法律コラム

2024.10.15

共同親権について①

今年の夏は、記録的猛暑であった昨年をさらに上回る酷暑でした。その上、9月に入ってもなお猛暑日が続出するという異常な天候となりました。読者の皆様は、お元気でお過ごしでしょうか。
さて、本コラムでは、これまでにも、民法の重要な改正についてお話しして参りましたが、今年も、5月17日に、共同親権を導入するという重要な民法の改正法案が国会で可決されました。
そこで、今回は、この共同親権について述べてみたいと思います。
司法書士の仕事とは関係ないのではないか、と思われるかも知れませんが、登記する事項を確定するにあたり、その判断材料となることがありますので、関係がない訳ではありません。

Q1.そもそも、親権とはどういうものですか。

A1.親権とは、子どもの利益のために監護・教育を行ったり、子の財産を管理したりする権限であり、義務であるとされています、
親権は、「身上監護権」と「財産管理権」で構成されるものとなっています。
このうち、「身上監護権」は、子どもの監護・保護・養育のためのもので、「居所指定権」、「職業許可権」、「身分上の行為の代理権(相続放棄等を子どもに代わって行う権利です)」に分かれます。

Q2.今回の民放改正は、この親権がどの様に変わったのですか。

A2.これまでは、父母の婚姻中は父母がこの親権を共同で行使しますが、離婚した場合には、離婚後の親権者を父母のどちらとするかを決定し(父母の協議で決定する場合と、家庭裁判所で決定する場合があります)、親権者となった父母の一方のみが親権を行使する、とされていました。これを「単独親権」といいます。
しかし、今回の改正により、離婚後も、離婚前と同様に父母が共同で親権を行使することが認められる様になり、進学先や、不慮の事故や病気についての治療方針といった、子どもの将来に関する事項について、父母が共同して決定することができることになりました。これを「共同親権」といいます。
今回の改正法は、父母の「双方または一方を親権者と定める」とされており、共同親権・単独親権のどちらかを選択することができる形を採っています。
どちらを選択するかは離婚の際に父母が協議して決定することになりますが、協議が成立しない場合には、家庭裁判所で、共同親権・父親の単独親権・母親の単独親権のどれが最も適切かを判断して決定することとなります。

Q3.共同親権が認められることになった背景には、どの様な事情があるのですか。

A3.大まかに言いますと、次の様な事情が考えられます。

  1. (1)親権者でない親と子の関係の問題
    これまでは、一度離婚して子どもの親権者が決定してしまうと、親権者でない親と子の関係が疎遠になってしまうことが多発していました。
    これまでも、離婚後に親権者でない親と子が面会交流する権利は認められていましたが、実際には、親権者となった親が何かと理由を言い立てて面会交流をさせなくする様になる、といった事態も起きています。
    特に、子どもが幼少の場合には、母親が離婚後の親権者とされることが多く、親権者となった母親が面会交流に協力しないために、親権者でなくなった父親が離婚後に何年も子どもと会えなくなるケースが増えているのです。
    そして、「親権者になれないと親子の関係が終わってしまう!」と思いつめた結果、親が子を連れ去ろうとする行動に走ることまで起こり得る様になっています。

    さらに、離婚の際に子どもの養育費について取り決めをしたにも拘わらず、取り決めの通りに養育費が支払われず、遂には支払いが無くなり連絡も途絶する、という事態も多発しているのが実情です。

    この様な親権をめぐる争いが、子どもにとって不幸であることは、言うまでもありません。

  2. (2)夫婦や育児のあり方の認識の変化
    これまでは、父親は外に出て働き、母親は家で子どもの世話をする、というのが当たり前の風潮となっていました。
    しかし、今では夫婦共稼ぎが当たり前の社会となり、育児・家事を夫婦で分担して行う様になってきた結果、離婚後も父母がともに子どもに関わるべきである、という認識に変わってきていると言えます。

  3. (3)国際的な背景
    諸外国では、共同親権が採用されている国が圧倒的に多く、これまでの我が国の様に単独親権を採用しているのは、G20=主要20か国を含む25か国ではインドとトルコしかありません。
    また、国際結婚をした夫婦が離婚した場合に、日本人の親が、他方の親の同意なく子どもを連れて日本に帰国してしまい、他方の親に子どもを全く会わせないケースが増える様になりました。
    この様な「子どもの連れ去り」を防ぐべく、ハーグ条約という国際的な取り決めができ、我が国も2014年にこの条約を締結しましたが、その後もこの様なケースはなくならず、国際的な批判が高まっていたのです。
    今回の共同親権の導入には、この様な国際的な事情も、背景にあったと言えます。

Q4.共同親権が導入されると、どの様なメリットがあるのですか。

A4.次の様なメリットがあると考えられます。

  1. (1)離婚後も、両親が子どもの養育に関わりやすくなりますので、子どもの精神的な安心につながることが期待されます。
  2. (2)離婚後に同居しなくなった親も、親権者ですので、前述の様な面会交流を断られる事態が起こらなくなることにつながり、面会交流が行いやすくなると言えます。
  3. (3)共同親権により、離婚後も、親権者として子どものために養育費を支払わなければならないという責任感が生まれ、養育費の支払義務を負った親が、養育費の支払いに前向きになることが期待されますので、養育費の未払いのケースが減少することが考えられます。

共同親権の導入については、問題点も挙げられています。
この点については、次回にお話ししたいと思います。
それでは、皆様、次回もお楽しみに。くれぐれもご自愛下さい。

司法書士
渡辺 拓郎
渡辺拓郎事務所 代表
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