2015.09.16
代襲相続について
厳しい残暑が続いておりますが、朝晩に秋の気配が感じられる今日この頃です。皆様、お変わりございませんか。
今年は、真夏から大型の台風が上陸したり、観測史上最大の風速を記録したりで、大変な被害に遭われた方も多いと思いますが、これからが台風シーズンの本番です。皆様に大禍の及ばない事を祈りつつ、今回のテーマに移りたいと思います。
今回は、相続、特に代襲相続(だいしゅうそうぞく)という制度に関してQ&Aを進めて参りたいと思います。
Q1.私(以下「甲」とします)には、亡夫より相続した自宅不動産があり、亡夫との間に2人の子供である乙・丙がおります。また、乙には、丁・戊(甲の孫)の2人の子供がおります。
この様な身分関係に於いて、下記の質問を致します。
①私(甲)の子供の乙・丙の内、乙は既に死亡しておりますが、その場合に甲が死亡した場合には、誰が相続人となるのですか。
又、甲が死亡してからすぐに乙も死亡した場合も、相続人は同一と考えてもよいのでしょうか。
②私(甲)は、3年前に夫と死に別れ、それ以降は一人暮らしをしておりますが、夫の死亡後、長男の乙より度々虐待を受けております。しかし、孫の丁と戊は可愛いので、私が死亡した際に、乙ではなく丁と戊に相続させる方法はありますか。
A1:まず、①についてですが、乙が甲より先に死亡している場合には、相続人は、乙の子供である丁・戊と、丙となります。
相続は、通常は、親が死亡すれば子供が、子供が死亡すれば孫が、という様になりますが、親よりも先に子供が死亡する事も多々あります。
その様な場合に、民法では、親が死亡した際に、その子供が先に死亡していて、その子供に子供(孫)がいればその者が、更にその子供(孫)も死亡している場合にはその子供(ひ孫)が、相続することとしています。
これを代襲相続(だいしゅうそうぞく)といいます。
そして、その場合の法定相続分は、丁・戊が各4分の1、丙が2分の1となります。代襲相続の場合には、代襲相続人の相続分は、本来相続を受けるべき乙の相続分の2分の1を更に乙の相続人の頭数で割った割合になります。ですから、仮に乙に子供が3人いた場合には、3人の相続分は各6分の1となるのです。
しかし、法定相続分に従わず、甲の相続人丙・丁・戊で甲の相続財産たる自宅不動産について遺産分割協議することにより、いずれか1人が単独で相続することも可能です。
次に、①の後段のご質問ですが、これは甲と乙の死亡の時期が近接しているだけで、一般の相続と変わりはありません。
即ち、甲の相続人としては、亡乙と丙となり、亡乙の相続人としては、乙の配偶者及び丁・戊となります。これは通常の相続であり、甲の相続と乙の相続の2つの相続が発生しているのです。
従って、甲の不動産を相続するにあたり、丙・丁・戊で遺産分割するといった事も不可能で、甲の相続と乙の相続を各々別々に処理する必要があります。
これに関連して、数次相続という方法で一括処理できる場合もありますが、これについてはバックナンバー(2013.08.21 Q1.A1.)を参照して下さい。
次に、②に関してですが、代襲相続が認められる場合として、①の子供が親より先に死亡している場合のみでなく、「相続人の欠格」と「相続人の廃除」があります。
「相続人の欠格」とは、相続人たる子供が、被相続人たる親の遺言書を破棄したり改ざんするなど、自己の相続分が多くなる様な違法行為をした場合などで、その者に相続させることが法的観点からも妥当とは言えない事情がある様な場合です。
また、「相続人の廃除」とは、正に、②のご質問の様に、相続人たる子供が被相続人たる親の存命中に虐待を加えたり、重大な侮辱を与えたりした様な場合で、これも相続人に相続させることが妥当とは言えない場合と言えます。
この相続人の廃除は、被相続人が存命中に家庭裁判所に申し立てるか、遺言でする方法によりますが、家庭裁判所の判断は非常に慎重であり、廃除が認められるケースは少ないということを付け加えておきます。
以上のことから、②の回答としては、相続人の廃除を検討されたらどうですか、と一応お答えすることは出来ますが、具体的にはケースバイケースで、虐待の程度等を家庭裁判所が考慮した上で判断を下すことになります。
そして、乙が相続人から廃除された場合でも、乙の子供丁・戊は、甲の相続人となることが可能となるのです。
又、家庭裁判所で相続人の廃除が認められなかった場合には、丁・戊に自宅不動産を遺贈する旨の遺言をされたら如何でしょうか。この場合には、遺留分(※1)という問題があるのですが、丁・戊にあなたの財産の最低一部のみでも承継させることができるからです。
Q2.私(以下「A」とします)は、亡夫より相続した、亡夫の先祖伝来の不動産を所有しております。
ところが、私には亡夫との間に子供はおらず、私の両親もすでに他界しております。
私には、B・Cの兄弟がおりますが、Cは既に亡くなっており、Cには子供Dがおります。
しかし、私の所有している不動産は、亡夫の先代からの伝来のもので、この際、亡夫の弟Eに渡すべきではないかと思っております。
この様なことを将来的に実現させるためには、今私は何をしたらよいのでしょうか。
A2:今あなた(A)が何もされない場合には、あなたの亡夫の先祖伝来の不動産は、あなたの兄弟のB及びCの子供のDが相続人となります。そして、BとDが遺産分割等をしない場合には、法定相続分の各2分の1でのB・Dの共有となります。又、B・Dで遺産分割をして、B又はDの単独相続とすることも可能です。
そして、Dが相続人となるのは、Q1で述べたのと同様に、CがAより先に死亡していますので、代襲相続の発生により、DがAの相続人となるからです。
ところで、本問のケースではありませんが、仮に、Cの相続人たるDもAより先に死亡している場合には、Dの子供はAの相続人となり得るでしょうか。
解答は否です。第1順位の相続人である子供の場合には、A1で述べた様に、孫・ひ孫に代襲相続が適用されますが、第3順位(因みに、第2順位の相続人は親さらには祖父母です)の相続人である兄弟姉妹には、代襲相続は1代しか認められておりません。
従って、CもDもAより先に死亡している場合には、Dの子供はAの相続人になることはできず、BのみがAの相続人となるのです。
さて、本論に戻りますが、図の様な身分関係において、あなたがEに所有不動産を承継させるには、何をしたらよいのでしょうか。
結論から述べますと、今のうちにEに亡夫の先祖伝来の不動産を遺贈する旨の遺言書を作成しておけばよいのです。そうしておけば、あなたの死後にEは完全に先祖伝来の不動産を取り戻すことが出来るのです。何故ならAの第3順位の相続人たるBとDには遺留分はなく、Eに遺贈がなされると、BとDは相続分を主張することが出来ないからです。
又、このケースでは、A1で述べた様な「相続人の欠格」とか「相続人の廃除」といった問題は発生しません。これらの制度は、本来遺留分を有する非行や虐待をした相続人たる配偶者、子供、親等の遺留分を奪うものなのですが、第3順位の相続人である兄弟姉妹には遺留分がありませんので、Eに遺贈する旨の遺言をしておけば、B・Dは何等の相続分を主張することができなくなるからです。
(ことばの説明)
※1 遺留分(いりゅうぶん)
これは、被相続人が、相続財産(遺産)のうちで、相続人のために必ず残しておかなければならない部分のことで、被相続人の自由な処分を制限するものです。
遺留分を受ける権利を有する者は、配偶者、子供、親等であり、兄弟姉妹には、この権利はありません。