法律コラム

2024.02.20

相続人がいない場合の手続きについて①

本年は、元旦早々に北陸地方を大地震が襲うという衝撃的な始まり方となりました。被害に遭われた皆様方には、心よりお見舞い申し上げます。
さて、今回は、相続が発生したのに相続人がいない場合に利用できる「不在者財産管理人」と「相続財産管理人」の2つの制度について、考えて参りたいと思います。

Q1.先日、私の父が亡くなりました。
相続人は、私の母、私の兄A、私Bの3人で、相続財産は、父名義の家と土地です。
そこで、相続人3人で遺産分割協議を行いたいのですが、兄Aは、2年前から音信不通となっており、住民票のある住所に宛てて手紙を送っても返信がありません。
この場合、兄Aが不在のまま、母と私Bの2人で遺産分割協議をすることはできるでしょうか。
できないとすると、どうすればいいのでしょうか。

A1.遺産分割協議は、相続人全員が合意しなければ成立しません。
ですから、お兄様が音信不通であるからと言って、そのままでは、お母様とあなたの2人だけで遺産分割協議をすることはできません。
あなたのお兄様は、住民票でご住所は確認できるものの、連絡が取れず、音信不通の状態となって2年とのことですので、その様な場合には「不在者財産管理人の制度」を利用することとなります。
不在者財産管理人とは、家庭裁判所が、行方不明の者の財産を管理するために選任するもので、不在者の財産目録を作成して家庭裁判所に報告することを主たる職務としています。
この財産目録には、不在者に資産がある場合には、不動産であれば土地の地番・地目・地積や、建物の家屋番号・種類・床面積、預貯金であれば当該金融機関の支店名・口座番号・残高といった情報が記載されます。また、不在者に負債がある場合には、どういう債権者に対してどのくらいの債務を負っているのか、が記載されます。
この不在者財産管理人を選任してもらうためには、不在者の住所地(生活の本拠としていた場所)又は居所地(生活の本拠ではないが相当な期間継続して居住していた場所)を管轄している家庭裁判所に申し立てる必要があります。具体的な手続については、裁判所のホームページをご参照の上、管轄の家庭裁判所にお問い合わせください。
但し、不在者財産管理人は、不在者の財産の管理を主たる職務としていますので、遺産分割協議に当然に参加できる訳ではありません。そこで、家庭裁判所に、不在者財産管理人が遺産分割協議に参加することについての許可を請求し、この許可を得て不在者財産管理人が遺産分割協議に参加できる様にする必要があります。
あなたのケースの場合には、この様な手続が必要となるでしょう。
なお、お兄様が音信不通となっている期間がもっと長く、7年を超えている様な場合には、2018年10月掲載のコラムで申し上げました失踪宣告の手続をとることになります。

Q2.私は、古くからの知人で、先日不慮の事故で亡くなったAさんに、1000万円を貸しておりました。
Aさんは結婚しておらず、子供はいません。また、Aさんのご両親は既に亡くなっており、Aさんの弟であるBさんも、結婚する前に亡くなったとのことで、戸籍上も、子供がいたとの記載は見られないそうです。
この場合、Aさんの相続財産はどうなるのでしょうか。
また、私の債権はどうなるのでしょうか。

A2.このケースのAさんには、配偶者や子供がいませんし、ご両親も亡くなっていますので、兄弟であるBさんが相続人となるところですが、そのBさんも亡くなっている上、Bさんにも子供はいないということになりますと、Aさんには相続人となる人がいない可能性が出てきます。
このままでは、Aさんの相続財産についての適切な処置ができません。
そんなことになるのか、と思われたかも知れませんが、昨今は、晩婚化が進むとともに、生涯未婚率も上昇していますので、今後は、このケースの様な問題が多発することも考えられます。

この様な場合に利用できるのが、「相続財産管理人の制度」です。
これは、相続財産について利害関係がある人は、家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立てることができる、というものです。相続財産について利害関係のある人とは、被相続人の債権者や、被相続人と長年同居して生活の面倒を見てきた人などが該当します。従って、Aさんにお金を貸していたあなたも、相続財産管理人の選任を申し立てることができます。
この申し立ては、相続の開始した地(このケースではAさんが最後に住んでいた住所地となります)を管轄する家庭裁判所に行うことになりますので、具体的な手続については、その家庭裁判所にお問い合わせください。

相続財産管理人は、相続財産を管理し、相続人を捜索し、相続財産を清算する職務を負っています。
そして、相続人の捜索や相続財産の清算の流れは次の様になります。

  1. (1)まず、相続財産管理人が選任されると、家庭裁判所は、相続財産管理人が選任されたことを公告します(1回目の公告)。
  2. (2)(1)の公告がされてから2か月以内に相続人がいることが明らかにならなかった場合には、全ての相続財産についての債権者や受遺者(被相続人から遺贈を受ける人)に対して、その請求をする様に、との公告をします(2回目の公告)。
    この公告期間は2か月以上とされています。
  3. (3)(2)の公告期間中に請求の申出をした債権者や受遺者がいれば、その者に対して相続財産の中から弁済がなされます。
    この弁済によって相続財産がなくなると、以降の手続には進みません。
  4. (4)(3)の弁済がなされても、なお相続財産が残っていて、かつ(2)の公告期間が満了しても相続人がいることが明らかにならなかった場合には、相続人の捜索の公告をします(3回目、最後の公告)。
    この公告期間は6か月以上とされています。
    この公告期間中に相続人として権利を主張する人が現れれば、以降の手続には進みません。
  5. (5)(4)の公告期間中に相続人として権利を主張する人がいなかった場合は、相続人がいないこと(これを「相続人の不存在」といいます)が確定します。
    そして、この期間中に(3)で述べた請求の申出をしなかった債権者や受遺者は、その権利を失い、相続財産が残っていたとしても、弁済を受けられなくなります。
  6. (6)(4)の公告期間の満了後、特別縁故者として相続財産を分与してほしい人は家庭裁判所に申し立てることができます。特別縁故者とは、被相続人と生計を同じくしていた人や、被相続人の療養看護に努めた人など、被相続人の相続人ではないけれども被相続人と特別の縁故関係があった人のことです。
    但し、家庭裁判所が事案ごとに審理しますので、申し立てが認められるとは限りません。また、この申し立ては、(4)の公告期間の満了後から3か月以内にしなければなりません。
  7. (7)(6)の特別縁故者への分与が認められなかった場合、或いは分与が認められた後になお相続財産が残っている場合には、残った相続財産は国庫に帰属することとなります。

この様に、相続人の不存在の確定を経て、最終的に相続財産が国庫に帰属することになるまでには、最短でも13か月かかることになります。

以上からしますと、あなたは、上記の(3)の段階で弁済の請求の申出をする必要があるでしょう。

なお、相続人の不存在については、他にも問題となるケースがありますので、それについては、次回にお話ししたいと思います。

司法書士
渡辺 拓郎
渡辺拓郎事務所 代表
一覧に戻る

わからないことがある方

よくあるご質問

ポスタルくらぶサービスセンター

 03-3497-1555

受付時間 9:00~17:00(月~金、祝日除く)

会員の方

ログインして
会員限定サービスを利用する

お電話でのお問い合わせは会員カードに記載のフリーダイヤルへお問い合わせください。

会員カードのご案内

会員の方へ

※お電話でのお問い合わせも承っております。会員専用電話番号は会員カードにてご確認ください。