法律コラム

2022.03.22

所有者不明土地について③

新型コロナウイルスのオミクロン株の感染拡大は、ようやくピークを越えた様ですが、皆様はいかがお過ごしでしょうか。
さて、今回は、前回に引き続き、最近問題となっている「所有者不明土地の問題」を解決するための対策として創設された、相続土地国庫帰属制度についてお話ししたいと思います。

所有者不明土地について

Q1.相続土地国庫帰属制度とは、どの様な制度ですか。

A1.相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限られます。)により土地の所有権を取得した相続人が、法務大臣に対して、その土地を手放して所有権を国庫に帰属させることの承認を求める申請ができる、という制度です。
先日、令和5年4月27日に施行されることが決まりました。

Q2.何故その様な制度が新しく設けられたのですか。

A2.少子高齢化等の社会情勢の変化に伴い、相続によって土地を取得したものの、その土地を手放せるのであれば手放したいと考える人が増えています。
また、相続によって土地を取得した相続人が、その土地から離れた地方に居住している様な場合には、土地の維持の負担のみが増える結果となりかねません。
しかし、現在の法律では、一度取得した土地の所有権を譲渡や相続によって「移転」することは認められているのに対し、その様な方法によらずに、一度取得した所有権を「放棄」することは認められていません。そのため、相続登記の手続がとられずに放置され、所有者不明土地を生み出す原因の一つとなっていると言われています。
そこで、相続又は遺贈により土地の所有権を取得した相続人が、その取得を希望しない場合に、その土地の所有権を国庫に帰属させる(国に引き取ってもらう)制度が設けられることになったのです。

Q3.どの様な土地でも、国庫帰属の申請をすれば承認されるのですか。

A3.そうではありません。
通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する、次の様な土地に該当しないことが必要です。大まかに申しますと、次の通りとなります。
(1)建物のある土地
(2)通常の管理又は処分を阻害する工作物、車輌、樹木等がある土地
(3)担保権(抵当権、根抵当権等です。)又は使用及び収益を目的とする権利(地上権、地役権、借地権等です。)が設定されている土地
(4)通路その他の他人による使用が予定される土地として政令(詳しい内容は、今後制定されることになります。)で定めるものが含まれる土地
(5)崖(勾配や高さについては、今後政令で定められることになります。)がある土地
(6)有害物質による土壌汚染や、除去する必要のある埋設物がある土地
(7)境界が明らかでない等、権利関係につき争いがある土地
これらのいずれかに該当すると、国庫帰属の申請は承認されません。

Q4.具体的な手続は、どの様な流れになるのでしょうか。

A4.まず、相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限られます。)により土地を取得した者が申請をします。
但し、複数の相続人が共同で相続した場合は、その共同相続人全員で申請する必要がありますので、注意が必要です。
次に、申請内容につき、法務大臣(法務局)による審査が行われ、国庫帰属が承認されるか否かが決まります。
最後に、国庫帰属が承認された後、申請者が、「10年分の土地管理費相当額」を、負担金として納付します。

Q5.この制度の問題点としては、どの様なものが考えられるでしょうか。

A5.A1.で申し上げました通り、施行は令和5年ですので、現時点での情報から分かる範囲でしか申し上げられませんが、次の様になります。
(1)A3.で申し上げました相続土地国庫帰属法の定める要件に1つでも該当すると、国庫帰属の申請は承認されません。
(2)法務大臣(法務局)の審査に当たり、実地調査が行われることになると、その調査に協力しなければなりません。
   そして、この調査に正当な理由なく協力しない場合には、申請が却下されることがありますし、調査を妨害した場合の罰則も規定されています。
(3)申請者は、審査手数料の他、A4.で申し上げた負担金を納付しなければなりません。
   この負担金は、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出することになっており、その詳細は今後政令で定められることになります。
   ご参考までに申しますと、法務省のホームページの相続土地国庫帰属制度の記載によれば、国有地の現在の標準的な10年分の管理費用は、原野で約20万円、市街地の宅地で約80万円とされています。
   従って、10年分の土地管理費相当額は、恐らくこの程度の金額になると思われますが、申請者は、審査手数料に加えて、この土地管理費相当額の金額を負担しなければならないことになります。

以上からしますと、まだ施行されていませんが、相続や遺贈によって取得した土地の国庫帰属が認められるハードルは高いと言えるでしょう。

最後に、前回のコラムでお話ししました、相続登記の義務化について、先日、令和6年4月1日から施行されることが決まりましたので、お知らせ致します。

次回も、引き続き所有者不明土地の問題の解決の対策についてお話ししたいと思います。
皆様、くれぐれもご自愛下さい。

司法書士
渡辺 拓郎
渡辺拓郎事務所 代表
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