2011.01.27
遺言書の活用について
読者の皆様、あけましておめでとうございます。
本年も「暮らしに役立つ法律コラム」をどうぞよろしくお願い致します。今年も皆様に有用な情報を、最近の状況も含めてご提供できれば、と思っております。
さて、今回は「遺言書の活用」について三項目のQ&Aをアップさせていただきます。
Q1:世間で俗にいう遺言(「ゆいごん」と発音される場合が多い)と法律上の遺言(「いごん」と発音される場合が多い)とは、どう違うのでしょうか?
A1:よくテレビ等で、病床の人が臨終の時に家族を枕元に呼んで、「兄弟仲良くせよ」とか「酒、ギャンブルは控えよ」とかのシーンを目にすることがありますが、これらは、文字どおり "遺(死亡に際し残す)言(ことば)" であって、法律上は何の効力もありません。また最近よく耳にする「エンディングノート」は、死後に備えて自分の経歴・思い出や家族へのメッセージ、葬式や供養の方法の希望等を書き留めておくもののようで、広い意味での遺言と言えるのかも知れませんが、これも家族を法的に拘束するものではありません。
法律上の遺言とは、遺言ですることができる行為として民法等で定められているもので、主なものとしては、子の認知、未成年後見人の指定、相続分の指定、遺産分割方法の指定、遺贈、遺言執行者の指定、一般財団法人の設立等があります。法律上の遺言は、民法に定められている厳格な方式に従ってしないと無効になります。
Q2:遺言の仕方(方式)にはどのようなものがありますか?
A2:遺言の仕方には、普通の方式として、
- 自筆証書によるもの
- 公正証書によるもの
- 秘密証書によるもの
の三種があります。他に特別の方式として民法976条以下に定めがありますが、これらが利用されることはほとんどないと思います。自筆証書・公正証書・秘密証書による遺言には、それぞれ次のとおり長所・短所があります。
長所 | 短所 | |
1. |
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2. |
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3. |
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※遺言能力とは、言葉のごとく、遺言を有効にすることができる能力のことですが、一般的には、契約(例えば不動産の売買契約など)を締結したりするような場合に必要な能力までは必要とされておりません。詳しくは、次回の「遺言書の活用」の項にて具体例も含めて触れたいと思います。
最近、書店で自筆証書遺言の作成キットが販売されているのをよくみかけるようになりましたが、これらを購入しなくても、便箋と封筒、筆記具と印鑑があれば自筆証書による遺言は可能です。書き方に関する書物はたくさん出ていますので図書館で本を借りればお金は一切かかりません。ただ、自筆証書遺言には、上に書いたような短所があるので、重要な財産や身分に関する事項についての遺言は、公正証書にしておいたほうが無難です(ただし、それ相応の費用がかかるので、ころころ気が変わる人にはおすすめできませんが・・・)。
ちなみに秘密証書による遺言が作成されることは滅多にないようです。
Q3:私の父親は、老人介護施設で生活しておりますが、昨年認知症が進行したため成年後見の申立をして、私が成年後見人に選任されました。最近になって、父親が「公正証書遺言をしたい」と言い出しました。このような状況下で公正証書遺言を作成することは可能でしょうか?
A3:成年被後見人でも一定の条件を充たせば公正証書遺言を作成することができる場合があります。
例えば、
- 成年被後見人に遺言をする意思があり、その内容を理解していること。すなわち遺言に際して意識が正常に近い状態に回復していることが必要です。
- 公証人に口授(くじゅ)できること。すなわち公証人に口頭で遺言の内容を述べることができなくてはなりません。
- 証人二人以外に、医師二人の立会いが可能であること。すなわち医師二人に遺言ができる精神状態にあることを証明してもらう必要があります。
などの要件を充たせば公正証書遺言を作成できる場合があります。
ただし、公証人によっては、上記の条件を充たしても成年被後見人の遺言書作成を断る人もいますので、最寄りの公証人役場に問い合わせをされてみてはいかがでしょうか。
なお、遺言者本人が公証人役場に出頭することが難しい場合、出張費用はかかりますが、公証人に病院や介護施設に出張してもらって公正証書遺言を作成してもらうことも可能です。
公証人とは、民事に関する公正証書を作成し、私署した証書に認証を与える権限を持つ公務員のことで、公証人が執務する場所を公証人役場といいます。この役場は日本全国で300箇所くらいあります。日本公証人連合会のホームページをこのコラムの最後の【参考】欄に記載しておきますので、ご参考にしていただければと思います。また、司法書士事務所にお問い合わせいただいても、最寄りの公証人役場を紹介してもらえると思います。