法律コラム

2023.10.17

公正証書遺言作成にあたっての注意点

酷暑の夏がようやく終わり、10月に入って朝晩に涼しさを感じられる様になりましたが、読者の皆様は、いかがお過ごしでしょうか。夏の間に体調を崩された方もおられたのではないでしょうか。
さて、公正証書遺言については、バックナンバー 2012.1.26のQ2.A2.において、その作成手順について説明させて頂きましたが、私の事務所においても、公正証書遺言の作成のご相談が増えています。そこで、今回は、公正証書遺言を実際に作成するにあたって問題となり得る色々なケースについて、考えて参りたいと思います。

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Q1.私の母は、頭はしっかりしており、公正証書遺言を作りたいと言っているのですが、数年前に足を骨折して以来、寝たきりになってしまい、現在は特別養護老人ホームに入居しています。
公正証書遺言を作るには、公証人役場まで行かなければならないと聞きましたが、母のような寝たきりの場合は、どうなるのでしょうか。また、証人が2人必要とも聞きましたが、誰でも証人になれるのでしょうか。

A1.公正証書遺言を作るには、公証人役場まで出向かなければならないのが原則です。
しかし、遺言者が出向けない場合には、公証人役場に頼んで、公証人に遺言者の居所まで出向いてもらって、公正証書遺言を作ることもできます。
また、証人は、成年の者2人以上と民法で規定されていますが、成年であれば誰でもなれる訳ではありません。
民法では、遺言者の推定相続人、その配偶者及び直系血族、受遺者、その配偶者及び直系血族は、証人になることができないとされています。推定相続人とは、相続人となることが予定されている者であり、受遺者とは、遺言で相続財産をもらうことになっている者です。これらの者は、相続について利害関係がありますので、証人になれないことになっています。また、証人には第三者的な立場が要求されていますので、公証人の配偶者や公証人役場の職員も、証人になることができないとされています。
ですから、お母様の身内の方は、証人にはなれませんので、入居されている特別養護老人ホームの職員の方にお願いされてみては如何でしょうか。どうしても証人のなり手がおられない場合は、司法書士等の専門家に依頼されるか、公証人役場で相談されるとよいでしょう。

Q2.①私の父は、公正証書で遺言を作りたいと考えていますが、3年前に食道ガンの手術を受けた際に声帯を摘出したため、声を出すことができません。
公正証書遺言を作成するには、公証人の前で遺言の内容を話さなければならないと聞きました。声を出せない父は、公正証書遺言を作って頂くことはできないのでしょうか。
②私は、公正証書遺言を作りたいのですが、耳が聞こえません。
公正証書遺言を作成するには、公証人の前で遺言の内容を話して、読み聞かせを受けることになっているそうですが、私の様に耳が聞こえない場合は、公正証書遺言を作って頂くことはできないのでしょうか。

A2.確かに、公正証書遺言を作成する際には、遺言者は、遺言の内容を口頭で話して、公証人に聴いてもらうことが必要となります。少し難しい言い方になりますが、これを口授(くじゅ)といいます。そして、公証人は、口授の内容を筆記して、遺言者と証人に読み聞かせて、確認をすることになります。
民法では、この「口授」と「読み聞かせ」が、公正証書遺言の要件とされています。従来は、民法には、「口授」と「読み聞かせ」についての規定は、これだけしかありませんでした。ですから、①のケースの様に口授ができない口のきけない人や、②のケースの様に読み聞かせを受けられない耳の聞こえない人は、公正証書遺言を作成することができなかったのです。
しかし、これでは、口のきけない人や耳の聞こえない人が公正証書遺言の制度を利用できなくなってしまい、妥当ではありません。
そこで、民法が改正され、平成12年からは、口のきけない人や耳の聞こえない人でも、公正証書遺言を作成できる様になりました。
現在では、口のきけない人でも、自書できる人は公証人の前で遺言の内容を自書して、筆談の形で公正証書遺言を作成できる様になりましたし、自書できない人でも、通訳人の通訳を通じて申述することによって、公正証書遺言を作成できる様になりました。また、耳の聞こえない人のために、読み聞かせに代えて、通訳人の通訳や閲覧によって、筆記された内容が遺言の内容と合っているかを確認できる様になりました。
従って、①及び②のいずれのケースにおいても、公正証書遺言を作成することができます。

Q3.私の母が、公正証書で遺言を作っておきたいと言いますので、先日、公証人役場に母を連れて行き、公正証書遺言を作って頂きました。証人には、母の親しい友人と、母が日頃頼んでいる訪問介護のヘルパーさんにお願いしました。
ところが、公証人が遺言を作成されている時に、ヘルパーさんの携帯に電話がかかってきたため、ヘルパーさんが席を外された時間がありました。
この場合、公正証書遺言は有効でしょうか。

A3.民法では、証人2人以上が立ち会うことを、公正証書遺言の要件としています。
これは、

  1. ①遺言者が間違いなく本人であり、人違いではないこと。
  2. ②遺言者が有効に遺言できる精神状態であること。
  3. ③遺言者の真意に基づいた遺言が作られたこと。

を証明するために要求されています。
また、公証人が職権を濫用することを防止するためのチェックをする存在としての役割も、証人に求められていると考えられています。
そうしますと、証人は、公正証書遺言を作成している時には、最初から最後まで、その全行程において立ち会わないと、証人としての役割を果たせないと言えます。
実務においても、公証人が遺言者から聴き取った遺言の内容を遺言者に読み聞かせて確認する時には証人が立ち会っていたが、その前段階の、遺言者が遺言したい内容を話して公証人に聴いてもらう時には証人が立ち会っていなかった、というケースにおいて、民法の定める手続に違反するとして、公正証書遺言を無効とした裁判例があります。 しかし、他方で、口授と遺言者への読み聞かせが終わり、遺言者の署名も終わったところで、遺言者が印鑑を忘れてきたことが判明し、約1時間後に再度読み聞かせの確認をして押印したが、その時には証人が1人しか立ち会っておらず、もう1人の証人はその直後に公証人から完成した遺言を示されて遺言者の押印を確認した、というケースにおいて、押印の段階で遺言者が遺言した内容を変えたり、遺言者の真意に基づかない遺言が作成されたりした事実がないと認められる場合には、民法の定める手続には違反しているが、公正証書遺言を無効としなければならない程度のものではないとして、公正証書遺言を有効とした最高裁判所の判例もあります。

従って、証人がその役割を果たすためには、公正証書遺言を作成している時には、証人は始終立ち会っていなければならないことになりますから、Q3のケースでは、ヘルパーさんが公正証書遺言作成のどの段階で席を外されたのかによって、公正証書遺言が無効となる可能性があると考えられます。
証人として立ち会われている間は携帯電話の電源を切る等、最低限のマナーは必要となるでしょう。

それでは、皆様、次回のコラムもどうぞお楽しみに。
体調を崩されない様、くれぐれもご自愛下さい。

司法書士
渡辺 拓郎
渡辺拓郎事務所 代表
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