祖父母については、死亡した人の死亡当時に55歳以上の人で、支給開始は60歳となります。ただし、夫については、同時に遺族基礎年金の受給権を取得した場合は、遺族基礎年金の受給権のある間は、60歳未満であっても支給されます。
・夫の死亡当時に子のいない30歳未満の妻に対する遺族厚生年金は、5年間の有期年金となります。
2.遺族厚生年金の基本年金額の計算
遺族厚生年金の額は、原則「報酬比例部分の年金額の4分の3に相当する額」となります。ただし、亡くなった人が要件①~⑤のどれに該当するかで、期間比例年金と期間みなし年金の2つの計算方法があり、給付乗率と加入月数の扱いが異なります。
なお、両方の計算方法に該当する場合は、それぞれの方法で計算し、金額が高い方が遺族厚生年金の額となります。
(1)期間比例年金の計算
期間比例年金は、死亡した人が「④老齢厚生年金の受給権者」であった場合と「⑤老齢厚生年金の受給に必要な加入期間の要件を満たした人」の場合で、次のようになっています。
計算に使われている(A+B)の金額ですが、これは亡くなった人が亡くなった時点で計算した老齢厚生年金(報酬比例部分相当)の額です。
一見複雑に見えますが、(A+B)を老齢厚生年金(報酬比例部分相当)の額と置き換えて眺めていただくとよく分かるかと思います。
ところで、老齢厚生年金(報酬比例部分相当)の額の計算が難しいではないか、と思う人もいらっしゃるでしょうね。
実は、この金額はねんきん定期便に記載されています。
◆ 50歳未満の場合
50歳未満の人に送付されているねんきん定期便では、図の赤い囲み部分の金額の合計額を使います。
◆ 50歳以上の場合
50歳以上の人は、図の赤い囲みの部分の金額のうち報酬比例部分としての記載してある額のみ(経過的加算額は除く)を合算した金額を使います。ただし、この金額は現在の給与等が60歳まで引き続いた場合の見込額になっていますので、60歳前に亡くなられた場合や、60歳以後引き続き厚生年金に加入される場合は、実際の金額と相違します。
(2)期間みなし年金の計算
期間みなし年金は、死亡した人が「①被保険者(在職中)」「②被保険者であった人が、在職中に初診日のある病気やけがで初診日から5年以内に死亡」「③障害厚生年金1・2級の受給権者」に該当する場合に適用されます。 期間比例年金との違いは、期間みなし年金に該当する人の厚生年金の被保険者月数が、300月未満の場合は300月として計算するところです。
300月とみなす意味は、例えば就職してすぐに不慮の事故で亡くなったような場合、期間比例年金の方法で計算をすると被保険者期間が短いため、年金とはいえないような少額の給付になってしまう恐れがあります。
そこで、被保険者期間を300月に底上げし最低保障をすることで、一定の保障ができるようになっているのです。ただし、すべての遺族厚生年金について300月みなしをするのではありませんので、亡くなった人の要件に注意してください。
3.遺族厚生年金の加算額について
妻が受給する遺族厚生年金には、妻の年齢や夫の厚生年金の加入状況、基本年金額の計算方法などにより、中高齢寡婦加算額、経過的寡婦加算額が加算される場合があります。要件を確認してみましょう。
(1) 中高齢寡婦加算額
① 加算要件
(a)死亡した夫の要件
・遺族厚生年金の死亡した人の要件の①~③に該当する場合は、300月みなしをするため、厚生年金の被保険者期間に関わらず加算されます。
・遺族厚生年金の死亡した人の要件の④⑤に該当する場合は、厚生年金の被保険者期間が20年(厚生年金各号の期間は合算できる)以上あれば加算されます。
(b)妻の要件
夫の死亡当時、夫に生計維持されていた
・40歳以上65歳未満の妻(子の有無は関係ありません)
・40歳未満の妻は、遺族基礎年金が失権した時点において40歳以上65歳未満であること
② 加算の期間
妻が40歳から65歳に到達するまでの間、中高齢寡婦加算は遺族厚生年金に加算されます。ただし、妻が遺族基礎年金を受給中の場合は加算停止となり、遺族基礎年金の失権後から加算されます。
③ 中高齢寡婦加算の額
中高齢寡婦加算の額は、「遺族基礎年金の年金額の4分の3に相当する額(平成28年度585,100円)」で、妻の生年月日にかかわらず定額です。
(2) 経過的寡婦加算額について
中高齢寡婦加算額は、妻が65歳になると加算が終了します。理由は、老齢基礎年金が支給されるようになるからです。
中高齢寡婦加算額に変わって加算されるのが、経過的寡婦加算額となります。ただし、この加算は、昭和31年4月1日以前生まれの妻に限ります。また加算額は、生年月日によって決まっています。
① 加算の要件
・夫の死亡が、妻が65歳前の場合は、遺族厚生年金に中高齢寡婦加算額が加算されていること
・夫の死亡が、妻が65歳以後の場合は、亡くなった夫が中高齢寡婦加算額の加算の「死亡した夫の要件」を満たしていること
② 加算額
妻の生年月日により、下記の額となります。
◆ 保険料納付要件について
死亡日の前日において、次のいずれかに該当すれば、遺族厚生年金の保険料納付要件を満たします。
①(原則)死亡月の前々月までの被保険者期間のうち、保険料納付済期間または保険料免除期間(学生の納付特例、若年者の納付猶予を受けた期間も含む)が3分の2以上あること。
つまり、未納期間は3分の1未満であること。
①特例)平成38年3月31日以前の死亡については、死亡月の前々月までの直近1年間に、保険料の滞納期間がないこと。この特例は、死亡日において65歳未満の人のみに適用されます。
<お知らせ>
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