法律コラム

2013.05.29

贈与と離婚による財産分与の問題について

ゴールデンウィークも終わり、梅雨前のさわやかな季節、皆様いかがお過ごしでしょうか。
さて、今回は、贈与と離婚による財産分与の問題を考えてみたいと思います。

遺言書について1

Q1.先日、私の父親が死亡しましたが、父親の遺産に関し、父の友人より「君のお父さんより腕時計と別荘の贈与を受けた。」という連絡がありました。時計に関しては未だ私の手元にありますが、別荘の不動産登記事項証明書を入手したところ、贈与を原因としてその友人名義になっていました。このいずれの贈与についても書面は作成されていない様です。どうしたらよいのでしょうか。


A1:民法には、書面によらない贈与は、各当事者(あげた人、もらった人)がいつでも取り消すことができる、という規定があります。これは、あげてしまったものは「返してくれ」とはいえないが、まだあげていないものに関しては、贈与契約書等を作成していない場合には、取り消すことができる(即ち、あげなかったことにすることができる)という規定です。 これを今回のケースに当てはめますと、腕時計はあげないことができますが、別荘については、「返せ」ということはできません。

①腕時計について
前述しました民法には、書面によらない贈与は取り消すことができると定められていますが、例外的に履行の終わった部分に関しては取り消せないと定められています。これは、いくら書面によらない贈与とはいえ、当事者(あげた人、もらった人)の間では有効な契約ですから、もらった人が既に自分の物として扱っているような場合には、それを覆して取り戻すことができるとすると、かえって法秩序を害することになると考えられるからです。

これを今回の腕時計に当てはめますと、腕時計についてはあなたがお父さんの遺産として手元に置いている状態ですので、お父さんの締結した贈与契約を取り消して、お父さんの友人への引き渡しを拒否することができます。本来取り消すことができるのは、契約締結者たるあなたのお父さんですが、あなたは贈与者の相続人として取り消すことができるのです。

②別荘について
別荘については、不動産登記事項証明書(謄本)によると、既に贈与を原因としてお父さんの友人名義に所有権移転登記がされている、とのことでした。
これは、①で述べました「履行が終わった」というのが、どのような状態を指すか、という問題です。
土地や建物のことを不動産といい、それ以外の物を動産といいますが、①の腕時計等は動産ですので、お父さんの友人に引き渡されてはじめて、「履行が終わった」ということになります。
これに対し、別荘等の不動産は動かせませんので、どのような場合に「履行が終わった」といえるのかが問題となります。
結論から言いますと、不動産の場合には、「引き渡し」か「所有権移転登記」のいずれかがなされていれば、贈与の履行は終わったとされます。
したがって、別荘に関しては、既に所有権移転登記が完了していますので、履行は終わったとされ、あなたのお父さんの友人に対し、贈与契約を取り消して返却要求をすることはできません。

遺言書について3

Q2.私(甲)は、妻(乙)と昨年協議離婚致しました。妻(乙)の不貞行為が離婚原因です。このたび、乙より財産分与の請求がなされました。その内容は、結婚前より乙が所有していた車及びピアノの引き渡し、さらに婚姻中私がローンを組んで購入した住宅の名義を乙名義に変更せよ、とのことです。乙は、特に仕事はしておりませんでしたが、乙の父より相続した自己名義の賃貸アパートを所有しておりますので、その賃料収入などで相当の額の預金等もあるようです。 私としては、離婚の原因はすべて乙にある訳ですから、財産分与をしたくないのですが、どこまで乙の要求をのむ必要があるのでしょうか。


A2:離婚による財産分与とは、婚姻中にあなたの収入により得たあなた名義の財産でも、配偶者の内助の功を無視することができず、共同で得た財産と考えることができますので、離婚の際には、夫婦共同で得た財産については、その名義を問わず、公平な観点から、相手方に対し分与を請求することができる制度のことです。

ところで、夫婦の財産は、以下の3種類に分けることができます。

(a)夫または妻が結婚前から持っていた財産、ならびに結婚後であっても夫または妻がそれぞれの名で得た財産(例えば、結婚前から持っていた預金で結婚後に購入した物など)

(b)夫婦のうち、どちらのものに属するか分からない財産

(c)結婚後、夫または妻の働きで得た財産

そして、この3種類の財産につき、離婚の際に財産分与請求がされた場合には、次のように考えることができます。

まず、(a)については、夫または妻の独自の財産ですから、離婚の際には、それぞれに帰属すべきものであり、財産分与の対象とはなりません。
ですから、離婚の原因がいずれにあったかは問いません。

次に(b)の財産ですが、これは離婚に際して平等に分ける必要があります。この財産についても離婚の原因がいずれにあったかは問いません。

最後に(c)の財産についてですが、これについては、いずれか一方の名義になっていても、配偶者の内助の功を考慮する必要がありますので、「財産分与」の対象となる場合があります。そして、これについては、離婚の原因が誰にあったかを考慮する必要があります。

以上のことを今回のケースに当てはめますと、次のようになります。

① 車とピアノについては、妻(乙)が結婚前から所有していたものですから、上記(a)の財産となり、そもそも財産分与の対象とはなりません。したがって、あなたの自宅に置かれているのであれば、乙に引き渡す必要があります。
また、乙の父親から相続した、賃貸アパート及びその賃料の口座の預金も、同様のことから財産分与の対象とはなりません。ですから、この不動産の権利証や、賃料入金口座の通帳も、あなたが管理しているのであれば、これも乙に引き渡す必要があるでしょう。

② 次にあなた名義の住宅について、財産分与として乙名義にせよとのことですが、これに関しては、上記の財産の区分では、(c)に当ります。
この財産は、あなたの働きによって得た財産ではありますが、その財産の取得につき、妻の内助の功を無視することはできませんので、財産分与の対象となります。
しかし、財産分与の対象財産であるからといって、この物件の名義を必ず乙名義にしなければならない訳ではありません。乙の方も「甲名義の財産を乙名義にせよ」といきなり請求できるものでもなく、その不動産の名義の2分の1を乙名義にするとか、不動産の名義は変更せず、相当価格を金銭で乙に渡すとか、色々な方法を考えることができます。
この話し合いを甲乙間でまとめることができない場合には、当事者(甲または乙)は、協議に代わる処分を家庭裁判所に請求することができます。この際には、家庭裁判所は「一切の事情」を考慮して、分与させるか否か、ならびに分与の額やその方法を決めることができます。
ですから、本件の場合、離婚原因が乙の不貞行為にあったということも当然考慮されますので、乙への財産分与の額が減らされたり、場合によっては財産分与をしないで済むこともあるでしょう。
また、乙には相当な財産があり、生活に困らないようですので、家庭裁判所の判断により、財産分与が認められない可能性もあります。

司法書士
渡辺 拓郎
渡辺拓郎事務所 代表
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