法律コラム

2024.06.18

相続人がいない場合の手続きについて②

6月に入り、蒸し暑くなってまいりました。体調管理が大変ですが、皆様、いかがお過ごしでしょうか。
さて、今回は、前回お話させて頂きました、相続人の不存在について問題となるケースについて、下記の2つの場合に分けて考えて参りたいと思います。

Q1.私(A)は、Bさん、Cさんと3人で、1筆の土地を、各々3分の1の持分割合で共有していました。
ところが、この土地を売却しようと3人で相談していたところ、先月末に、Cさんが急病で亡くなってしまいました。急病ということで、遺言も作っていなかったそうです。
Cさんは独身で、子供はいませんでした。また、ご両親は既に亡くなられており、自分は姉と2人兄弟だったが、その姉は結婚しないまま去年亡くなった、と聞いていました。
そうすると、Cさんの相続人はいないことになりますが、土地のCさんの持分は、どうなるのでしょうか。

A1.不動産の共有者が亡くなっても、その共有者に相続人がいれば、相続の手続きは通常と同じであり、共有者の相続人が不動産の共有持分を相続することとなりますから、不動産は、従来の共有者と亡くなった共有者の相続人が共有することとなります。
では、このケースのように、亡くなった共有者に相続人がいない場合には、どうなるのでしょうか。

この問題は少々難しいですが、出来るだけ分かり易く説明に努めますので、お付き合い下さい。
この点について、民法第255条は、共有者の1人が死亡して相続人がいないときは、その共有者の持分は他の共有者に帰属する、と規定しています。
これによれば、Cさんの持分は、あなた(A)とBさんに帰属するということになりそうです。しかし、そう単純ではありません。
前回のQ2.のA2で申し上げましたように、相続人がいない場合には相続財産清算人(以前は「相続財産管理人」でしたが、法改正により呼び方が変わりました)が選任され、相続人の捜索についての所定の公告がなされたにも拘わらず、相続人として権利を主張する人が現れなかった場合に、民法第958条の3により、特別縁故者(内縁の夫婦が典型例です)に対する相続財産の分与の申立てができることになっています。
そのため、相続人のいない不動産の共有者が死亡した場合の共有持分がどうなるかについて、民法第255条と民法第958条の3のどちらが優先するのか、条文を見ただけでは明らかにならないからです。

この問題点について、最高裁判所は、平成元年11月24日に、次の通り、民法第958条の3の方が優先すると判示しました。
「共有者の1人が死亡し、相続人の不存在が確定し、相続債権者や受遺者に対する清算手続きが終了したときは、その共有持分は、他の相続財産とともに、民法第958条の3の規定に基づく特別縁故者に対する財産分与の対象となり、右財産分与がなされず、当該共有持分が承継すべきもののないまま相続財産として残存することが確定したときにはじめて、民法第255条により他の共有者に帰属することになると解すべきである。」
従って、このケースでは、先に民法第958条の3が適用されることとなります。
そして、

  1. ① 相続債権者や受遺者がおらず、内縁関係の夫婦といった特別縁故者に対する財産分与もなされなかった場合
  2. ② 相続債権者や受遺者がおらず、特別縁故者に対する財産分与がなされたものの、共有持分が残存する相続財産として存在していた場合

に初めて民法第255条が適用されることとなり、これらの場合には、Cさんの共有持分は、あなたとBさんに帰属することとなります。

Q2.分譲マンションに1人で住んでいた友人が亡くなりました。
私は、この友人と会う予定となっていた日に、連絡がありませんでしたので、管理会社に連絡して、管理員さんに合鍵で入らせてもらったところ、友人が亡くなっているのを発見したのでした。
この友人は、奥さんと離婚した後は1人でこのマンションに住んでおり、奥さんとの間には子供はいませんでした。
また、この友人の両親は既に亡くなっており、兄弟姉妹もおらず、遺言書も発見されませんでした。
この場合、友人が住んでいたマンションの部屋の所有権はどうなるのでしょうか。

A2.ご友人が亡くなっているのを発見されたとのこと、さぞショックが大きかったかと思います。
しかし、高齢化社会の進行が加速している中、この様なケースは増えており、今後どこにでも起こり得ると思われます。
さて、このケースにおいても、ご友人の方には相続人がいないことになりますが、この方は分譲マンションにお住まいだったとのことですので、Q1の様な通常の不動産とは違った考慮が必要となります。

一棟の建物のうち、構造上区分されている部分であって、独立して住居等の用途に使用できるものを、区分建物といいます。ご友人がお住まいだった分譲マンションの部屋は、この区分建物に当たります。
見た目は、一棟のマンションの中に複数の部屋がある訳ですが、法律上は、各々の部屋が、区分建物として独立して所有権の対象となり、マンションは、敷地上に建っている区分建物の集合体ということになります。
この区分建物の所有者は、マンションの敷地となっている土地を利用できる権利である敷地利用権を、全員で共有しています。敷地利用権は、通常は所有権ですが、地上権や賃借権の場合もあります。

また、通常は、土地と建物は別個の不動産として扱われ、別々に処分することができます。
しかし、区分建物においてこれを認めると、区分建物所有者が、敷地利用権を取得した者から明渡しを請求されることになってしまいます。そのため、区分建物については、上記の敷地利用権のうち、登記された所有権、地上権、賃借権で区分建物と一体として処分される「敷地権」という概念を法律で作った上で、区分建物と敷地権を分離して処分することを原則として禁止するものと定められているのです。これが、区分建物の大きな特徴です。
そして、敷地権の割合は、上記の敷地利用権の持分割合となり、マンションの登記簿謄本の「敷地権の割合」の項目のところに記載されています。たいていは、各区分建物の床面積の敷地に占める割合となっています。

そうしますと、A1で出てきました民法第255条によれば、共有者の1人が死亡したが相続人がいない場合、その共有持分は他の共有者に帰属するとされていますので、ご友人の敷地権の持分は他の区分建物所有者全員に帰属するのではないか、とも思われます。
しかし、上記の敷地権について規定する「建物の区分所有等に関する法律」においては、区分建物については民法第255条を適用しない、と規定しています。適用を認めると権利関係が複雑になるためです。ですから、ご友人の敷地権の持分は、他の区分建物所有者全員に帰属することはありません。

従って、ご友人のマンションの部屋については、前回お話ししました相続人の不存在に関する手続きを経て、特別縁故者に対する財産分与が認められなかった場合には、敷地権と併せて、国庫に帰属することになります。
その結果、このマンションの敷地権については、国が、他の区分建物所有者と共有する、ということになります。
マンションの中に国有の部分があるのか、と違和感を持たれるかも知れませんが、高齢化社会が進んでいる現在、相続人がいないマンションは確実に増えると言えますから、あまり考えたくないことではありますが、今後、皆さんの身の回りでも、この様な事態は起こり得るかも知れません。

それでは、次回のコラムもどうぞお楽しみに。
皆様、くれぐれもご自愛下さい。

司法書士
渡辺 拓郎
渡辺拓郎事務所 代表
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