2017.05.24
「れいこ先生のやさしい年金」(5)64歳11カ月での退職がお得って本当?
内閣府の「平成28年版高齢社会白書」によると、60歳~64歳で働く男性の割合は約72.7%、女性は約47.3%だそうです。また、何歳まで働きたいのかという質問については、「働けるうちはいつまでも」が28.9%と最も多く、次いで「65歳くらいまで」「70歳くらいまで」がともに16.6%と高齢者の就業意欲が高いことがわかります。
とは言うものの、65歳は一つの区切りとなるようです。もちろん個人差はありますが、体力的にも変化を自覚し、そろそろ仕事からも解放されたいという気持ちも湧いてきます。その上、65歳はどの世代の人も年金が満額受給できるようになりますので、退職を決断する人が多くなるのでしょう。
ところで、65歳で退職する場合、退職日をいつにするのかで、大きく得をすることがあるのをご存知でしょうか?
今回は、過去に本コラムで取り上げ、現在もご質問をいただくことの多い「有利な退職のタイミング」について現在の法令に沿って解説します。
雇用保険からの基本手当(いわゆる失業保険)を活用するという観点から退職時期を考えると、65歳直前まで給料が受け取れる64歳11カ月での退職が有利だといえます。
その根拠は、基本手当と老齢厚生年金が、次のように定められているからです。
- ・その1 65歳到達前に退職すれば、基本手当を受給することができる
- ・その2 基本手当と65歳未満の間に受給する特別支給の老齢厚生年金は、併給されない
- ・その3 基本手当と65歳以後に受給する老齢厚生年金は、併給される
これらのことを考え合わせると、基本手当の受給資格を得るために65歳到達までに退職し、年金との併給調整がない65歳以後に基本手当を受け取ることができるタイミングが有利であり、その時期が64歳11カ月ということになります。
それでは、解説をしましょう。
1.基本手当について
●基本手当とは?
雇用保険に加入していた人が、会社の倒産・自己都合・定年等で、65歳到達日の前日(65歳の誕生日の前々日)までに退職した場合に、新しい仕事を探す間の生活を保障する目的で雇用保険から支給されるものです。
なお、自己都合や定年等で退職した場合は、退職前2年間に11日以上働いた月が12カ月以上ないと基本手当は受給できません。
●基本手当は何日受け取れるの?
基本手当を受け取ることができる日数を「所定給付日数」といいます。
離職の理由が自己都合や定年の場合と、倒産や解雇等の場合では、所定給付日数が異なり、倒産や解雇等の予測できない理由により離職する場合には、所定給付日数が長く設定されています。
また、雇用保険の被保険者期間(加入期間)も影響するため、定年退職で20年以上の被保険者期間がある人は、150日の所定給付日数となります(下表参照)。
なお、表中の「被保険者であった期間」の数え方ですが、たとえば、60歳でA社を退職して10カ月の空白期間の後、B社に再就職し64歳11カ月で退職した場合、雇用保険の加入期間は、A社とB社を通算した期間となります。
このように雇用保険の被保険者期間に空白があっても、1年を超えていなければ前後の通算ができます。ただし、A社を退職して基本手当等を受給した場合には通算されず、B社での被保険者期間に応じて、基本手当が支給されますのでご注意ください。
●基本手当はいくら受け取れるの?
基本手当の額は、離職前6カ月の給料の平均値をもとに決定します(下表参照)。賞与は関係しません。なお、給料の平均値が445,800円以上の場合は、445,800円とし、基本手当日額も6,687円が上限となります。
※画像をクリックすると拡大できます。
2.基本手当と老齢厚生年金の調整は?
●65歳を前後して、調整方法が変わる
① 65歳未満の間
基本手当と65歳未満の間に受給する特別支給の老齢厚生年金は併給されません。
どちらか有利な方を選択します。なお、長期加入者の特例等に該当し、定額部分や加給年金額が加算される場合は、加算部分も含めた合計の年金額と基本手当を比較します。
たとえば、退職前6カ月の給料が36万円の人は、基本手当日額目安表を見ると日額5,400円なので、月額では5,400円×30日=162,000円の基本手当が受給できます。
年金月額が120,000円の場合は、基本手当を受給した方が有利ということになります。
② 65歳以後
65歳以後に基本手当を受給する場合(退職日が65歳到達日前であれば、基本手当は65歳以後でも受給可能)は、老齢厚生年金と基本手当は併給(両方受け取れる)されます。
たとえば、退職前6カ月の給料が25万円の人は、基本手当日額目安表を見ると日額4,600円なので、月額では4,600円×30日=138,000円の基本手当が受給できます。
年金とは併給ですので、年金月額が200,000円の場合は、合計338,000円受給できることになります。ただし、この月額は、基本手当が受給できる期間のみです。
3.退職時期について
●65歳前に退職しなければ基本手当は受給ができない
基本手当は、退職日が65歳到達日前でなければ受給資格が得られません。65歳到達日は誕生日の前日となりますので、誕生日の前々日までに退職すればよいことになります。
たとえば、1月20日が誕生日の人は、1月18日までに退職すれば基本手当の受給要件に該当します。
●求職の申込み手続きは65歳を過ぎても大丈夫?
基本手当を受給する手続きを「求職の申込み」といいますが、この手続きは65歳以後になっても問題ありません。
求職の申込みを行い、7日間の待期期間のあと、指定された日にハローワークに出向き失業の認定を受ければ、基本手当の受給が始まります。実際の受給期間が65歳以後になっても問題ありません。
つまり、65歳到達前に退職し、65歳到達月以後に求職の申込みを行って基本手当を受け取る場合は、年金との調整はまったく行われないということです。
●64歳で退職して、基本手当の受給を65歳以後にしてもよい?
65歳到達日前に退職すれば、基本手当を受給することはできます。では、64歳到達月で退職し、65歳まで待って基本手当を請求すればよいのでは?と考える人がいらっしゃるかもしれませんね。
しかし、それはできません。
というのは、基本手当の受給が可能な期間は、退職日の翌日から原則1年間と決められているからです。
たとえば、基本手当を150日受給できる人が、100日分受給した時点で退職日の翌日から1年を経過してしまうと、残りの50日分は受給できないまま終了ということになります。
64歳で退職しようと思っている方は、できればあと11カ月仕事を続けていただくと、基本手当と年金の両方を受け取ることができます。
●65歳の誕生日の3カ月前に退職した場合(64歳9カ月)は、どうなりますか?
65歳未満での退職となりますので、基本手当の受給資格を得ることができます。3カ月待って、65歳に到達した日以後求職の申込みをしても、所定給付日数の150日は、退職日の翌日から1年の間に収まりますので問題ありません。
●65歳到達日以後に退職すると?
退職日が65歳到達日以後になると、基本手当を受け取ることができなくなります。代わって受給できるのが高年齢求職者給付金(一時金で年金と併給)です。
ただし、受給できる金額は、基本手当日額の30日分(雇用保険の被保険者期間が1年未満)または50日分(雇用保険の被保険者期間が1年以上)となりますので、基本手当を受け取る方が有利です。
4.結論
以上のことから、下記の3つの条件を満たす時期を選んで退職すると、基本手当と年金の両方を受け取ることができます。
- ① 基本手当が受給できるように、65歳に達する日の前日(65歳の誕生日の前々日)までに退職する
- ② 65歳に達する日以後に求職の申込みをする
- ③ 基本手当の受給終了日が退職日の翌日から1年以内の期間に収まるように、65歳に達したら迅速に基本手当の手続きをする
今回のアドバイスは、基本手当と年金の関係のみに焦点をあてたものです。雇用契約が65歳到達時点で満了し、期間満了まで在職すれば、退職金や賞与等が支給されるようなときは、基本手当にこだわらない方がよい場合もあります。なお、雇用契約満了まで在職せずに退職した場合は、自己都合退職となり、求職の申込みをしてから基本手当を受給するまでに3カ月の給付制限期間が生じます。ただし、基本手当の受給開始が遅れるだけで、受給額には影響しません。
個別の具体的な事例につきましては、年金事務所や社会保険労務士等の専門家にご相談ください。