2012.10.25
国民年金の後納制度について
みなさんこんにちは社会保険労務士の土屋です。
国民年金の後納制度が平成24年10月から平成27年9月までの3年間の時限措置として実施されています。本来、国民年金の保険料は法律上過去2年間までしか遡って納付することができませんが、平成24年10月から平成27年9月の3年間に限って、過去10年まで納付することができます。(※収入が一定以下である等の条件を満たして、免除(法定免除や申請免除)の手続きを受けた期間や学生の納付特例や若年者納付猶予を受けた期間については、手続き後10年以内であれば納付することができます。)
この後納制度の内容を記載した通知文書については、すでに8月から70歳未満で該当する方については送付されています。通知文書の送付の順番は年齢の高い方から順に送付されています。(※10年経過後には後納制度でも保険料を納付することはできなくなりますので、平成14年10月からの対象期間のうち10年の時効期間にかかわる期間に未納期間のある方にも順次送付開始がされています。)したがって、読者の方のなかにはすでに通知書を受けとった方もおられるかもしれませんが、25年(300月)という資格期間を満たせずに受給権が得られていない人は、年金事務所でご自分の記録をよく確認していただいた上で、制度を利用し一人でも多くの方が年金を受け取れるようになっていただきたいと思います。ただし、保険料の支払いについては当然ですが費用がかかりますし、過去の保険料については一定の加算金が加算されますので、十分検討していただいた上で利用していただきたいと思います。
●学生納付猶予特例:20歳以上の学生の場合、学生本人の収入が一定以下であれば、学生期間中は国民年金の保険料納付を要しないこととされています。なお、この特例期間については納付済期間とはなりませんが資格期間には算入されます。また、この期間中に障害等級(1級・2級)に該当する程度の疾病・傷病になった場合は障害基礎年金が請求されます。
●若年者納付猶予制度:30歳未満の第1号被保険者(学生納付猶予対象者は除く)について、同居する世帯主の所得にかかわらず、本人及び配偶者の所得要件によって、申請により納付が猶予される制度です。平成27年6月までの時限措置です。学生納付猶予と同様にこの猶予期間については資格期間にはなりますが、納付済期間にはなりません
☆両方の期間とも手続き後10年以内であれば保険料を納付して納付済期間にすることができます。
後納制度を使って納付できる期間
後納制度を使って今回納付をすることができるのは、過去10年以内の未納期間と半額免除・4分の3免除・4分の1免除を受けたにもかかわらず、免除を受けた以外の保険料を納付していない期間について納付することができます。この点は少々わかりづらいので、すこし詳しくご説明しましょう。たとえば、半額免除申請の手続きを行い申請が認められた場合、半額分のうちの国庫負担分(3分の1または2分の1)については、将来の年金計算にカウントされますが、免除されない残りの半額分の保険料を納付しなかった場合には免除申請を受けたとしても、全額未納期間扱いとなります。4分の3免除並びに4分の1免除も同様に、免除されなかった分の保険料を納付しない場合には、免除を受けることができずに、全額未納期間扱いになります。
なお、全額免除を受けた期間については保険料を納付しなくても国庫負担分が年金計算に反映されます。免除を受けてから10年以内であれば追納をして全額納付済期間にもできますので、今回の後納制度の対象ではありません。また、第3号被保険者期間は納付済期間ですから、そもそも後納制度の対象外ということになります。したがって、漏れている期間があっても一度年金事務所に相談にいっていただき、対象期間であるのかどうかを確認する必要があるわけです。
また、老齢基礎年金をすでに受給している方は納付することができません。たとえば、65歳前に繰り上げ請求をして老齢基礎年金を受給している人は、今回の後納制度を利用して過去の未納期間を納付することはできません。ただし、60歳を過ぎても40年(480月)の満額の期間に満たない人は60歳から65歳の間に任意加入をして、65歳以降の老齢基礎年金を増額することができますが、任意加入の手続きをしたが、保険料を納付しないで未納になっている期間(前2年間は通常納付)については、今回の後納制度を利用して納付することができます。(特別支給の老齢基礎年金の受給者で任意加入の手続きをした人も同様)また、老齢基礎年金の受給資格がなく現在資格期間を満たす為に任意加入中であれば、今回の後納制度を利用して過去10年以内の納め忘れた期間について納付することは当然できます。
保険料はいくらか?納付期限は?
過去3年以前の後納保険料を納める場合には、当時の保険料額に加算額がつきます。また、利用する方に複数の未加入期間がある場合には納付する期間については順番があります。後納制度を使って納付する場合には最も古い分から納めていただくことになります。一部免除を受けたにもかかわらず、免除を受けていない分の残りの保険料を納付していない場合には、一般の未納期間と同じように1ケ月分の保険料を納付していただくことになります。
平成24年度中の後納保険料額
※平成25年度以降に納付する場合は、加算額がそれぞれ変わります。
また、今回の後納制度は平成24年10月からスタートし、平成24年10月から遡って10年以内の期間を収めていただくことができますが、納付には当然ですが期限(当月末日)が設定されています。具体的にご説明すると平成24年10月に後納の手続きをした方に10年前(平成14年10月分)の未加入期間があり、この未加入分の保険料を、今回の後納制度を使って納付できるのは平成24年10月31日までです。それを超えると納付することはできなくなります。同様に平成14年11月分の未加入期間の保険料を納付できるのは、平成24年11月30日までです。つまり、納付できる期限である過去10年以内という期限は月毎に到来します。
障害給付の納付要件には使えない
後納制度を使って保険料を納付した場合、保険料を納付したとみなされるのはあくまで納付した時点です。過去の未納期間の保険料納付時ではありません。したがって、障害年金や遺族年金を請求する為にはそれぞれ納付要件を満たす必要がありますが、過去に遡って納付要件をみてくれるわけではありません。
たとえば、障害年金の請求をする為には初診日に納付要件を満たしいていることが必要ですが、納付要件とは初診日の属する月の前々月から前1年間に未納期間がないこと、または全期間のうち3分の2以上の期間が保険料納付済期間または免除期間であることとなっています。わかりやすくする為に日ノ本一子さんの例で考えてみましょう。日ノ本一子さんはうつ病で現在会社を休職していますが、精神疾患でも症状によっては障害年金を受給できるという友人の話を聞き、今年の6月のある日に年金事務所に相談に行きました。そこで、年金事務所の職員の方から、あなたの場合、初診日に納付要件を満たしていないので、請求できないといわれました。その後、今回の後納制度ができたという話を聞いた日ノ本一子さんは、この後納制度を利用して未納期間の保険料を納付すれば事後重症(認定日に障害の状態が国が定める障害等級に該当していなくても、その障害の状態が重くなった場合に障害年金の請求ができます。この年金のことを事後重症の障害年金といいます。)の障害年金が請求できるのではないかと考えましたが、皆様、一子さんは今回の後納制度を利用して、過去の未加入の期間の保険料を納付すれば、障害年金を請求できるでしょうか?答えは残念ながら一子さんは障害年金の請求をすることはできません。なぜならば、障害年金の納付要件をみるのは、あくまで初診日現在での納付状況をみるわけで、今回の後納制度で過去の未加入期間分を納付したとしても、保険料を納付したとみなされるのは始めに説明した通り、後納の手続きを行い実際に保険料を納付した時点です。したがって、残念ながら日ノ本一子さんが後納制度を利用して保険料を納付しても、老齢基礎年金の納付済期間としてはカウントされますが、過去の初診日の納付要件を満たした扱いになることはありません。
後納制度の手続きを行い保険料を納付する場合は自分の記録を確認した上で行う
後納制度の通知をすでに貰った方もこれから貰う方も同様ですが、後納の手続きを行い保険料を納付する場合には、あたり前のことですが、年金事務所で必ずご自分の加入記録を確認することが必要です。現在の保険料納付済期間や免除期間がどのくらいあるか、また、合算対象期間(昭和61年3月までの被用者保険(厚生年金・共済組合)の被扶養者だった期間や外国に居住していた期間や平成3年3月までの20歳以上の学生の期間等)がどのくらいあるかを確認し後納保険料をどのくらい納める必要があるか、また、20歳から60歳未満(資格期間を満たしていない70歳未満も含む)の人については、今後のご自分の加入の仕方についてもよく検討して手続きを行うようにしてください。
最後に事例をあげてみなさんで考えてみましょう。
須梅津理男(54歳、昭和33年5月生まれ会社員)さんの例です。津理男さんは現在障害年金の3級を受給しながら会社に勤務しています。大学を卒業後会社に25歳で就職し、44歳の時に自分で事業を起こしましたが、47歳の時に交通事故にあい障害状態になり、その後現在の会社に50歳で就職しました。自営のあいだは金銭的にも余裕がなく国民年金には加入(免除申請もなし)していません。
津理男さんはすでに25年の資格期間(カラ期間2年+厚生年金23年+免除3年)はありますし、今後も厚生年金に加入すれば老齢基礎(60歳までの期間に応じて、60歳以降の期間は老齢厚生から差額加算として受給))&老齢厚生(在職中の標準報酬に応じて)とも年金額は増額されることになります。未加入分の保険料を今回の後納制度を使って納付すれば、それだけ65歳から受給する老齢基礎年金を増額することができます。また、津理男さんは障害者特例にも該当しますので、特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分の受給年齢(63歳)に在職中(社会保険喪失)でなければ、定額部分も一緒に受け取ることができます。現在金銭的に余裕があるのであれば、未加入分を納付することもいいですが、もし、不幸にして現在の障害が重篤になったときや、別の障害が発生し障害の程度が2級以上になったときには結果的に収めた分の保険料が無駄になるということもありえます。なぜならば、障害年金2級以上の方の場合、障害基礎年金を受給できますが、60歳から65歳からの間は障害給付(障害基礎+障害厚生)か老齢給付(特別支給の老齢厚生年金)のどちらかを選択して受給しますが、65歳以降は障害基礎+老齢厚生という選択受給をすることができるからです。老齢か障害かはあくまでご本人の選択ですから、一概に有利・不利ということはないですが、加入記録や受給する年金によって人それぞれで違ってきますので、とにかく年金事務所で相談され、よく考えて納付について決めていただければと思います。
最後に
税と社会保障との一体改革が成立し、平成27年10月から消費税の税率引き上げを条件にして、国民年金の加入資格期間が25年から10年に短縮されることが決まりましたが、実施されるのはまだ先の話ですし、あくまで消費税の税率引き上げが前提条件です。現在の経済状況のなかで消費税の税率を引き上げることには異論もありますが、増大する社会保障費を維持していくためにはやむを得ない措置かとも思います。
しかしながら、10年で年金がもらえるといっても10年分以上の年金がもらえるわけではないと想像できます。国民年金を25年(300月)納付した場合の老齢基礎年金は年額491,600円(786,500円×300月/480月)です。これが10年(120月)ならば年額196,600円(786,500円×120月/480月)です。老齢基礎年金だけで65歳以降の生活を維持することは厳しいのは間違いありません。一方で厚生年金の支給開始も男性の方の場合、平成25年度からは61歳からになります。度々このコラムでも書きましたが、多額の財産や65歳以降も一定の収入を得ることができれば心配はないかもしれませんが、人間いつ体の不調がでるとは限りませし、資産も使えばなくなります。老後の生活をすべて依存することはできないかもしれませんが、いざというときに困らないように手続きはきちんと行っていくようにしていただければと思います。