2018.08.21
「れいこ先生のやさしい年金」(10)「60歳以降働いて大きく年金額が増えるケースはこれ!!」
前回は、60歳以降働く人が支払う厚生年金の保険料が、いつ、どのように年金に反映するかについてお話しました。それに引き続き今回は、60歳以降再雇用されている二人の女性の事例を紹介します。同じ条件で働くのに、二人の65歳からの老齢厚生年金の増加額は、約10万円も差が付きます「えっ、どうして?!」と思う方は是非今回のコラムを読んで下さい。あなたの年金も大幅アップのケースに該当しているかもしれません。
【事例】
ミチコさんとノリコさんは、現在64歳で特別支給の老齢厚生年金を受給しています。二人とも独身です。それぞれの60歳時点の年金加入期間は次のようになっています。
国民年金第1号被保険者 | 厚生年金 | |
---|---|---|
ミチコさん | 20歳~39歳の間に190月納付済 | 262月(39歳~59歳11ヵ月) |
ノリコさん | なし | 480月(20歳~59歳11ヵ月) |
年金額は次の金額です。ミチコさんとノリコさんは、厚生年金の加入月数、給料等の平均値が違うため、年金額も異なります。
報酬比例部分 | 定額部分 | |
---|---|---|
ミチコさん | 52万円 | 42万5,750円 |
ノリコさん | 90万円 | 78万円 |
二人とも60歳からは再雇用(厚生年金加入)されていて、年収240万円で働いています。65歳まで働く予定です。
1.ミチコさんとノリコさんが現在まで受給してきた年金と65歳から受給する年金を図にしてみましょう。年金額は違いますが、受給のスタイルは同じです。
ミチコさんとノリコさんが現在受給している年金は、特別支給の老齢厚生年金(図A①と②)ですが、この年金はそれぞれが65歳になると失権し、65歳から新たに老齢厚生年金(図A③-1と③-2)と老齢基礎年金(図A④)の受給権が発生します。新たに発生する老齢厚生年金の内訳は、報酬比例部分(図A③-1)と経過的加算額(図A③-2)になっています。
なお、新たに発生する年金の請求手続は、65歳到達月の月初めまでに日本年金機構からハガキの年金請求書が届きますので、これに必要事項を記入して返送するだけで完了します。
2.ミチコさんとノリコさんが、60歳から65歳までの間に支払った厚生年金の保険料はどうなるのですか?
二人は、60歳から再雇用で引き続き働いていますが、65歳で退職する予定です。60歳以降に支払っている厚生年金の保険料は、現在受け取っている報酬比例部分と64歳から受け取っている定額部分には反映されていません。では、いつ反映されるのでしょうか?
現在受け取っている特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分(図A①)は、二人が59歳11カ月までの間のそれぞれの給料等の平均値と厚生年金の加入月数を使って計算されています。64歳から受け取り始めた定額部分(図A②)も同様に、それぞれが59歳11カ月までの間の厚生年金の加入月数を使って計算されています。
60歳以降納めている保険料は、今の段階では年金額に反映していませんが、65歳で退職予定ですので、65歳に到達した日の属する月の翌月から増額した年金を受け取ることになります。(年金額の改定についての詳細は、5月のコラム(9)年金額の改定「1.年金額の改訂のタイミングはいつ?」をご参照下さい。)
3.65歳からの年金額はどのようになりますか?
(1)報酬比例部分の金額
報酬比例部分の額には、60歳以降に納めた厚生年金の保険料が反映するので、65歳になると年金額は増額します。二人の給料と60歳以降の厚生年金の加入月数が同じになるので、増額年金も同じ金額になります。
ミチコさんとノリコさんの年収は240万円でしたので、平均月収を20万円、60歳以降の年金加入月数を60月として報酬比例部分の増加を試算すると次のようになります。
(計算式の詳細については、5月のコラム(9)年金額の改定をご参照下さい。)
増額分=平均月収×再評価率×5.481/1,000×60歳以降の加入月数
=20万円×0.945×5.481/1,000×60月
=20万円×O.OO518×60月
=62,160円(年額)
それぞれの65歳からの報酬比例部分の額は、次のようになります。
65歳からの老齢厚生年金の報酬比例部分 | |
---|---|
ミチコさん | 52万円+6万2,160円=58万2,160円 |
ノリコさん | 90万円+6万2,160円=96万2,160円 |
(2)経過的加算の額
現在ミチコさんとノリコさんは、特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分(図A①)に加えて、定額部分(図A②)を受給しています。定額部分に相当する額は、65歳到達後は老齢基礎年金(図A④)として支給されます。
しかし、すべての厚生年金の期間が老齢基礎年金に反映するわけではありません。20歳未満と60歳以降の厚生年金加入期間は、老齢基礎年金に反映しません。そこで、老齢基礎年金に反映しない厚生年金の加入期間は、老齢厚生年金の経過的加算額として加算されることになっています。(経過的加算額の詳細については、5月のコラム(9)年金額の改定をご参照下さい)
◆ミチコさんの経過的加算額
ミチコさんには、60歳以上65歳未満の厚生年金の期間(図B③)があります。この期間は報酬比例部分にはすべて反映しますが、老齢基礎年金には反映しません。しかし、ミチコさんのように厚生年金の加入期間が480月未満の場合は、480月に達するまでの月数については経過的加算額として年金額に反映します。
ミチコさんの経過的加算額
=1,625円×322月-779,300×262月/480月
=523,250円-425,368円
=97,882円/年
◆ノリコさんの経過的加算額
ノリコさんの厚生年金の期間のうち、20歳から59歳11ヵ月までの間は保険料納付済期間となり、老齢基礎年金に反映し(図C参照)、満額の老齢基礎年金を受給することができます。
経過的加算額は、厚生年金の被保険者月数が480月の上限を超えるため図C③の期間は反映しません。定額部分と老齢基礎年金の差額700円/年のみの加算になります。
ノリコさんの経過的加算額
=1,625円×480月-779,300×480月/480月
=78万円-77万9,300円
=700円/年
それぞれの経過的加算額は次のようになります。
65歳からの老齢厚生年金の経過的加算部分 | |
---|---|
ミチコさん | 9万7,882円 |
ノリコさん | 700円 |
二人の経過的加算額を比較してみると、ミチコさんはノリコさんよりも9万7,182円多く加算されます。二人が支払った5年間の保険料は同額で、報酬比例部分についての増加額は同じですが、経過的加算額で大きな差が生じました。
ノリコさんの事例からわかるように、経過的加算額に反映するのは480月までの厚生年金加入月数ですので、480月を超えて厚生年金加入を伸ばしても、年金の増額は、報酬比例部分のみとなります。
4.大きく年金がアップするのはどのようなケースですか?
以上のことから、大きく年金額がアップするのは、60歳時点で厚生年金の被保険者月数が480月に満たない人が、60歳以降厚生年金に加入した場合と言えます。
60歳時点で厚生年金の被保険者月数が480月に満たない人とは、具体的には20歳から60歳の間に、次のような期間がある人です。
・国民年金の加入期間( 第1号被保険者・第3号被保険者)がある人
・国民年金の未納期間がある人
・就職が20歳以降の人
・転職等で年金加入の空白の期間がある人 等
また、大きくアップするケースに該当するのかどうかは、50歳以上の人はねんきん定期便でも確認できます。
年金見込額の老齢基礎年金の金額を見て下さい。779,300円に満たない人は、60歳以降厚生年金に加入することで大きく年金額をアップすることが可能です。
60歳以降の再雇用等では、給料やボーナスが低い場合が多いので、給料等に比例する報酬比例部分の増額については大きな期待はできません。しかし、下記の計算式で計算した金額が経過的加算として増額します。なお1,625円を定額単価といいますが、この金額は給料の額に関わらず同じです。
1,625円×60歳以降の厚生年金加入月数(/年)
さらに、厚生年金は70歳まで加入することができます。ミチコさんの場合、65歳時点での厚生年金の加入月数は362月ですので、70歳までの5年間を厚生年金に加入しても422月にしかならず、480月未満です。
そのため、70歳時点で1,625円×60月=97,500円が、さらに経過的加算額に加算されます。もちろん報酬比例部分も増額します。
60歳以降働くことには、現金収入があることと老齢厚生年金の報酬比例部分が増えるという2つのメリットがあります。しかし、60歳時点で厚生年金の加入期間が480月に満たない人については、この2つのメリットだけではなく、さらに厚生年金の加入期間が経過的加算額に反映し、退職後の年金額が思いがけずアップするというメリットがあります。厚生年金の加入期間が短い人にとっては、知っておきたいラッキーな仕組みだと思います。