2018.10.23
失踪宣告について
皆様、今年の夏は記録的な酷暑となり、健康管理が大変だったのではないでしょうか。
また、豪雨や台風、さらには地震による大きな被害も出ています。被害に遭われた方々には、心よりお見舞い申し上げます。
さて、今回は、「失踪宣告」について、考えて参りたいと思います。
(事 例)
私の弟は、もともと両親と折り合いが悪かったのですが、20年前に両親と喧嘩をして実家を出ていってしまいました。それ以来、全く音信不通の状態で、親類や友人を頼った形跡もないため、どこで暮らしているのか、生きているのかさえも、全くわかりません。
今年の3月に父が亡くなり、父の名義の土地・家屋(実家)の相続手続をしなければならなくなりました。しかし、弟は、住民票では現在も両親と同居していることになっており、父を筆頭者とする戸籍に名前がありますので、このままでは遺産分割協議書を作ることもできません。
Q1.この場合、どのような手続きをすればいいのでしょうか。
A1.民法では、「従来の住所を去って容易に戻る見込みのない者」のことを、「不在者」といいます。あなたの弟さんも、実家を出て行ってから20年も音信不通とのことですので、容易に戻る見込みはありませんから、「不在者」に該当します。
そして、不在者について、①生死が7年間明らかでないとき、または②戦争や船舶の沈没、震災等の死亡の原因となる危難に遭遇して、その危難が終わった後、生死が1年間明らかでないときには、家庭裁判所は、申立てにより、失踪宣告をすることができるとされています。①を「普通失踪」、②を「危難失踪」といいます。
この失踪宣告によって、生死不明の者について、法律上死亡したものとみなす効果が生じます。
従って、このケースにおいても、弟さんについて失踪宣告の申立てをして、弟さんが法律上死亡したものとみなすことによって、あなたとお母様とで遺産分割協議をすることができるようになります。
Q2.失踪宣告の申立ての手続きは、どのようなものでしょうか。
A2.失踪宣告の申立ては、不在者の従来の住所地又は居所地を管轄する家庭裁判所にする必要があります。このケースでは、あなたの弟さんの住民票上の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てるとよいでしょう。
申立人は、不在者の配偶者や、相続人に該当する者、財産管理人、受遺者などの、失踪宣告を求めるにあたって法律上の利害関係を持っている者となります。このケースでは、あなたでも、あなたのお母様でも、申立人となれます。
申立書は、裁判所のホームページで紹介されています記載例をご参照の上、実情に合わせて申立ての理由を記入して下さい。
添付書類は、標準的には、
① 不在者の戸籍謄本
② 不在者の戸籍の附票
③ 申立人の戸籍謄本
④ 失踪を証明する書類
となります(①と③が同一書類の場合は1通で足ります)。
このうちの④については、存在する場合に限り、警察署に出した捜索願の受理証明書や、宛先該当なしで返送されてきた不在者宛の郵便物等を提出して下さい。
また、これらの添付書類では足りないと家庭裁判所が判断した場合には、追加して提出すべき書類を指示されることがあります。
さらに、より詳細な事情を聴き取る必要があると家庭裁判所が判断した場合には、失踪宣告の申立てに至った経緯の説明を求められることもあります。その場合には、指定された日時に家庭裁判所に出向く必要があります。
なお、不在者がいつ失踪したのかについては、家庭裁判所が判断することになりますので、申立人が申立書で特定する必要はありません。
Q3.失踪宣告の申立ての費用は、どのくらいかかるのでしょうか。
また、官報に掲載されるという話を聞いたことがあるのですが、その費用はどこに支払うのでしょうか。
A3.申立ての際に、800円分の収入印紙と、郵便切手が必要となります。
郵便切手は、裁判所によって必要な額や種類・枚数が異なりますので、申立てをされる家庭裁判所に問い合わせて下さい。
また、官報に掲載する費用(官報公告料といいます)は、裁判所からの指示に従って裁判所に納付することになります。だいたい4千数百円程度かかります。
Q4.家庭裁判所に申立てた後の失踪宣告の手続きは、どのように進むのでしょうか。
A4.家庭裁判所での審理の後、「公示催告」という家庭裁判所による公告が行われます。ここで公告される事項は、
① 不在者について失踪宣告の申立てがあったこと。
② 不在者は一定の期間までに生存の届出をすること。
③ ②の届出がない場合には失踪宣告がなされること。
④ 不在者が生存していることを知っている人は一定の期間までに届出をすること。
となっています。
また、本件のような普通失踪の場合は、家庭裁判所が定めた3か月以上の期間にわたって公告されます。
そして、②の届出がないまま公告される期間が満了となった場合には、家庭裁判所は失踪宣告の審判をすることになりますが、その前に、家庭裁判所から申立人に対して照会があります。これは、公告後に、申立人に対して、公告を見た人から「不在者を○○で見かけた」といった連絡がなかったかどうかを確認するためのものです。
この照会に対する回答と不在者の戸籍謄本を家庭裁判所に返送した後に、失踪宣告の審判が送達されます。ここで不在者の戸籍謄本が必要となるのは、公告の後に戸籍の記載が変動していないかを確認するためです。
そして、この審判書の送達後、2週間の不服申立期間を経て、審判は確定します。
失踪宣告の審判が確定しますと、裁判所書記官は、その旨を公告し、失踪者(不在者)の本籍地の市区町村長に通知します。
従って、官報公告は、家庭裁判所による公示催告の公告と、裁判所書記官による失踪宣告の審判の公告の、合計2回行われることになります。
そして、最後に、申立人は、戸籍法に基づいて、失踪宣告の審判確定から10日以内に、失踪宣告の審判書と、審判が確定したことの確定証明書を、不在者である弟さんの本籍地または申立人の住所地の市区町村長に提出して、不在者の失踪届をしなければなりません。
この確定証明書については、家庭裁判所で交付申請の手続きをとる必要がありますが、交付申請の書類は、審判書が送達される際に同封されています。
また、失踪届の必要書類については、各市役所等によって異なる可能性もあります。失踪届を提出できる期間は10日以内と短いですから、あらかじめ失踪届を提出する予定の市役所等に問い合わせておくとよいでしょう。