2015.02.18
年金の繰り上げ請求について
みなさんこんにちは、社会保険労務士の土屋です。今回もみなさんにとって大変関心の高い年金についてお話しさせていただきます。
以前このコラムで取り上げたことがありますが、今回は老齢年金の繰り上げ請求手続きについて説明させていただきます。平成27年度以降に60歳に到達する昭和30年代生まれの方が年金請求の手続きの相談にこられる状況となりました。また、ご承知の通り現在、厚生年金は支給開始年齢の引き上げが実施されています。生年月日が違えば年金の支給開始年齢も違いますし、加入する制度によって受給開始年齢も違います。以前の内容と重複する部分もありますが、今回はこれから年金を受給する昭和30年4月2日生まれ以降の方のことを中心にお話しさせていただきます。該当する皆様は内容をよくご理解いただいた上で手続きをしていただければと思います。
なお、重複する部分につきましてはできるだけ説明を省略させていただきましたので、ご不明の点については、前回のコラムを参照いただきながらお読みいただければと思います。

老齢年金の繰り上げの仕組み
現在、厚生年金は支給開始年齢の引き上げが実施されていることはみなさんご存知のことと思います。
平成27年度以降に60歳に到達する昭和30年4月2日生まれ以降の男性(共済年金は女性も同様)の場合、年金の支給開始は62歳からになります。ただし、60歳到達以降(誕生日の前日以降)であれば前倒しで年金を受けることができます。この手続きを、繰り上げ請求手続きといいます。
友人の情報やマスコミなどの報道で“年金は早く貰った方が得だ”という誤解をされて、年金相談の窓口に来所される方が多くいらっしゃいます。確かに早く請求手続きをすれば、年金は受け取れますが、本来の受給年齢より早く受給すると、ペナルティが課されることを忘れてはいけません。大抵の方はペナルティについて説明すると繰り上げ請求の手続きを躊躇されますが、よく理解されないまま繰り上げ請求の手続きをして、後で後悔をすることになったり、「そんなことは聞いていない」とおっしゃる方もいらっしゃいます。年金相談窓口では手続き前にデメリットについてはきちんと説明をしているはずですが、残念ながらデメリットの内容についてよく理解されていない場合もあるようです。
繰り上げ請求の手続き
昭和30年4月2日から昭和32年4月1日生まれの男性の方(1年以上の厚生年金加入期間があることが条件)は62歳から特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)を受給し、65歳以降に老齢基礎年金と老齢厚生年金を受給します。この方が60歳0ケ月で年金請求の手続きをした場合、62歳から受給する予定の特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)を繰り上げ受給できます。受給はできますが、本来62歳から受給するものを60歳(24ケ月早く)から受給しますので、12%(0.5×24ケ月)減額された後の年金(受給は本来受給額(報酬比例部分)×88%=繰り上げ後の報酬比例部分の年金支給額)となります。
また、本来の支給開始年齢が61歳以降の方が報酬比例部分を繰り上げした場合には、同時に65歳から受給する予定だった老齢基礎年金も同時に繰り上げ受給しなければなりません。本来65歳から受給予定だったものを60歳から受給しますので、こちらは30%(0.5×60ケ月)減額され、減額された後の年金(老齢基礎年金)受給は本来受給額×70%=繰り上げ受給後の老齢基礎年金となります。
本来の厚生年金の支給開始年齢が61歳以降の方が繰り上げする場合、特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)だけ繰り上げ請求することはできません。繰り上げ請求する場合には、かならず65歳から受給する老齢基礎年金も同時に繰り上げしなければなりません。
なお、繰り上げ請求後は65歳になっても年金額が増額されることはありません。老齢基礎年金は60歳で請求手続きをしてしまうと30%の減額になりますので、請求手続きをする場合にはよくよく考えて検討する必要があります。なお、繰り上げ請求手続きは60歳以降65歳に到達する前までであればいつでも可能です。また、在職中(厚生年金加入中)であっても可能です。繰り上げ請求後に加入した厚生年金分については、65歳から加算されることになります(減額はされません)。

繰り上げ請求のデメリット
繰り上げ請求の場合のデメリットは年金が減額支給されることですが、それ以外にも大きなデメリットがあります。たとえば、妻(または55歳以上の夫)が繰り上げ請求をした後65歳になる前に夫(または妻)が死亡した場合、夫(または妻)が受給していた厚生年金の4分の3が遺族厚生年金として受給できますが、妻(または55歳以上の夫)が65歳になるまでは、自分の老齢年金か死亡した夫(または妻)の遺族厚生年金のどちらかを選択することになります。もし、死亡した夫(また妻)の遺族厚生年金の方が多額であれば、遺族厚生年金を選択受給しますので、自分の老齢年金は支給停止になります。その後65歳以降に自分の老齢年金は再び支給されますが、繰り上げ請求したままの年金として支給されるだけで、増額はされません。つまり結果的に繰り上げ損になってしまうことになります。
※妻の死亡時に子(満18歳未満の子(最初の年度末まで)または障害のある子は満20歳未満)のある夫には遺族基礎年金が平成26年4月の死亡から支給されますが、その場合には55歳から遺族厚生年金も夫に支給されます。
もし、認定日時点で障害等級に該当する状態と判断されなくても、その後病状が重篤になったと判断されれば障害年金を受給できます。これを事後重症請求といいます。ただし、この事後重症請求は65歳前に請求しなければならないという条件があります。繰り上げ請求をした方は本来65歳から受給するべき年金を自分の意志で請求しているわけなので、この事後重症請求の障害年金の請求はできないこととされています。繰り上げ請求をした方でも、60歳以降厚生年金加入中に以前の傷病と因果関係のない別の傷病で障害を負い、認定基準に該当すれば障害年金の請求はできます。(認定日請求)
持病のある方は繰り上げ請求をする場合は、やはりよくよく考えて手続きを検討する必要があります。

昭和29年4月1日以前生まれの女性の方(厚生年金)の場合の繰り上げ
すでに年金請求の手続きをされている昭和21年4月2日から昭和29年4月1日生まれの女性(厚生年金1年以上加入していることが条件)の方(または未請求だが受給年齢に達している方)は60歳から特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)を受給(または今後受給)しますが、この生年月日の方は61歳から65歳になるまで定額部分が加算されて支給されます(定額部分とは厚生年金の基礎年金部分のことです)。この方は65歳から受給する予定の老齢基礎年金を60歳から65歳の間に繰り上げ請求することができます。
この生年月日の方の繰り上げ請求には二通りの方法があります。一つは最初にお話しした65歳から受給する老齢基礎年金の全額を繰り上げ請求する方法です。60歳0ケ月で全部繰り上げ請求した場合は、30%(0.5×60ケ月)減額され、本来受給する老齢基礎年金×70%=繰り上げ請求後の老齢基礎年金となります。なお、報酬比例部分は本来の受給額のまま受け取ります。
もう一つの方法が一部繰り上げという方法です。たとえば、昭和27年4月2日~昭和29年4月1日生まれの女性(報酬比例部分は60歳から受給中)が65歳から受給予定だった老齢基礎年金の一部繰り上げを61歳0ケ月で請求した場合、本来受給する予定だった老齢基礎年金×4分の3を繰り上げ請求し、残りの老齢基礎年金×4分の1については、65歳まで残しておくことができます。繰り上げ請求する4分の3の老齢基礎年金は繰り上げ請求した時点から65歳到達までの期間に応じて減額支給されます。下記の図の方が61歳0ケ月で一部繰り上げ請求すると、(本来の老齢基礎年金×4分の3)×76%=繰り上げ後の老齢基礎年金となり、24%減額されます。65歳になると、残しておいた(本来の老齢基礎年金×4分の1)×100%とあわせて受給することになります。なお、この方は64歳から定額部分が支給されますが、64歳から65歳までの1年間に受給する予定だった定額部分を4年に分けて受給することになります(減額はされません)。
ただし、全部繰り上げを選択してしまうと定額部分は全額支給停止となります。全部繰り上げをした方は直近の受給額は増えますが、総額はいずれ本来受給した場合に追いつかれることになります。

昭和36年4月2日以降生まれの男性(昭和41年4月2日以降生まれの女性)の場合等
この生年月日の方の厚生年金の支給開始は原則65歳以降になります。もし60歳到達時に年金請求をすれば、特別支給の老齢厚生年金の支給はこの生年月日の方にはありませんので、65歳から受給する予定の老齢厚生年金と老齢基礎年金を全部繰り上げて請求することになります。
また、昭和28年4月2日~昭和33年4月1日以前生まれの女性の方(厚生年金1年以上加入)は60歳から厚生年金が60歳から支給されます。もし、この生年月日の方に共済年金の加入期間がある場合、共済年金は支給開始年齢が60歳ではなく、61歳以降(男性と同じ)になります。したがって、繰り上げ請求した場合にはそれぞれの制度により取扱いが違うことになりますので注意が必要です。
なお、共済年金については平成27年10月以降厚生年金と一元化されますので、こうした相談についても年金事務所等で行い手続きすることになると思われます。