2014.03.19
自筆証書遺言について(1)
長く厳しい冬もそろそろ終わりを告げ、いよいよ春本番といった今日この頃ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
ところで、今回は「自筆証書遺言」について考えて参りたいと思います。
Q1.この度、遺言書を作成しようと思っております。公証人役場で公正証書遺言を作成することも考えたのですが、相続人となるべき者に分からないよう、パソコンのワープロソフトで自筆証書の遺言書を作成しようと思います。何か注意点はありますか?
A1:一般的に遺言書を作成する場合の普通方式としては、①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言、の3種類があります。これらの遺言の方式についての長所、短所は、バックナンバー(2011.01.17)のコラムを参考にして下さい。
ところで、本問を考える前提として、「自筆証書遺言とは何か」ということを先に考えてみたいと思います。民法によると、自筆証書遺言とは、遺言者が遺言書の全文、日付及び氏名を自分で書き、自分で印鑑を押して作成する遺言である、と記されています。
即ち、遺言者の筆跡を手掛かりにして、遺言者が、いつ、どんな内容の遺言を記したのかを明らかにする為の方式である、といえます。
そして、この自筆証書遺言を作成する場合には、下記の4つの重要な作成要件があります。
(1)遺言者が遺言の全文を自書すること
(2)遺言者が日付を自書すること
(3)遺言者が氏名を自書すること
(4)遺言者が遺言書に押印すること
さて、以上のことを前提条件として、Q1を考えてみたいと思います。ご質問では、パソコンのワープロソフトを使用して自筆証書遺言を作成したい、とのことですが、その方法で作成された遺言書は上記の要件の(1)に抵触することになり、自筆証書遺言としては無効となります。
自筆証書遺言として有効になる要件としては、遺言者が遺言の全文を自書、即ち、自分の手で書かなくてはならないのです。手の不自由な方は、口や腕で書いてもよいのです。こうすることにより、遺言者の真意を判定することができますし、遺言書の加除変更がしにくくなると考えられるからです。
このほか、機器を使用した遺言書の作成方法と関連して、テープレコーダーやICレコーダーに吹き込んだ遺言も遺言者の肉声を伝えるには便利ですが、これも自筆とはいえませんので、自筆証書遺言として利用することはできません。
ところで、多数の不動産をご所有されている遺言者が、ワープロ打ちした不動産目録を添付して、他の部分は自書して作成された自筆証書遺言も無効な遺言書とされておりますので注意を要します。上記の要件の(1)の全文を自書する、という要件に反しているからです。
Q2.この度、父が死亡しました。そして、自筆証書遺言が発見されましたので、家庭裁判所の検認を経て遺言書を開封しました。すると、「平成〇年〇月〇日」という日付ではなく、「私の還暦の日に記す」という記載がありました。日付の記載されていない遺言書は無効である、ということを聞いたことがありますが、この遺言書は有効なのでしょうか?
A2:有効です。この問題は、A1.で述べました自筆証書遺言の要件のうち、(2)に関連します。日付のない遺言書は無効ですが、これは必ずしも「平成〇年〇月〇日」と記載されていなくても、遺言成立の日が確定できればよい、と考えられています。ですから、「平成〇年の春分の日」とか、「満70歳の誕生日」等の記載のある遺言書も有効です。
それでは、以上と比べ、「平成26年3月吉日」と記された遺言書は有効でしょうか。自筆証書遺言の要件として日付の自書が要求されているのは、いつ作成されたものかが確定的なものでなくてはならず、「吉日」というのは、3月の中にも複数存在する訳ですから、結局、日が特定されていないと言わざるを得ません。
このように、確定的な日付の記載、またはそれが分かるような記載が必要なのは、内容の異なる2つ以上の遺言書がある場合には、後の遺言書がその抵触する部分については有効となる訳ですが、それらの作成の先後関係の判断基準にもなるからです。