2013.08.07
専業主婦(主夫)の年金の改正他について
みなさんこんにちは、社会保険労務士の土屋です。
6月19日の参議院本会議で、「公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律案」が可決成立しました。その法律案の概要のなかでも特にみなさんにとって関心の高い年金についてお話ししたいと思います。
◆国民年金第3号被保険者の記録不整合への対応について
以前いわゆる「運用3号」として問題になり、このコラムでもとりあげたことがありますが、本来過去に第1号被保険者として取り扱われるべき期間であるにもかかわらず、種別変更の手続き(第3号→第1号)を行わなかった為に、年金記録上は第3号被保険者のままとなっている期間(不整合期間)を有するケースが発生している実態がありました。
厚生労働省の粗い推計では、不整合期間を有し納付実績に見合った額より高い年金を受給している高齢者は約5万人に上るとされています。また、不整合期間を有し未訂正のままとなっている被保険者の方は約42万人とされています。なお、すでに不整合期間が訂正され、正しい記録となっている被保険者の方は約67万人とされています。
今回はこうした約100万人の被保険者の方を対象に、日本年金機構から対応策(特定期間該当届)が講じられます。
国民年金の保険料の納付については2年の時効があり、2年以上前の分の保険料については免除や納付猶予の手続き(手続きを行えば10年間は遡及して納付することが可能)をとっていない限り納付することができません。(平成24年10月から後納制度が実施され、特例で10年前までの未納期間について納付することができます。※3年間の時限措置)したがって、未納期間については保険料納付済期間にも資格期間にもなりません。法律通りに運用すれば、不整合期間についても未納期間になります。ただし、平成25年7月1日以降に対象者の方が手続き(特定期間届出)を行えば、老齢基礎年金の年金額には反映されませんが、年金を受給する為の受給資格期間である25年(300月)以上には算入してくれることになります。つまり、第3号期間だった期間が未納期間にならずに資格期間としてカウントされ、受給権を得ることができるというわけです。
◆障害年金や遺族年金を受給する場合にも該当
障害年金や遺族年金を受給する場合にも、納付要件を満たすことが必要です。障害年金の場合、障害年金を請求する障害の原因である疾病で初めて医療機関にかかった日、つまり初診日に納付要件(初診日の前日の属する月の前々月までの1年間に未納期間がないこと。または、全被保険者期間に3分の1以上の未納期間がないこと)を満たす必要があります。もし、不幸にして障害等級に該当するような疾病や怪我を負ってしまったとき、第3号被保険者期間が未納期間に変更されたままの場合、納付要件を満たせずに障害年金を受給できないということにもなりかねません。特例措置に該当する場合には、かならず特定期間該当届の手続きを行うようにしてください。
遺族年金の場合は、死亡者の納付要件(障害年金と同じ)が問われることになりますが、障害年金でいう初診日を死亡日に置き換えて判断されることになります。
なお、特定期間の手続きを行い、「未納期間」が「受給資格期間」とカウントされるのはあくまで「届出をした日」になります。被保険者であれば老齢年金を受給するのは届出以降ですから、年金受給には問題がありません。ところが、もし障害等級に該当するような疾病や怪我を負ってしまい、その疾病や怪我の初診日が特例期間届出の前であれば、法律上は納付要件を満たすことができません。障害年金の場合あくまで初診日現在での納付要件をみることになりますので、請求しようと考えてから、後で過去の未納分の保険料を収めるという「後付」はできないということになります。
ただし、今回の特例期間届については特例措置がとられています。法律通りに取り扱うと上記のようなケースの場合、障害年金を請求することができませんが、記録漏れの事実が判明した後に初診日がある場合や、初診日が平成25年6月26日(法律の公布日)~平成30年3月31日までの間にある場合等については、初診日に納付要件を満たしとみなして請求手続きができます。
詳しくは日本年金機構のホームぺージでご確認いただくか、該当する方はお近くの年金事務所や街角の年金相談センターでご確認いただくか、専門家である社会保険労務士にご相談くださいますようお願いいたします。
※上記の場合、第3号期間(不整合期間)が特定期間に代わっても、届出日に特定期間とみなせば、前1年の要件(初診日の属する月前々月から1年間に未納がないこと)に該当せずに障害年金を請求できません。そのため、この場合は、初診日に要件をみたしたとして請求することができます。
◆第3号の記録不整合期間を有して年金を受給している方についても改正が実施
平成25年7月1日現在、時効消滅不整合期間となった期間(=特定期間)が第3号被保険者であるものとして老齢基礎年金を受給している方(=特定受給者)についても改正が実施されます。具体的には平成30年3月までの間については、現状のままの被保険者期間で受給することができます。ただし、平成30年4月以後の特定期間については納付済期間とみなさずに計算された老齢基礎年金が支給されることになります。なお、減額下限額(特定期間を含めて計算された老齢基礎年金額の100分の90に相当する額)が設定されていて、減額下限額までは保障されることになります。改正内容が実施されるのは数年先の話ですが、実施前には対象者の方へ通知が送付されることになると思います。
◆特定保険料の納付について
特定期間を有する方については、今回の特定期間届出の手続きを行っても、あくまで年金を受給する為の資格期間に算入されるだけで、老齢基礎年金の年金額に反映されるわけではありません。また、年金受給者の場合、減額下限額はありますが、平成30年4月からの年金受け取り額が減額されることになります。そのためこうした方々の為に救済措置が講じられています。仕組みは現在実施されている国民年金の後納制度に準じています。
今回の特定期間届出の手続きを行った方で、特定期間について保険料を納付して老齢基礎年金の年金額に反映したいと希望する方は、平成27年4月1日~平成30年3月31日までの間であれば、特定期間について遡って納付することができます。納付することができるのは50歳~60歳未満の期間(60歳未満の方については、承認を受けた日の属する月前10年以内の期間(特定期間))です。納付する保険料については当然ですが、加算額が加算された保険料を納付していただくことになります。加算額は特定期間中で一番高い額になります。
◆国民年金の種別について
日本に居住する20歳から60歳までのすべての人(旅行者等の短期在留者や外国人で社会保障協定を締結している国の方は除外)は第1号・第2号・第3号被保険者(下記参照)として国民年金に加入することになります。第3号被保険者は自分で保険料を負担する必要はありませんが、第3号被保険者であった期間については、保険料を納付した期間とみなし、将来の年金額に反映させることになります。
国民年金の種別 | 職業・身分等 | 年齢要件 |
---|---|---|
第1号被保険者 | 自営業者、学生等 | 20歳~60歳 |
第2号被保険者 | 被用者制度(厚生年金や共済組合)に加入する方 (いわゆる会社員・役員) |
70歳未満 |
第3号被保険者 | 第2号被保険者に扶養されている配偶者 (専業主婦や保険者が定める収入用件に該当する配偶者) |
20歳~60歳 |
第3号被保険者の方の保険料については、被用者年金制度(厚生年金・共済組合)が被保険者数に応じて基礎年金拠出金として負担し、自身で保険料の負担はしません。保険料を自分で負担する自営業者等の第1号被保険者や第2号被保険者からみれば、非常にお得な制度の仕組みになっています。
そもそも第3号被保険者の仕組みは、昭和61年4月の基礎年金創設時にできた仕組みです。基礎年金ができるまでは厚生年金・国民年金・共済年金制度はそれぞれバラバラに運用され、基礎年金という制度は存在しませんでした。また、女性特に厚生年金や共済組合の被保険者に扶養される配偶者(専業主婦等)の方は国民年金には任意加入とされていましたので、自分の年金が少ない方や年金権がない方が多く発生していて、高齢者の女性のなかには老後の生活に困る方が多くなることが予測できました。そうした女性を救済する目的もあって、第3号被保険者制度がつくられました。
現在の日本の状況を予測できれば、自身で保険料を負担しない現状の第3号被保険者制度の創設は正しい選択であったのかは個人的には疑問のあるところですが、制度ができて四半世紀が過ぎ、そのおかげで女性の年金権が確立できたことも事実です。
制度の仕組み自体は非常にある意味非常に人に優しい、夢のある制度でした。しかしながら、運用面で非常に問題がありました。現在では第1号や第2号から第3号に変更する手続きについては、第3号被保険者の配偶者である第2号被保険者を雇用する事業所が健保の扶養手続きと一緒に保険者に提出しなければなりませんでしたが、以前はこの第3号被保険者の変更手続き(種別変更)についても第3号被保険者自身がしなければなりませんでした。そのため、第3号の手続きを適正に行っていない方が多くいらしゃいました。典型的な例でいうと下記のようケースです。
(夫)天野 太郎さん(昭和36年8月2日生まれ)
平成10年7月20日にB商事(厚生年金加入)を退職し、翌月の8月1日からC工業(厚生年金加入)に転職
(妻)天野 春子さん(昭和38年9月3日生まれ)
太郎さんとは平成5年に結婚を機に会社を退職し、専業主婦になる。
上記の場合、夫の太郎さんは7月は厚生年金の被保険者とはならず、第1号被保険者になり、国民年金の保険料を納付しなければなりません。なぜかというと、太郎さんは7月20日に退職したので社会保険(健保・厚年)を翌日の7月21日喪失することになります。これが、7月20日ではなく、7月31日の月末退職であれば、社会保険の喪失日は8月1日となり、7月は健保・厚年の被保険者となります。月末退職の場合には結果的に2ケ月分の保険料を負担しますが、将来の厚生年金は1ケ月分増えることになります。
一方、妻の春子さんはどうなるかというと、太郎さんが20日退職であれば、太郎さんは第2号被保険者ではありませんので、太郎さんに扶養されていた春子さんは第3号被保険にならず、太郎さんと同じように第1号被保険者となり、国民年金の保険料を負担しなければなりません。太郎さんの場合、8月は転職後の会社に入社して第2号被保険者になりましたので、春子さんも8月からは第3号被保険者になります。わずか10日間程の話ですので今回のようなケースの場合、あまり気にせずにそのままにされている方も多いようです。こうしたケースで特段問題ないということであれば構いませんが、障害年金の請求時に初診日がその期間にあった場合や老齢年金受給の場合に資格期間が足りない等の不都合が生じる可能性があります。
◆その他の改正(1) 厚生年金基金制度の見直し
最後にその他の改正について少しお話しましょう。はじめに厚生年金基金についてです。
平成24年に発覚したAIJ投資顧問による年金消失問題で厚生年金基金の財政状況が深刻な積立不足におちいっていることが明らかになり、現在制度を存続してる厚生年金基金の救済策も含め見直しの検討がすすめられてきましたが、法律案が可決成立しました。主な改正内容は下記の通りです。
- 施行日以降、厚生年金基金の新設を認めない。
- 代行割れしている厚生年金基金については、早期解散を促す為に特例解散制度の見直し(施行日から5年間の時限措置)を実施
- 上記以外の厚生年金基金についても、解散時の責任準備金の納付猶予等の対応策を講じ、自主解散を促し、他の年金制度(確定給付年金制度・確定拠出年金・中小企業退職金共済制度等)への移行を促進させる
上記等の対応を行うことにより、存続する厚生年金基金は現在の約1割程度と予想できます。また、厚生年金基金の財政状況に応じては、今後上乗せ分のカットや給付内容の変更等も実施されるケースも発生すると思われます。
◆その他の改正(2) 納付要件の特例並びに若年者納付猶予制度の期限延長
前項でお話しした通り、障害年金や遺族年金の納付要件をみる場合は、初診日(遺族の場合:死亡日)の属する月の前々月以前1年間に滞納がないことが条件(前1年要件を満たせない場合には、全被保険者期間に3分の1以上の未納期間がないことが条件になります。)です。ただし、この納付要件を適用する為には初診日に65歳未満であること、初診日が平成28年3月まででなければなりません。今回65歳未満であることはかわりませんが、特例の対象期間が10年間延長され、平成38年3月までとなりました。
また、30歳未満で本人並びに配偶者の収入が一定条件以下あれば、国民年金の納付猶予制度を受けられます。この制度の対象期間も平成28年3月までの実施とされていましたが、この制度の施行についても10年延長され、平成38年3月までとなりました。
◆最後に
今年の10月には年金の特例水準の見直しや(10月分(12月支給分)から年金が一律1%減額)、来年以降も年金支援確保法等により様々な改正が実施されます。このコラムでもできるだけとりあげていきたいと考えていますが、年金はみなさんの老後生活になくてはならない大切な仕組みです。将来不利益とならないよう、情報をきちんと理解して適正な手続きを行うようにしましょう。