2025.02.18
共同親権について②
本年は、東北地方で記録的な大雪となる等、全国的に非常に寒い年明けとなりました。また、インフルエンザの感染者も全国で増加していますが、読者の皆様は、お元気でお過ごしでしょうか。
さて、前回の本コラムでは、共同親権の導入という重要な民法の改正について、改正に至った背景の事情や、改正のメリットについてお話し致しました。
そこで今回は、この共同親権のデメリットについてお話ししたいと思います。
Q1.共同親権のデメリットとして、最も問題なのは、どの様な事でしょうか。
A1.最も懸念されているのは、「離婚後も元配偶者のDVやモラハラ、精神的虐待から逃れることができなくなる恐れがある」という点です。
これまでは、離婚が成立すれば、元配偶者のDV等から逃れることができていました。
しかし、共同親権が認められると、子どもの進学先や、不慮の事故や病気についての治療方針等について、元配偶者と協議して同意を得なければならなくなります。
そのため、離婚するまではと思って元配偶者からのDV等に耐え続け、必死の思いで子どもを連れて逃げていても、共同親権が認められると、結局離婚後も依然として元配偶者のDV等から逃れられず、被害を受け続けることになってしまう恐れが懸念されています。
Q2.その他には、どの様なデメリットが考えられるでしょうか。
A2.次の様なデメリットが考えられます。
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(1)子どもに関する決定が遅れる可能性がある
共同親権が認められると、子どもの進学先や不慮の事故、病気の治療方針といった、子どもに関する事項について、父母で協議して決定する必要があります。
しかし、うまく協議がまとまらなければ、決定が遅れる可能性があります。
適切なタイミングで決定できないと、重大な局面で、子どもに不利益な結果になりかねません。 -
(2)離婚後も紛争が継続する可能性がある
単独親権の場合は、離婚の成立によって紛争は終了することとなります。
しかし、共同親権が認められると、子どもの養育方針を父母の協議によって決定することになります。しかし、そもそも父母の間で話し合いがうまくできなくなった末に離婚に至っている訳ですから、共同親権が認められたからと言って、父母の間で子どもの養育方針を協議で決定することは難しいと言えるでしょう。
その結果、離婚後も子どもの養育方針について父母の間で紛争が継続する可能性があるのです。
これが子どもにとって不利益であることは、言うまでもありません。 -
(3)子どもの負担が増える可能性がある
前回のコラムで、共同親権のメリットとして、「離婚後に同居しなくなった親と子どもとの面会交流が行いやすくなる」という点を挙げました。
しかし、離婚後に同居しなくなった親が遠方に住んでいる場合には、面会交流を行うたびに長距離の移動が必要となり、体力や時間の面で、子どもにとって負担が増える可能性が考えられます。
Q3.共同親権のデメリットに対する対応策はあるのでしょうか。
また、その対応策で十分なのでしょうか。
A3.
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(1)今回の改正では、DV等の被害を受けていることが親権者を定める際の考慮事項とされました。そのため、父母の間で協議が成立しない場合、家庭裁判所は共同親権を認めるのが妥当か否かを判断した上で親権者を決定することになります。
そのため、離婚後も元配偶者のDV等から逃れることができなくなる事態は、一応回避できる様に見えます。
しかし、DV等の被害を受けている配偶者が、どなたもDV等の被害を受けた証拠を十分に残せている訳ではありません。特に、モラハラや精神的虐待の証拠は残りにくいと言えます。
その結果、家庭裁判所でDV等が認定されずに共同親権が認められてしまい、前述の懸念事項が発生する、という可能性は残ることになると言えます。 -
(2)前述の「子どもに関する決定が遅れる可能性がある」というデメリットについては、今回の改正で、共同親権が認められた場合であっても、「急迫の事情」があれば一方の親のみが単独で決定できることとされました。
この「急迫の事情」は、民法には明確に規定されていませんが、法務省民事局作成の冊子(法務省のホームページからダウンロードできますので、詳細は法務省のホームページ内で共同親権を検索して、ご覧になって下さい)において、次の様な例が挙げられています。
① DVや虐待から避難する必要がある場合
② 子どもに緊急の医療行為を受けさせる必要がある場合
③ 入学試験の結果発表後に入学手続の期限が迫っているような場合
しかし、これらの例は法務省作成の冊子に記載されているだけで、実際にどの様なケースが裁判で「急迫の事情」と認められるかは、まだ明らかではありません。
そのため、事後的に子どもと同居していない親が、他方の親の決定を裁判で争う可能性が考えられ、その結果、子どもと同居している親が、これを恐れて適切な判断ができなくなる、という懸念が残ることになります。 -
(3)前述の「離婚後も紛争が継続する可能性がある」というデメリットについては、今回の改正で、共同親権が認められた場合であっても、「監護教育に関する日常の行為」については、一方の親のみが単独で決定できることとされました。
この「監護教育に関する日常の行為」も、民法には明確に規定されていませんが、法務省民事局作成の冊子において、「日々の生活の中で生じる監護教育に関する行為で、こどもに重大な影響を与えないもの」をいうと記されています。
また、この日常の行為に該当しないものであっても、上記(2)で述べました「急迫の事情」に該当すれば、一方の親のみが単独で決定できるとされています。
日常の行為に該当する行為としては、この冊子において、次の様な例が挙げられています。
① 食事や服装の決定
② 通常のワクチンの接種
③ 習い事
④ 高校生の放課後のアルバイトの許可
しかし、実際にどの様なケースが裁判で「監護教育に関する日常の行為」と認められるか、まだ明らかではありませんので、上記(2)で述べました懸念が、この点についても当てはまることになります。 -
(4)さらに、他にも懸念されることがあります。
と言いますのは、これらの対応策は、今後の家庭裁判所の判断に委ねられるところとなります。現時点で既に各種の家事事件の他に少年事件をも取り扱っている家庭裁判所の負担がさらに増えることとなる結果、個々の事案を適切なタイミングで適切に判断することが困難となる可能性があるからです。
この共同親権の制度は、来年5月までに施行されることになっていますので、それ以降の裁判例の蓄積に伴い、新たなガイドラインが作られていくと思われます。
それでは、皆様、次回もお楽しみに。くれぐれもご自愛下さい。